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高齢化先進国から子どもの視点を映像化 その背景は 私の作文が映画に(下)

高木裕己監督と原作者の三輪実由さん

アメリカやブータン、インドなど、海外の映画祭で高い評価を得ているのが、高木裕己監督の新作『「やさしく」の意味――おばあちゃんは認知症だった――』です。本作は、作文コンテストの最優秀作品に選ばれた、当時小学4年生の作文をベースにしています。前回に引き続き、高木監督と原作者の三輪実由さんに作品の背景などを聞きました。前回の話を読む

――三輪さんが参加した「認知症サポーター養成講座」ではどんなことを学びましたか?

三輪 認知症ってどんな病気なのか、そして、認知症になると何が起こるのかをわかりやすく教えてもらいました。認知症の人にどう接したらいいのかは、子ども役と認知症の人の役が出てくる短い劇を見せてくれたので、とてもよくわかりました。

それまでの私は、認知症のひいおばあちゃんに同じことを何回も聞かれてイライラしてしまって「もう、いやっ」なんて言っちゃっていました。ひいおばあちゃんは、教えたことをわざと聞こえないふりをしているのではないか、と思っていたんです。

でも、講座で、認知症という脳の病気だということを知り、ひいおばあちゃん自身も不安に感じていることに気づきました。
これからは、ひいおばあちゃんのペースに合わせて行動しよう、不安な気持ちをやわらげてあげよう。そう思ったことで、以前よりもやさしく接することができるようになったんじゃないかなと思います。

映画のベースとなった作文を書いた三輪実由さん(左)

講座を受けたことは、後になってからも役立ちました。ひいおばあちゃんが亡くなった後、おじいちゃんが認知症になってしまったんです。症状が出てきたときはショックでしたが、やさしく接することができたと思います。

一緒に認知症サポーター養成講座を受けたお友達も「家に帰ったら家族に笑顔で声をかけたい」「やさしくしたい」と言っていました。

また、映画の試写会には私のお友達もたくさん来てくれたおかげで、うれしかったことがあります。それは、「映画だと認知症のことがよくわかる」「映画を見て、これから気をつけようと思った」と言ってくれたことです。
映画がそんなふうに役に立っているとしたら本当にうれしいです。

――認知症をテーマにした映画を制作するうえで、高木監督が大切にされたことは、どんなことでしょうか。

高木 三輪さんのおばあさんは、介護の仕事をされている方です。お宅に伺って話を聞いているなかで、世の子どもたちに伝えるべき介護の心構えといったものが、はっきりと見えてきました。それは、「認知症の方にもプライドと感情がある」ということです。
この作品を通して、そのことを子どもたちにきちんと伝えなくては――。まず大切にしたのはこの点です。

もうひとつは、認知症の人がいる家族の現実をしっかり描くこと。認知症の人と過ごす日々には、ハラハラとした緊張感が常にあるんだというメッセージを伝えたいと思いました

映画『「やさしく」の意味――おばあちゃんは認知症だった――』より

さらにもうひとつ。認知症に対して暗いイメージを持っている方が大半だと思うので、これを払拭(ふっしょく)したいと考えました。作文の中にある言葉を、映画では子どもの主観として「語り」にしました。これだけでも、暗く難しい印象はある程度和らぎます。この作品では、親しみのわく挿入歌を採用して、さらに元気や明るいイメージを持たせるようにしました。

――海外でも高い評価を得ていますね。

高木 アメリカの「アコレード映画祭」で特別功労賞をいただき、ブータンやインドの映画祭でも受賞しました。

諸外国では、子どもの作文を映画化することはほとんどありません。なので、認知症をテーマにした子どもたちの作文コンクールが行われ、その優秀作品を原作にした映画であるということ自体が、まず大きな驚きを持って受け止められました。

また、高齢化先進国の日本が映画のなかで認知症をどう描いているかについて、日本より遅れて高齢化社会を迎えている国にとっては関心事でもあります。日本の学校や地域ぐるみでの認知症の取り組みにも、とても関心が高いのです。

本作品が諸外国で注目をしていただけたのは、このようなことが背景にあると考えられます。また、「押しつけがましくなく、自然に介護が学べる」といった声が多く聞かれました。

高木裕己監督

一方、日本では「日常の会話のなかに喜びや楽しさを見いだして、共通の課題をつくることがいかに大切かわかった」、「俳優さんのとても自然な演技が自分の家族を思い出させ、自分だったらどういう行動をとるだろうか、と想像させる」など、表現の中身に踏み込んだ評価をいただくことができました。

――最後に読者の方へ一言ずつメッセージをおねがいします。

三輪 認知症の人との生活は、先の見えない不安な生活です。それを完璧にやろうとすると難しいけれど、小さなことでもいいから思ったことや感じたことを、おじいちゃんやおばあちゃんのためにすることは難しくありません。そうすることでお年寄りも家族もきっと楽になると思います。

高木 三輪さんのご家庭は、家族で助け合い支え合って、ひいおばあちゃんの介護をされました。でも、現実には1人で背負い込んでしまうケースが非常に多い。そのために多くの方が苦しくなっている状況があると思います。
孤独にならないで、できるだけ情報をつかむ力をもっていただきたいなと思います。介護情報はたくさん出てきています。私も映画を通してそんな方たちに何かをお伝えしていくことができればと思います。

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