診察室からエールを

初めまして。「ものわすれ」が気になるあなたのためのクリニックです

診察室からエールを#1

1:高橋葉子さん(78歳):受診のきっかけ(1)

はじめまして。午後の初診で来院された高橋さんですね。当院の院長です。「物忘れ外来」を担当しています。誰でも初回の受診は緊張されると思いますが、昨晩はしっかりと寝られましたか?

受診まで長く予約を待っていただいてすみません。専門医は予約がいっぱいなので、 それまでかかりつけ医の先生が診てくれてよかったですね。この診療所は愛称として「ものわすれクリニック」という名前を付けています。あなたがここに来られたのは「ものわすれ」が気になるからなのでしょうか。でも心配しないでください。ここに来る人がすべて物忘れのある病気になっているなどと、ボクは考えていませんから。

自分で気づいて来院する人

この診療所は両親が始めたのです。ボクが継いでから29年経過しました。父が歯科医、母が内科・眼科医でした。父が心筋梗塞のために夜の診察後に急逝して、あわてて母を支えるつもりで、大学病院に籍を残したまま診療所に戻ってきたんですよ。あ、こんなこと、あなたのご心配とは関係ないですよね。緊張しておられるようでしたので、肩の力を抜いてもらえるように話したのですが…。

診療所には大勢の人が来られます。あなたのように自分でものわすれに気づいて来院する人、自分では気づかないけれど、周囲の人やご家族が気づかれて来診する人、さまざまです。予約の時にお聞きしたようですが、高橋葉子さんは独り暮らしですね。それならご自身で気づかれたようですね。当院のデータでも自分で気づいて来院する人は60%以上です。気づいていない人を誰かが同伴してこられる場合が40%弱ぐらいです。

通りすがりに「行ってみよう」

「意外に気づいた人が多いな」と思ったでしょうね。この割合は通院する医療機関によって異なるようです。例えば大病院の場合などは、ご家族や周囲の人が気づいて来院される場合が多いようですが、うちのような街中の小さな診療所で、しかも「ものわすれクリニック」などとつけているものですから、通りすがりに看板を見て「一度予約してみよう」と思う人も多く来られます。ものわすれの病気になった人だけでなく、ものわすれが気になる人が「一度調べてほしい」と来院されることも多いのが特徴です。でもこの診療所には人間ドックがありませんので、健康診断(保険診療外)ではなく、あくまでも物忘れが心配な人が「診療」を求めてこられるんですよ。

診察室からエールを1回目 影絵

年相応のもの忘れとMCI

高橋さんはご自身の状況を理解していますか?例えば年齢相応のものわすれがある場合など、何もものを忘れるからと言って病気と決まったわけではないから、誤解しないでください。右手の指をイメージしてみましょう。年相応のものわすれなら、その後、急激に病気になることはなく、そういうものを生理的健忘といいます。誰でも生きていれば年齢とともに起きるものわすれといったイメージで、これが親指に当たると思ってください。

人差し指になると、ものわすれが起きていくらか生活に支障をきたしますが、それでも一人暮らしができるレベルで、これを軽度認知障がい(MCIとも表します)と言います。認知症という病気になる前の状態で、この軽度認知障がいが悪くならないようにすると、認知症にならずに済む場合が多いのです。

あなたの本当の気持ちは?

中指から薬指、小指が病気となった「認知症」の状態です。それぞれ軽度、中等度、重度と表します。これもただ悪くなるものではありません。認知症は「なったらおしまい」ではなく、その後の生活や対応で「なってからが勝負」の病気ですから。高橋さんは自分で来院された方なので、健忘、病気の前の段階の軽度認知障がい、もしくは認知症(初期)の範囲で何が起きているのか調べてみましょう。

でもね、ものわすれの診療で大切なことの一つに、当事者、つまり高橋さんが本当に病気の診断を受けて告知を希望されているのか、それとも本当は病名など聞きたくもないと思っているのか、本当の自分の気持ちにうそをつかないことが大切だと思います。

「あれ、心配」なら地域で気軽に相談を

ボクがこれまでに担当してきた認知症の人は8500人になろうとしていますが、自分の気持ちで病名告知を希望した人の場合には告知を受けたほうが認知症の悪化を軽くできました。一方、本当は聞きたくないのに、無理やり告知を受けた人の場合には悪くなってしまいました。高橋さんはどちらの気持ちが大きいのでしょうね。それによってこれからの診療やサポートの方向性を見つけていきましょうね。

今日のポイントは、たとえものわすれが気になったとしてもいくつもの段階があり、物忘れイコール認知症ではないということです。「あれ、心配」と思ったら一人で頑張らず、気軽に受診して調べてみましょうね。

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