もめない介護

正論ヘルパーに食い下がる義母「デイ」ボイコットの顛末 もめない介護68

コスガ聡一 撮影

認知症だとわかった後、医師の勧めでスタートした通所リハビリテーション(デイケア)。夫婦そろって同じ施設に通っていましたが、義父が比較的積極的だったのに対して、義母は隙あらば休みたいし、やめたいという本音が見え隠れ。そんな義母の影響を受け、義父も「やめようかな……」となるのが悩みの種でした。

そして、ついに義母が「すべてキャンセルしてください」と宣言するという強硬手段に。これまでは、義父を通じてたびたび、「今日は休む」と施設に連絡を入れたりしていましたが、突然の直訴。電話を受けたこちらとしては晴天の霹靂ですが、義母からすれば何度もやめたいと言っているのに聞いてくれないという、不満が募っていたのかもしれません。

しかし、こちらとしても「はい、そうですか」と、すんなり受け入れるわけにもいかない状況でした。

義父は肺炎をこじらせて緊急入院したことをきっかけに体重が落ち、低栄養の状態から完全に脱したとは言えない状態にありました。家では、義母が「自分が栄養たっぷりの料理を作ればいい」と豪語していましたが、実際にはトーストや水で洗い流すだけで食べられる「流水麺」がレギュラーメニュー。ヘルパーさんが惣菜を買い足すなどのフォローもしてくれていましたが、週3回のデイでしっかり昼食をとり、おやつも食べてお風呂に入るというルーチンは欠かせないものになっていたのです。

家族は愚痴を聞くにとどめて、説得は専門職から

前回のこの連載でもご紹介しましたが、デイ通いをやめたいのはもっぱら義母で、碁仲間ができた義父はどちらかといえば、通い続けたい意志表示もありました。こんなとき、どうすればいいのか……。

ケアマネさんに相談すると、こんな答えが返ってきました。

「ご家族からはあえて、説得をされないほうがいいかもしれませんね。ご本人たちの言い分や愚痴を聞くだけにとどめて、『デイに行ったほうがいい』という話はいったん、しない方向でどうでしょうか」

そんなことできるの? というのが率直な感想でした。義母の言いなりになって、ズルズルやめることになったらこわいとも感じていました。しかし、ケアマネさんはこう続けます。

「やってみないとわかりませんが、〈デイになぜ行かなくてはいけないのか?〉については、専門職が話したほうが、聞いてもらえるかもしれません」
「きっと、近いうちに『どうして対応してくれないのか』と義父母のどちらか、あるいは両方から問いただされると思うんですが、『問い合わせ中』とでも答えておけばいいですか?」
「すごくいいと思います。『相談している』『調整している』などと伝えていただければ、あとはこちらでヘルパーさんや訪問看護師さんとも連携をとってお話をしてみます」

デイ通いをめぐるやりとりに少々ウンザリしつつあったこともあり、正直、「助かった!」と感じていました。

細かなすりあわせも行い、作戦決行

また、ケアマネさんとは次のような作戦を立てました。
義父母が直接、「デイはお休みします」「キャンセルします」と電話をかけてきたとしても、送迎はキャンセルせず継続。朝の送り出し担当のヘルパーさんと連携をとり、出席を促す。「おやつが楽しみですね」など、義母の気持ちが動くような声がけをしてもらってもなお、「行きたくない」という場合は無理強いせずに欠席。義母の認知状態を考えると、「義母だけが休み、義父だけ出席するのは難しい」というすりあわせもしました。

翌日はちょうど、義姉が実家を訪れる予定になっていました。介護用のLINEグループで、ケアマネさんからの助言は共有してあります。義姉からの返事は、「言い分は聞きつつ、とても心配していることを伝えます」。“言い分を聞くだけ”にしたほうが良さそうな気もしましたが、ここから先は何がどう義母の気持ちを動かすのか判断がつかず、念押しはしませんでした。

翌日の午後になって、義姉からこんなLINEメッセージが届きます。

「ヘルパーさんと両親との話し合いの結果、従来の通り、週3回行くことになりました。詳しくはケアマネさんから聞いて下さい」

ヘルパーさんの正論に義母も負けじと応戦

わかる範囲で構わないので経緯を教えていただけると……! 改めて質問すると、やりとりの経緯が見えてきました。LINEメッセージによると、「ヘルパーさんが来る前に『先週はデイに3回行ったので安心した』と話した」と書かれています。さらにその後、こんなやりとりがあったそうです。

ヘルパー 「どうしてデイに行きたくないんですか?」
義母「したくをするのが疲れる。お父さまもデイに行ったあとは寝てばかりいるし……」
ヘルパー 「お昼ごはんどうしましょうか?」
義母 「適当に作って食べます」
ヘルパー 「ガスは使えないけど、どうしますか?」
義母 「……」
ヘルパー 「ご主人が“寝てばかり”ということですが、昔からよく寝るタイプだそうですね」
義母 「それはそうだけど、わかばの里に行かなくてすむようにするにはどうしたらいいの?」
ヘルパー 「この体制はみんなで会議をして決めたことなので、週3回のペースを変えるならまた会議が必要です。わかばの里で寝ていても構わないので、今月は現在のペースで来ていただけませんか?」

義母は「このグループから抜けるにはどうしたらいい?」と食い下がったとか。

わかばの里は当時、通っていた通所リハビリテーション(デイケア)の施設です。

働く女性に理解がある義母

「いろいろな人が家に出入りしないで自由に過ごすにはどうしたらいいの?」
それが義母の本音でした。
その場に居合わせた義姉はすかさず、こう返したと言います。
「わたしが仕事をやめて、近所に引っ越しして、ヘルパーさんがやってくれることを代わってやれば可能です」

すると義母は「それを言うのはずるいわ」と反応。「仕事をやめると、あとから絶対に後悔するから続けなさい」と義姉に釘を刺したとか。そして、週3回のデイ通いを承諾してくれたそう。

さすが育児の手が離れたタイミングで英語教師の職を得て、定年まで勤めあげた義母らしいアドバイスです。定年後も英語の勉強を欠かさず、近所のお子さんに英語を教えたり、翻訳を手がけたりもしていました。

そんな義母は仕事に対して理解があり、結婚当初から「共働き」を手放しで歓迎してくれていました。「仕事、忙しいの?」とよく聞かれたけれど、そこに「多少セーブして、息子(私の夫)をサポートしてほしい」というニュアンスは一切なく、気楽でいいなと思ったものでした。

義母の社会性が色濃く残っていることが頼もしく

ヘルパーさんと義母のやりとりを聞くと終始、正論でプッシュ。家族が同じことをやると、大喧嘩に発展しそうな応酬ですが、他人同士ということもあって、義母も理性スイッチがオン。“ああ言えば、こう言う”ではあるけれど、ダダをこねているわけではなく、理性的に自分の感じていることを伝え、交渉を試みていました。

さらに、ヘルパーさんとのやりとりで、渋々ながらもデイ通いを承諾。そこにも義母の社会性が色濃く残っているのが見て取れます。能力はまだたっぷりと残されているし、存分に発揮されている。そのことを頼もしくも感じました。

ヘルパーさんがズバリと切り込めたのは、介護保険の申請をした直後から足かけ2年近く関わってくれていたからこそ、とも感じます。親の性格や行動特性を把握してくれている人が複数いると、困りごとへの対応策が増えると実感した瞬間でした。

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