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26歳と80歳はお友だちでライバル 年齢半減!若見えの秘密【認知症エッセイ】

なかまぁるでは、認知症フレンドリーな取り組みが社会に広がることを願い、今年も「なかまぁるShort Film Contest 2020」を開催しました。今回は新しい試みとして、ショートストーリー部門「SOMPO認知症エッセイコンテスト」を新設しました。認知症の介護のエピソードや親子の絆、感謝の気持ちなど、1329本の応募作品が寄せられました。その中から、編集部イチオシの12作品をお届けします。また、作品は原文の通り掲載しています。

■『26歳と80歳、ともに駆け抜ける青春の日々』河合はつね

「おはよう。今朝の体調はどう? 暑くて体調崩してない?」
わたしの友達は、今年で80歳になる女性です。福祉のボランティア活動を通して出会いました。いつも、わたしのことを細かく気にかけてくれます。親切な人で、自分の友達や家族のお世話をすることも。
彼女の夫は、20年前に亡くなりました。
普段は、近所の老人ホームで他の高齢者と一緒に暮らしています。
「ありがとう、大丈夫!今日の体調は普通だよ」
その言葉に、ニコッと微笑んで、返事をします。普通、逆なんじゃない?と思うかもしれませんが、これがわたしたちの日常です。

認知症のある人は、誰かが手助けをしないといけない。そんなふうに思っている方も多いかと思いますが、それは大きな誤解です。手助けをしてくれることもあるのです。
わたしには、発達障がいがあります。生活や体調のことを気にかけてくれるひとがいるのは、すごくありがたいです。
「わたしはむかし、愛媛に住んでいてねえ。あそこは、坊っちゃん団子が有名なんだ」
彼女は、よく自分が住んでいたところの話をしてくれます。26年しか生きていない、わたしにとっては、たいへん興味深い話です。
「そうなんだ。一度は行ってみたいなあ。 坊っちゃん団子って、どんな味がするの?」
コーヒーを飲みながら、ゆっくり耳を傾けて話を聴きます。
「甘くてふんわり、落ち着いた味がするよ。今度、孫に頼んで持ってくるね」
と、嬉しい言葉が。わたしは、ひととのコミュニケーションが苦手です。
冗談や皮肉、お世辞をそのまま受け取ってしまいます。悪口や噂話も苦手です。
それが原因で、相手とトラブルになることも。でも彼女が話すことは、住んでいたところだったり、食べ物の話だったりで、とても和やかです。だから、安心して話をすることができます。彼女に会うまで、ひとりで誰とも話さず家で過ごすことが多かったわたしですが、
出会ってからは、少しずつ口数が増えました。前よりも、明るく楽しい気持ちになり、
笑顔を浮かべるように。自分の世界に閉じこもっていた頃とは違い、視野も大きく広がりました。彼女と出会って、本当に良かったです。

そんなわたしたちはいま、禁断の三角関係に悩んでいます。26歳のわたしの友達の男の子を、ふたりとも好きになってしまったのです。彼女は、ファッションの研究、メイクの勉 強、ヘアアイロンで巻き髪、可愛くなるために日々がんばっています。見た目はどんどん若返り、80歳ではなく40歳くらいに見えます。わたしも負けじと、ファッションを磨き、メイクをし、美容院で髪を茶色に染め、彼女に対抗しています。意中の彼に、どっちが好きか尋ねると「他に好きな女の子がいる」という悲しい返事が。
でも、勝負はまだまだ、これから。ひょっとしたら、どちらかを好きになるかもしれません。

「禁断の恋の行方、いったいどうなっちゃうんだろう?」
と密かに気になる毎日。恋のライバルができて、毎日が新鮮です。

時には、一緒にお仕事をすることも。彼女は、ハンドメイド素材で手作りのシュシュを作ります。わたしはそれをスマホを使って、フリマアプリで出品します。
毎週土曜日に彼女の家に行き、朝の9時から夕方の16時までお仕事をします。
利益は、一日に5千円。一日家にいて5千円も稼ぐことができるのだから、すごいなあと思います。これからも、共同でお仕事を続けていく予定です。ずっとずっと続く、わたしたちの晴れやかな青春の日々。雲一つない蒼い空のもと、どこまでもどこまでも軽やかに駆けてゆきたいです。同じ時代をともに生きる頼もしいパートナーの手を握って。

■編集部から

26歳と80歳、2人の女性のほほえましい友情物語かと思いきや、終盤であっと驚くエピソードが披露され、まさに起承転結の「転」が効果的に利いた素晴らしい作品です。読みながらすっかり、この2人のファンになってしまい、その後の恋の展開や新作シュシュの売り上げの動向が気になって仕方がありません。

筆者・河合はつねさんの素直な文体に導かれるように、読んでいる人は自然と、「認知症の人」や「高齢の女性」に当てはめがちな固定観念(ステレオタイプなイメージ)を取り去ることができるのではないでしょうか。

青春を謳歌(おうか)する2人の青空は、各地で手を取り合っている様々な立場の人たちが見上げる青空と、きっとつながっていると思います。

■「なかまぁるShort Film Contest 2020」ショートストーリー部門はこちらから

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