介護の裏ワザ、これってどうよ?

あんぱん催促、病院脱走 行動に潜む感情は…これって介護の裏ワザ?

青山ゆずこです! 祖父母が認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!

『病院の服よねぇ・・・? 患者さん?』

「いいか? お前は黙ってあんぱんを持ってこい」

じーちゃんがウイルス性の胃腸炎で緊急入院したときのこと。
あまりの腹痛に自宅のトイレで倒れて動けなくなったじーちゃんを自宅から車で10分ほどの病院に連れていくと、「しばらくは安静に」ということで一時的に入院することになりました。病室は4人部屋。同じくらいの年代の人もいます。じーちゃんは元イケイケの営業マンで人の懐に飛び込むのが上手だったので、割とすぐに打ち解けていてよく会話をするようになったのですが……。

ゆずこのケータイになぜか病院からの着信履歴が頻繁にあり、かけ直すと「おじいさんがご家族に会いたがっているみたいで」「お見舞いの“催促”をされているのですが」とのこと。
2日に一度はお見舞いに行っているのに、一体どうして? ちょっと疑問に思いつつ、「なんだじーちゃんも心細いのかな。可愛いとこあんじゃん」とニヤニヤしながら、ばーちゃんを連れてお見舞いに行ってみました。

顔を合わせた直後、第一声は「あんぱん持ってきたか?」。

は? あ・ん・ぱ・ん?

家族に会いたがっているのはどうやら口実で(2日に一度、多いときは1日に何度も会っている)、実は大好物の甘いものが食べたいだけだったのです。

孫の心をもてあそび、情に訴えた(?)この作戦。
実際に会いにいくと、「お前らもヒマだな(笑)」とか憎まれ口をたたきながらもめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしているので、まんざらでもないんだろうな。
ふ、ちょっとカワイイじゃんか。

送迎バスに颯爽と飛び乗って「俺は家に帰る!」

あんぱんへの愛とともに、会うたびに「早く家に帰りたい」とずっと言い続けていたじーちゃん。その想いが爆発した事件がありました。
病院と最寄り駅の間を送迎している無料のシャトルバス。じーちゃんはそれに目をつけ、そそくさと病室を抜け出してすぐさま乗り込んだらしいのです。
ゆずこのスマホに病院から着信が入っていたのでいつものようにあんぱんの催促かと思いきや、「大変です、脱走です。おじいさんが脱走しました」と。

「じーちゃんが脱走」
何ですかこのインパクトが強すぎる一言。パワーワードすぎる。

電話がかかってきたときには既に無事に保護してもらっていたようですが、病院のスタッフいわく、「患者衣のままハンチング帽だけをキリっと被ってバスに乗り、ご機嫌に鼻歌を歌っていた」というのです。

しかも、バレバレなのに何を聞いても「俺はお見舞いに来ただけぜ☆」とシラを切り続けていたとか。まじか。
一瞬、「自由人なあのじーちゃんならやりかねない」と吹き出してしまったのですが、よくよく考えるとそのバスの行先をきちんと把握していたかどうかも怪しいです。病室の窓から何度も往復するバスを見続け、とにかく家に帰りたい一心で飛び乗ったのかなあ……。そう思うとどこか切なくて、鼻に「つーん」とくるものがありました。

「早く家に帰してあげたい」。一番身近にいたわたしも、その想いは相当強く持っていました。でも、どうしても連れて帰れない事実が発覚してしまいます。
胃腸炎で入院したじーちゃんですが、検査をするうちにおよそ7センチもの大きさの胆管がんが見つかったのです。
※胆管……肝臓から十二指腸まで胆汁が通る管

悩んで悩んで悩みまくりました。
「ばーちゃんには言えないよ……」
それは、青山家全員で決めたことでした。

『家族に電話したいから』と、渡した小銭が全部あんぱんに・・・! ※大好物なのデス・・・

真実は包み隠したっていい

胃腸炎がきっかけで見つかった、まさかの病気。そしてそれを隠し続けたゆずこたち。 それは、伝えることで不安や悲しみを感じさせてしまい、認知症のばーちゃんによくない影響を与えてしまうと考えたからでした。今回のように、認知症の人の伴侶や家族が病気になったときにどこまで打ち明けるべきか、家にいないことをどう説明すればいいのでしょうか。
認知症になっても安心して暮らせる社会の実現を目指す、『認知症の人と家族の会』東京都支部代表の大野教子さんにお話をお聞きしました。

「認知症の人に、死につながる病名を伝えてしまうと『この病気で死んでしまったら私のそばからいなくなってしまう』と、私たちより敏感にとらえて、とても恐怖を感じると思います」

確かにそうですね。青山家も「うちのじーさんはどこに行った!」と聞かれる度に、ずっと「胃潰瘍で入院してるよ」「大げさだよね(笑)」と、ずっと言い続けてきました。でもそう答えるたびに、
「認知症とはいえ、人生の伴侶のばーちゃんにこんなウソをついていいのか」と心が締め付けられていて……。

「大切なのは、病名を告げることよりも入院するという事実。きちんと伝えられれば、ほかは少しくらい曖昧でもいいと思います。ダメなのは、一切を隠してしまうこと。
いつも近くにいた人が理由もいなくなれば、私たちだってもの凄く不安ですよね。だからそこはきちんと事実を伝える。
たとえ後から『なんで〇〇(病名)だってことを言わなかったんだ!』と突っ込まれても、それはご本人に『あなたのことを大事に思っているから言えなかったんだよ』『心配かけたくなった』と素直な気持ちを伝えてください」

ばーちゃんの4分の1くらいの年数しか生きていないわたしがウソをついたところで、何か感じ取ってしまうものがあるのかもしれません。でも相手を“騙す”のではなく、“大切に思うからこそ出てくる言葉”をうまく利用するということですね。

大野教子(おおの・きょうこ)さん
『認知症の人と家族の会』東京都支部代表。1995年から4年間、認知症の義母を在宅介護(その後18年間遠距離介護)し、およそ3年前に看取る。1999年に同会の東京都支部の世話人と電話相談員を務める。2011年、支部代表となる。

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