認知症とともにあるウェブメディア

もめない介護

初めて声を荒げた義父 義母には効く裏技が逆鱗に触れた もめない介護70

洗濯物を取り込む女性のイメージ

「デイケアがある曜日の朝、娘さん(義姉)から『励ましの電話』をかけてもらえないでしょうか?」

ヘルパーさんから、こんな提案がありました。義父母はデイ通いを続けているものの、義母は相変わらず行くのをいやがっているそう。ただ、ヘルパーさんとのやりとりの中で「娘が仕事を続けられるように、私は(デイに)行かなくてはいけない」と、自分に言い聞かせている場面も何度かあったと聞きました。

そこで、「今日はデイの日ね。頑張って行ってくれると私も安心して仕事ができるわ」などと、明るく電話をかけ、背中を押してほしいという理由でした。

さっそく義姉に連絡をしましたが、義姉も平日は仕事があるので気乗りしない様子です。

「朝のほうが良いでしょうか。前日晩だと忘れてしまうでしょうか。朝だと1分で切れればよいのですがどうかな。電話できるとしても時間は6時ごろとなりますが、早すぎますか。6時半以降は厳しいです」

前日の晩だと忘れてしまう可能性もありますが、それ以上に当日、義母の気分を整えるための電話なので、「朝」が重要です。逆に時間は短くてもかまわないし、義母の愚痴につき合う必要はありません。「おはよう。今日はデイの日だね。私もがんばるからお母さんも頑張って!」と明るくエールを送り、電話を切っちゃうイメージでどうですか? と伝えました。

また、電話をかけるタイミングについても、義姉は自家用車の通勤なので、職場に着いた後、駐車場に停めた車のなかで1分かけるのはどうでしょうか、と提案したのです。

義姉から「とりあえず今週試してみます」と返事が来て、ホッとしたのも束の間、その数日後に事態は思わぬ方向に向かいます。

義姉からの励ましがあれば、前向きな気持ちになってくれるはず

義父母が通っている「わかばの里」(仮名)から電話があり、義父が早朝にキャンセルの連絡を入れたことがわかりました。施設の人が「ご家族の了承は?」と尋ねたところ、「真奈美に話を通してある」と言われたと聞かされました。もちろん、わたしにはなんの連絡もありません。そう来たか!

まいったなと思いながら、夫の実家に電話をかけ、義父母と話をしました。

義父曰く、「真奈美に話したとは言っていない。“話すつもり”だと言っただけ」「デイを休む件については、わかばの里に了承を得ている」と、取り付く島がありません。さらには義姉にも、デイを休むことは承諾を得ているし、賛成してくれたと言うのです。ああ言えば、こう言うの嵐!
ただ、「了解です! お姉さんに状況だけお知らせしておきますね」と伝えると、「施設からは了承を得ているということを真奈美さんから伝えてください」と、ちょっと風向きが変わりました。

ここはゴリ押しせずに、義姉にバトンタッチ! 義姉からの励ましがあれば、また「頑張って行こう!」と前向きな気持ちになってくれるかも。そう思って、朝の送り出しのヘルパーさんも送迎ワゴンも、あえてキャンセルせず、いつも通り来てもらえるよう、お願いしてありました。あとは、大船に乗ったつもりで義姉にお任せして……という考えは甘かったのです。

義姉からの電話に、声を荒げた義父

「ご夫婦とも拒否が強く、今日のところはやはり、デイはお休みされるということでした」

ヘルパーさんから連絡をもらったときも、まだわたしはノンキに構えていました。どうしても気分が乗らない日もある。どうにも機嫌が悪い日だってあるだろうと思っていたからです。ただ、これまでもデイを休むたびに、イレギュラーで日中、ヘルパーさんたちに再度訪問してもらっていたこともあり、負荷がかかることは申し訳なく思っていました。

「かえってお手間をとらせてしまって申し訳ありません」と伝えると、ヘルパーさんから「余計なお願いをしてしまったようなんです……」と、謝られました。聞けば、義姉から電話がかかってきたあたりから、義父がヒートアップ。「あんなふうに声を荒らげるお父さまは、これまで見たことがなく……」と、ヘルパーさんがドン引きするほど、荒ぶっていたというのです。なんだ、なんだ、なにが起きているんだ!?

以前、この連載コラムでも紹介しましたが、義母とのやりとりでは“娘の心配”が有効打になりました。
「デイに行ってくれないと、わたしが困る」
「心配で仕事が手につかなくなる」
「どうしてもデイをやめるというなら、仕事をやめて引っ越すしかなくなる……」
そんなエモーショナルな訴えが、義母の気持ちを動かしたと思っていましたが、義父に対してはまったくの逆効果だったのです。

“会心の一撃”は早々とその効力を失って

「親に対して、その言い草はなんだ」と怒り心頭。さらに、「仕事に対する姿勢がなっていない」とお怒りでした。夫に伝えると「親父らしいな」と苦笑い。

義母は「娘(義姉)に迷惑をかけたくない」とオロオロしていたけれど、義父は「仕事に対して無責任すぎる」とバッサリ。はっきり口にはしませんでしたが、自分たちでキャンセルの連絡をし、施設の了承も得ているのに、なぜ子どもたちが横から口をはさんでくるのかという不満もくすぶっていたように思います。社会のルールを重んじる真面目な義父らしい発想です。

義姉の電話という“会心の一撃”は思ったよりも早く、その効力を失い、むしろ封じ手になってしまいました。
義父の言うことはどれも正論だし、まっとうな意見ではあるけれど……デイ通いの問題、どうしよう! 

「そんなに行きたくないなら行かなくてもいいですよ」と言ってしまおうか。そんな誘惑にも駆られつつも、踏みとどまっていたのには理由があります。

デイに通うのをやめれば、栄養バランスがとれた昼食も、入浴の機会も同時に手放すことになる。義父母の健康維持を考えると、それはできれば避けたい選択肢でした。また、当時、もの忘れ外来の医師に繰り返し言われていた「いまのうちに他人の世話になる練習をしておかないとマズい」という指摘も気になります。

しかし、どうやって義父母をその気にさせるのか。いよいよ、八方ふさがり! ドンヨリした気持ちになりながらケアマネさんに相談すると、「真奈美さんの本音をぶつけてみましょう」と提案されました。え、そっち!?
介護が始まって以来、本音をぶちまけないように努力し続けてきたからこそ今があると思っているのに、大丈夫……? その顛末については、次回ご紹介します。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア