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認知症の元恋人に会いに、当事者のフリして施設に潜入!?監督が語る秘話

映画『43年後のアイ・ラヴ・ユー』(1月15日公開)は、認知症により過去の記憶が失われつつある元恋人に思いを伝えるべく、奮闘する70歳男性の姿を描いた物語だ。
米国在住の元演劇評論家のクロード(ブルース・ダーン)は、かつての恋人で舞台女優のリリィ(カロリーヌ・シオル)に認知症の症状が進行していることを知る。もう一度彼女に会いたいと願ったクロードは自身も認知症のフリをして、彼女が暮らす介護施設に潜入する――。
スペイン出身のマーティン・ロセテ監督(40)に作品に懸ける思いを聞いた。

『43年後のアイ・ラヴ・ユー』のマーティン・ロセテ監督

亡くなった祖母が認知症だった

――認知症をテーマにした物語をつくりたいと考えた背景には、どのような思いがあったのでしょうか。

この作品は私にとって長編二作目にあたるのですが、今回はラブストーリーを撮りたいという気持ちがありました。何人かの脚本家の作品に目を通していくなかで、この作品のベースとなる物語に出会い、「これこそが自分が撮りたい物語だ」と強く感じたんです。とてもユニークな物語だと感じましたし、なにより登場人物たちに尊敬の念が向けられているのがとてもいいな、と。

私の亡くなった祖母は認知症当事者として何年かを過ごしていましたし、この作品のプロデューサーの父親も認知症当事者です。なので、彼らやその家族に対し、リスペクトの気持ちを示したいという思いもありました。コメディーの要素も強い作品ではありますが、「どんなときも年長者に対するリスペクトの気持ちだけは忘れてはいけない」と心に留めていました。

『43年後のアイ・ラヴ・ユー』の主人公クロード(左)と、かつてのクロードの恋人で認知症のリリィ(右) ©2019 CREATE ENTERTAINMENT, LAZONA, KAMEL FILMS, TORNADO FILMS AIE,FCOMME FILM . All rights reserved.

「シニアの物語をつくりたい」

――監督は40歳ですが、「老い」や「シニアの生活」というものをどのように理解し、作品に組み込んでいったのでしょうか。

私が初めて短編をつくったのは、19歳のときでしたが、その作品もまたシニアの人生を描いたものでした。自分はなぜこんなにもお年寄りと強い心の結びつきを感じるのだろう、と自分の人生を振り返ってみると、幼い頃からずっと祖父と暮らしていたことを思い出しました。いまも思い出す幼い頃の光景にも、一緒に遊んでくれた祖父の姿があります。「シニアの物語をつくりたい」という気持ちはずっと心のどこかにあったのかもしれません。

映画館で上映される映画のほとんどが、若くて美しい女性を主人公にしたものですが、自分としてはそれだけではつまらないな、という気持ちもあります。20歳までに経験していることと、80歳のお年寄りが長い人生のなかで経験してきたことでは、その中身はまったく違いますからね。

この物語の主人公たちは20代で大きな恋愛をして、その思いを生涯ずっとどこかに持ち続けていた。純粋に素敵だなって思うんです。

――クロードの若い頃の恋の相手である、リリィが暮らしている介護施設には、みんなで映画を観たり、演劇を鑑賞したり、と多様なプログラムが用意されていました。具体的にどのような介護施設を取材し、作品に反映させていったのでしょうか。

介護施設についてのリサーチは行いましたが、同時に認知症を扱ったドキュメンタリーをたくさん見て参考にしました。音楽と記憶を巡るドキュメンタリー映画『パーソナル・ソング』を見たり、YouTubeなどでもリサーチしたりしながら、なるべく多くの作品に触れるようにしました。

なかでも「音楽」が認知症当事者にどのような作用をもたらすのか、という視点は興味深く、脚本段階でも参考にしました。この作品では音楽を「演劇」に置き換えてみたんです。リリィは若い頃からずっと演劇に情熱を注いで生きてきた。彼女がふたたび演劇に触れることで、彼女のなかに変化が生まれるのかもしれない、という思いがありました。

国内では1月15日から新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開される予定。 ©2019 CREATE ENTERTAINMENT, LAZONA, KAMEL FILMS, TORNADO FILMS AIE,FCOMME FILM . All rights reserved.

愛する人が認知症になったら

――監督はスペイン出身ですが、母国の介護や福祉の現場をどのようにご覧になっていますか。

スペインは、おそらく日本と同じように家族のつながりが強い国で、年配の方々を大切にします。高齢者とはできる限り一緒にいよう、とする姿勢があるように見えますね。一般的にも、在宅でのケアが難しくなり、プロのサポートが必要になった場合のみ、介護施設にお世話になるという選択肢が出てくるように思います。

スペインではごくごく当たり前のことですが、家族間のつながりがそこまで深くないほかの国や文化から見れば、珍しいと言えるのかもしれません。

オンラインで取材に応じてくれたマーティン・ロセテ監督

――ご自身や周囲の愛する人々が認知症当事者となった場合、自分はこうありたい、というイメージのようなものはありますか。

認知症当事者となった祖母とは、ひと月に一度しか会うことができなかったのですが、会うたびに自分の知っている祖母ではなくなっていくような寂しさがありました。ですが同時にどこか童心にかえっているような面もあり、心優しい気持ちになったことを覚えています。私自身は、愛する人が認知症になったらできるだけ多くの時間を過ごし、一緒にいたいと思っています。

認知症をテーマにした映画のなかには、つらい部分に焦点を当てた作品も少なくないですが、この作品では自分自身が感じていた優しい気持ち、明るくポジティブな面を感じてもらえたらと思っています。

※1月7日以降に発出された緊急事態宣言の対象エリアでは、公開劇場と上映開始時間が変更になる可能性があります。詳細は公式HPをご覧ください。

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