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いざ義母の健康診断、伏兵は採尿支援 嫁がそこまで!? もめない介護106

曇り空に浮かぶ飛行機
コスガ聡一 撮影

義父母の認知症介護にキーパーソンとしてかかわるようになってから、この春で5年目を迎えます。認知症介護は「そう来たか!」の連続です。認知症になったからといって、いきなり何もかもわからなくなるわけではなく、これまで通りできることもたくさんあります。ゆるやかにできなくなることもあれば、以前はできなかったはずのことが難なくこなせるようになっている姿を目撃し、「一体どうして!?」と仰天することも。

さまざまな制度に助けられることもあれば、手続きの煩雑さに頭を抱えたこともありました。今回ご紹介したいのは、思わぬハードルとなった「健康診断」のことです。

通所介護(デイサービス)や通所リハビリ(デイケア)、ショートステイなど、介護サービスを利用し始める時や老人ホームといった介護施設の入居時に健康診断書が求められます。施設側はこの書類をもとに「施設で対応できる健康状態かどうか」を確認します。また、感染症の有無を確認し、「ほかの入居者に何らかの感染リスクがないか」もチェックします。

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うちの場合は、
(1)通所リハビリ(デイケア)に通い始めた時
(2)義父の緊急入院にともない、義母が介護老人保健施設(老健)に入所した時
(3)義父母がそろって介護付き有料老人ホームに入所する時
の3回、健康診断を受けてもらう必要がありました。

要領も、嫌がらないことも分かって臨んだ3回目

(1)のときはこちらも勝手がわからず、いつ「健康診断なんて受けたくない」「そんな面倒なことをするぐらいだったら、デイなんて行かない!」と義父母の機嫌を損ねないか不安でいっぱい。しかも健康診断を受けたところ、義父の胸部X線検査で肺結核と思われる影があると指摘され仰天。結局、20代前半(!)のころに患った肺結核の治療痕だったことがわかるのですが、ことの次第がはっきりするまでは気が気ではありませんでした。

(2)の介護老人保健施設入所のための健康診断では、義母のみ受診。義父はまだ入院中だったので、お見舞いに行ったついでに入院先で健康診断も済ませてしまうという方法で、難なくクリア。(1)と(2)の提出先は同じ老健で、感染症さえ問題なければ、書類審査で引っかかる心配はないとアタリがついていたので気楽でした。

問題は(3)です。健康診断の要領はわかっているし、義父母が病院をいやがらないことも知っています。疲れが出ないように気をつけながら同行すればOKと思っていたら、思わぬ伏兵が待ち受けていました。それは「尿検査」です。

義父母はそれぞれ足元がふらつくことがあったため、夫が男子トイレ、私が女子トイレと付き添いました。

以前は自分でできていた採尿

義母は、尿検査のための紙コップを持ち、「ちょっと行ってくるわ」と個室に入りましたが、そのまま出てきません。あれ……? 個室の外から「おかあさん、大丈夫ですか?」と声をかけると、歯切れの悪い返事が返ってきます。大丈夫じゃなさそう!

「お手伝いしましょうか」
「大丈夫……なんだけど、水が流れちゃったの」

義母は、紙コップを片手に個室から出てきて、洗面所にまっしぐら。そして、コップを洗い始めました。「洗ったら、もう一回使えるわよね?」
んんん? ちょっと待って待って。どういう状況?

「紙コップ、またもらえるから大丈夫ですよ」と義母が持っていた紙コップを受け取り、ゴミ箱に入れます。義母が言うには「トイレをきれいにしましょう」「アルコールスプレーを使いましょう」と貼り紙を見て、“なるほど”と思い、一生懸命、便座をきれいにしたのだそう。

「ようやく掃除が終わって、ふうっと一息ついたら催してきてね……あ! と思った瞬間には、ジャーッと水が流れたの。パッととろうと思ったんだけれどダメねえ。すくえなかったわ」

金魚すくいみたいな話になっていますが、どうやら「尿が出る瞬間に紙コップを当てる」のが難しかったようです。言われてみれば、けっこう難しい動作なのですが、前回、前々回と特に問題なくできていたので、すっかり油断していました。

看護師さんと再び挑んだものの

トイレから戻ると、夫・義父ペアはミッションクリア。さて、義母のほうをどうするか。

「一緒に個室に入っておけばよかったね」
義父と一緒に個室に入り、尿の採取を介助したという報告とともに、なんの気なしに言われてカッチーン。いや、その通りかもしれないけど、ちょっと待て。男と女では体の構造が違いやしないか。義母の股ぐらに、紙コップを差し入れろと貴兄はおっしゃるのか。悪気のないコメントだとわかっているからこそ、余計に腹が立ちます。

無理! 絶対にイヤ!! 夫にも、もちろん義母にもそんなそぶりは見せず感情を押し殺しましたが、おなかの中は「ノー!」の雨嵐。とてもじゃないけれど自分では対処しきれん!と判断し、看護師さんにSOSすることに。

すぐ来てくれて、「お小水、出そうですか?」と優しく義母に声をかけてくれます。助かった! 義母もホッとした様子で「出るかもしれません」と答え、看護師さんとともに再採取にトライするも、「やっぱり出なかったわ~」とギブアップ。

「少し飲み物を飲んでみましょうか」と看護師さんから助言があり、ペットボトルのお茶を飲みながら、義母の尿意を待つことになりました。

待てど暮らせどやってこない尿意

「早く来ないかしらねえ」
「そうですねえ。でも、あまり焦るのもあれですから、ゆっくりいきましょうか」
「でも、早く来てほしいわねえ」

もともとせっかちなうえ、時間感覚があやふやになりつつあった義母は気がせいて仕方がないようです。それもそのはず、ひと通り検査を済ませた義父が、早く家に帰りたくてうずうずしているのも伝わってくるのです。義父は穏やかでガマン強い人でしたが、認知症の影響もあったのか、そのころには待ちきれずイライラするといった瞬間も時折、見られるようになっていました。

待てど暮らせど、義母の尿意はやってきません。こんなことなら最初から看護師さんにお願いしていれば……。判断ミスを悔やんでも後の祭りです。いよいよ義父はしびれを切らし、さらには夫が「そろそろ次の約束があって……」と言い出しました。そう! 予定があることは最初からわかっていて、ゆとりをもってスケジューリングしたはずが、思わぬ尿検査騒動で時間が足りなくなっていたのです。仕方のないこととはいえ、この状況で離脱するだと!?と、またしてもはらわたグラグラ、煮えたぎる思いです。

救世主現る

しかし、尿意がやってこないことには仕方がありません。万事休すか! と思ったとき、看護師長さんらしき人が足を止め、こう声をかけてくれました。

「おくだを使ってみましょうか」

おくだ……? 意味がわからず、一瞬ポカーンとしてしまったのですが、「導尿カテーテル」のことでした。チューブを使って尿を排出する方法です。「お管」か!

義母がいやがるかなと思いましたが、ご本人は「なんだかよくわからないけど、お願いしようかしら」と興味津々。いそいそと看護師さんの後をついて処置室に行くと、ほどなくご機嫌で戻ってきました。「ぜんぜん痛くなかったわよ~。あっという間!」だったそうです。

やった! 尿検査終了!! これで家に帰れる!!! 数時間で終わるはずの健康診断が結局、半日がかりになってしまいました。考えてみれば、最初の健康診断からこのときまで3年近くが経過しています。前回できたことが、今回もできるとは限りません。そう頭ではわかっていたつもりだったのに! 案外ハードルが高いかもしれない「尿検査」と、看護師さんに相談するという対処法、ぜひ心にとどめておいていただければと思います。

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