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介護の裏ワザ、これってどうよ?

入院中のばーちゃん超元気アピ。あの秘策で「時を戻そう」 これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのかな……?専門家に解説してもらいました。

元気もりもり!体調はサイコーです!入院してる時点でもりもりではないよね…

調査員さんに全力で「から元気」アピールをするばーちゃん

ばーちゃんは貧血で急遽入院したことをきっかけにほかにも体の不調が見つかり、メンテナンスを兼ねて何度か短期間の入院生活を繰り返していました。
前回の「退院してからもなんとか在宅介護を続けるか、それとも施設に……」という家族間の話し合いは平行線をたどっていましたが、いつでも介護サービスを利用できるように取得していた要介護認定の更新の時期になりました。認定の訪問調査は自宅だけでなく、病室や談話室などでもできます。ばーちゃんの場合も、調査員さんに病室まで来ていただきました。

しかし! 調査員さんに「お体の調子いかがですか?」「最近困っていることはありますか?」など色々質問されると、なぜか「私は!すこぶる元気でございます!」と、どこからその元気が出てるの!?と突っ込みたくなるくらい、から元気を装ったり、ベッドでぐったりしているのに、「見てのとおり健康体でございます!」と言ってみたり。プライドなのか、なんなのか。とにかく調査員さんの前では無理やり「元気な私」をアピールしてしまうのです。

思わずわたしも、「そんなわけないだろ!とも限らない。心はいつだってポジティブさ」とお笑い芸人のぺこばさん風に突っ込みたくなる場面もしょっちゅうあるという。
話が脱線しました。時を戻そう。

大事なのは日常の記録。メモでも写メでも動画でも!

「必要以上に元気さをアピールしてしまう」
「正確な要介護認定を出してもらえないかもしれない」
そんなときに調査の参考になるのが、身近を介護をしている人のメモです。
その日の出来事や、ちょっと困ったこと、調査員さんに訴えたいことを毎日ちょこっとずつメモしておくだけで、訪問調査のときに立派な資料になります。
わたしの場合、マジメに書かなきゃ!と意気込むと3日も続かないので、「要するにあれだな、“愚痴ノート”だと思えばストレスの発散にもなるし一石二鳥だな」と思い込むことに。するとこれがまた面白いくらいに続くのです!

それに、記録するのは文字に限らなくていいのです。わたしは何か気になることがあると、よくスマートホンで写真や動画を撮っていました。当時は家族と現状を共有するために撮っていたのですが、認定調査の際にはそれらも立派な資料になったのです。
また、暴走したばーちゃんがゆずこに手を上げたときに、仕事柄、持っていたICレコーダーで録音した音声も、大切な資料として扱っていただきました。

ただ、わたしのように修羅場の一場面を切り取ってしまった場合、いくら認定調査のためといっても「その場で音声や動画を再生するのがつらい」「もう見たくない」と思われる人もいるかもしれません。わたしも音声を聞きなおすたびに、何度も何度も体や心が傷ついて何かがすり減っていくような感情に襲われました。でもそんなときは無理に同席しなくてもいいんです。調査員さんに事情を説明し、席を外して、自分の心も守る。
写真や動画、音声は、家族を見世物にしているわけではありません。それらを利用して正確に認定してもらうことで、自分や本人を守るための武器にもなるのだとわたしは思います。

そして近づくばーちゃんの退院。ゆずこ家が選んだ道は……。
住み慣れた家で介護してあげたいのはやまやまですが、またばーちゃんが暴走して同じような介護虐待スレスレの修羅場になってしまうかも分かりません。じーちゃんの死を乗り越えたものの入院も重なり、ばーちゃんの症状はゆっくり右肩下がりに悪くなっています。きれいごとを言えば、家に帰らせてあげたい。
でもわたしたちはとっくに限界を迎えている。それに気が付かないふりをしている。重々痛感していました。

そんな状況を一転させたのは、意外にも「自分の親は家で介護してあげたい」と誰よりも在宅介護にこだわっていた母でした。
こだわりのある人を説き伏せるのは簡単なことではありません。そんなときは愚痴や不安を聞いたり、現実を見せて自分の中で答えを出してもらったりするのが、解決への近道かもしれません。
母はばーちゃんの入院の際に遠方から駆けつけて、一日中、そして何日もずっとばーちゃんの隣で過ごしていました。そこで気持ちの整理と、ばーちゃんにとっても幸せな介護と未来を考えたのでしょう。行動的になった母のフットワークはすさまじく、施設の資料を何十軒分も取り寄せたり、みんなで見学に行ったり。そして家の近くの、認知症の人も受け入れてくれる有料老人ホームに入所することになったのでした。

どん!できればシンプルにまとめると◎。証拠はた~っぷりありますぜ。ふっふっふ……

何が本人にとって“居心地のいい介護か”を考える

入所先が見つかったものの、その前に一度くらいは家に帰してあげたいと、家族全員が思っていました。けれど、家にものすごく執着しているばーちゃんの場合、またすぐに出なくてはいけないとなると、拒否が余計に強くなるかもしれません。何よりも「やっと帰れた」とホッとした気持ちをもてあそぶようで……。
そこで「違う病院に転院するんだよ」と声をかけてそのまま入所することにしたのですが、それが正しかったのかどうか。
認知症になっても安心して暮らせる社会の実現を目指す、『認知症の人と家族の会』東京都支部代表の大野教子さんにお話を聞きました。

「まず認定調査の音声や写真、動画も参考資料として出すというアイデアですが……すごい! 職業柄ですね。私も相談にいらっしゃるみなさんに、よく『ご本人の普段の行動をメモしておいて、それを調査員さんに渡しましょう』と言っているのですが、言葉だけでは伝わらないこともあるので、その一瞬を切り取る動画や写真音声もすごくいいと思います」

音声を録音するICレコーダーがない場合でも、スマートホンの音声録音アプリがすぐに無料で手に入るのでおススメです。

「そしておばあさまの施設への入所ですが、この場合、家に帰らずそのままホームへというみなさんの方法で良かったかと思います。一度くらい家にという気持ちもすごく分かるのですが、またすぐに移動しなければいけないときのおばあさまの心情を考えると、振り回されて切なくなって、すごく家族に対して恐怖を感じてしまうかもしれません。自分の言うことを聞いてくれず、場合によっては家に帰してくれない“敵”に見えてしまうかも。

ご家族もそれぞれやれることをやり尽くして疲弊していますよね。この状態では、おばあさまにとっても居心地のいい介護ができるとは思えません。寂しさや切なさがあっても、これが最善の選択だったのではないでしょうか」

確かに、ばーちゃんは症状が悪化するたびに笑わなくなったような……。家に帰してあげられなかった自分をいつまでも責めることもありましたが、自分たちのしたい介護ではなく、「何が本人にとって一番幸せか、居心地がいいか」を考えること。わたしたち家族も一歩一歩、それぞれ成長途中です。

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大野教子(おおの・きょうこ)さん
『認知症の人と家族の会』東京都支部代表。1995年から4年間、認知症の義母を在宅介護(その後18年間遠距離介護)し、およそ3年前に看取る。1999年に同会の東京都支部の世話人と電話相談員を務める。2011年、支部代表となる。

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この連載について

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