認知症とともにあるウェブメディア

なかまぁるクリップ

認知症カフェは誰のため?当事者たちの本音を聞きたい これから会議第5回

11月22日(日)、第5回「認知症カフェこれから会議」が開催されました。いつもと違う14時からの開始ということで、リアルタイムで見逃してしまった方もいたかもしれませんが、ぜひこのレポート記事を読んでからでも録画視聴していただければと思います。
さて今回は「認知症とともにある本人」のみなさんに集まっていただきました。認知症カフェのこれからを考えるうえで、認知症の当事者エキスパートである人々がカフェをどのように位置づけ、考えているのか、対話を通じて新たなコンセンサスを見出していきたいというテーマ設定になっています。

パネリスト

・井上茂子さん(栃木県宇都宮市「オレンジサロン石蔵カフェ」ボランティアスタッフ)
・鈴木洋子さん(栃木県宇都宮市「オレンジサロン石蔵カフェ」ボランティアスタッフ)
・福田人志さん(長崎県佐世保市「峠の茶屋」相談員)
・巻田菊さん(兵庫県豊岡市「認知症カフェひまわり」事務局担当)

プライベートな写真で、まずは自己紹介

まずはみなさんの自己紹介用スライドでひと盛り上がり。今回はみなさんから何枚か写真を送っていただき、私(コスガ聡一・本稿著者)が選んでスライドを作成しました。井上さんは認知症の人と家族の会・栃木県支部の旅行でカラオケを楽しんでいるときの写真となり、少しお酒も入っているときの1コマとのことでご本人は恥ずかしそうにしていました。そして鈴木さんの写真は井上さんと一緒に撮ったときのもの。ここからも2人の仲の良さが分かります。

福田さんからも事前に複数の写真が提供されましたが、スライドには、講演中や取材中の凛々しいものではなく、あえてプライベート感のある笑顔の写真を選びました。まさにご本人の言うように「構えていない」良い写真だと思いますので、ぜひ録画動画でご確認ください
最後の巻田さんからはご自身の写真ではなく事務局を務めるカフェのものが提供されました。実はこれまでネット上ではあまり顔を出さずに活動してきた巻田さん。今回も今まで通りにしてくださいと伝えてありましたが、当日はZoom機能を駆使して、バーチャルの眉毛とひげを「装着」して部分的に変装して参加してくださったという経緯になります。

当事者が居づらいカフェも

自己紹介が終わると、いよいよ本題へ。まずは兵庫県豊岡市を拠点に数多くのカフェに参加してきた巻田さんに、第4回「これから会議」でも話題になった「いいカフェもあるが悪いカフェもある」という見方について意見を聞きました。巻田さんは自身が認知症の診断を受けた直後に、ある認知症カフェに参加したそうですが、そこには介護者がほとんどで本人がいなかったそうです。しかも介護者の話は弄便や「徘徊」で苦労しているという話ばかりで、大変いづらい思いをしたとのこと。そんな体験を紹介しつつ巻田さんは「カフェで話されていることがとてもじゃないけれど本人には聞かせられないといって2度と来なくなる参加者もいる」と指摘をしました。

地元に本人同士が集える場がなかったので自ら「峠の茶屋」を立ち上げたという福田さんは「僕の場合、他の人と気持ちを共有したいという思いがとても強かった。『峠の茶屋』の前に自分の絵を展示する作品展を開催したのですが、そこで知り合えた人たちの手をもう絶対に離さないという気持ちでした」といいます。当初はスマホを使う人が少なかったので電話や手紙でやり取りをしていましたが、いまでは病院を中心としたオンラインネットワークの構築に乗り出しているというエピソードも披露。当事者同士がつながりを求める気持ちの強さを熱く語ってくれました。

「石蔵カフェ」の井上さんと鈴木さんはまさにカフェで出会った当事者同士。しかも同い年。若年性認知症人口を考えれば、これはなかなか奇跡的な出会いといえるかもしれません。2人とも「石蔵カフェ」でボランティアスタッフとして活躍していますが、井上さんは「メンバーみんなに会えたからいろいろできるけれど、会えなかったらもっとボロボロになっていたかもしれない」と、一日の終わりに布団の中で思い返すことがあるそうです。

「認知症カフェはこうでなければならない」という思い込み

ここまでの対話で、認知症と診断された人が笑顔で生活を続けるための場所としてのカフェ像が少し見えてきた感じがありました。カフェではみんなと料理を作ったり、手芸の様子を見ていたり、花の手入れなどしているという鈴木さんは自らの体験を踏まえ「それをやったからどうとか、やらなかったからどうとかではなく、普通の日常生活を『石蔵カフェ』に行ってもやっている。行ってすることがあるということが大事」と述べました。

さらに福田さんは、認知症とともにある本人ならではの視点から「家庭やカフェで嫌なことがあっても、誰かから慰めてもらうのではなく、みんなと気持ちを共有しながら乗り越えていかないと自立はできない。カフェは人と話す自信をつけたり、考える自信をつける訓練の場でもある」と、仲間たちに向けて「あえて」の叱咤激励メッセージを発信しました。
全国には当事者の参加がないことを悩んでいるカフェがあるが、という問いかけに対し「認知症カフェはこうでなければならないという思い込みがあるのではないか」と指摘した巻田さん。「脳トレや風船バレーをしたり、決まった時間その場にとどめられて離れることが許されない」ようなカフェになっていないかと問題提起しました。そのうえで「みんなが楽しい、開催している人も楽しくて、また行きたいと思える場所」を目指してほしいと述べ、当事者に対しても「まず一歩を踏み出す勇気を持ってほしい。そうすればいろいろな世界も見えてくるし、出会いもあるし、知恵ももらえる」と語りかけました。

人を集めるカフェではなく、人が集まるカフェに

最後に今後について尋ねると、カフェ主催者である福田さんは、認知症カフェを見守りや情報発信などができる総合センターにしていきたいという大きな夢を披露。同じく主催者側の巻田さんは「人を集めるカフェではなく、人が集まるカフェにしていきたい」と、自らのミッションを引き続き果たしていく考えを表明しました。
また、井上さんと鈴木さんは「このまま続けていきたい」と述べ、国内最古のカフェである「石蔵カフェ」に連綿と続く創立者・杉村幸宏さん(故人)をはじめ多くの当事者・家族の思いを新しい人々につないでいく意思を示しました。

いったい認知症カフェとはだれのためのものなのか、はたして今のカフェで本人、家族、専門職、地域住民に共通のコンセンサスを実現できているのかと考えたとき、今回の「これから会議」は厳しい意見が出ることも予想されました。短い時間だったため、もしかしたら登壇者のみなさんも言い足りないこと、口に出さずに飲み込んだ言葉などがあったかもしれませんが、それでも前向きな対話をできたことは、認知症カフェという取り組みのこれからを考えるうえで大変重要な回になったと思います。

次回「認知症カフェこれから会議」は、「家族」の回になる予定です。下記、Facebookグループに参加(無料)すると、これまで開催されたオンラインシンポジウムもすべて視聴することができます。多くの方の参加をお待ちしています。

フェイスブック「【認知症カフェ】これから会議withなかまぁる」グループページ
https://www.facebook.com/groups/2547079192271314/

「コロナ禍を生きぬく~認知症とともに」 の一覧へ

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

この特集について

認知症とともにあるウェブメディア