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認知症の人がマンション内をウロウロ 息子が怖がります【お悩み相談室】

アパートの廊下のイメージ

デイサービスを運営する島田孝一さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。

Q.同じマンション内に認知症の男性(80代)がご夫婦で住んでいます。以前奥様と立ち話をしたときに「夫が認知症になった」と話してくれて、「お手伝いできることがあれば声をかけてくださいね」とお伝えしました。最近その男性がマンション内をずっとウロウロしていて、息子が怖がってしまい、マンション内を一人で歩けなくなり、困っています。(45歳・女性)

A.「マンション内をウロウロしていて」とのことなので、男性が目的もなくさまよっているような印象を持たれているのだと思いますが、それは誤解かもしれません。

私はデイサービスを運営していますが、あるご利用者の男性について、とても印象に残っているエピソードがあります。その方は送迎の車にはスムーズに乗るのですが、デイサービスに到着し、いざ建物に入ろうとすると、中に入ることを拒んでいるのか、玄関から先には入ってくれません。仕方なく、スタッフと公園など外で過ごす日々が続いたのですが、ご利用者の奥様と話すうちに建物に入りたがらない理由がわかってきました。その方は以前、自宅マンションで自分の家と間違えて、違う人の家に入ってしまいました。本人もすぐに自分の家ではないと気付いたようなのですが、家を出る際、その家の住人の靴を履いて出てしまったのです。出てきたところをその家の住人に見つかり、泥棒と思われ警察沙汰になってしまったというわけです。当然、間違えて入った家の玄関には彼の靴があるわけですし、侵入したことは明らかでした。この経験から「自宅以外の場所で靴を脱ぐ→間違ってしまう→責められる。家族に迷惑がかかる」というイメージが刷り込まれてしまったのかもしれません。
このエピソードを聞くことが出来たので、デイサービスでは、靴を履いたまま入ってもらうことにしました。すると、今まで建物に入れなかったことが嘘のように自然に中に入ることができました。

つまり、認知症の人の行動には、理由があるということです。マンションは同じような玄関ドアが並んでいるので、認知症の人は自分の家がわからなくなっても不思議はありません。迷ってしまって同じ場所を行ったりきたりしていたかもしれません。迷っていないにしても、場所があいまいで、ゆっくりと何度も確かめながら歩く姿は「ウロウロしている」と見えるかもしれません。しかし、事例でも紹介させていただいた方のように、きっと何らかの理由があり、単に認知症だからウロウロと歩いているということはないのだと思うのです。

このご夫婦とは「夫が認知症になった」という報告を受けるような関係性を築けていたのですね。せっかく「お手伝いできることがあれば声をかけてくださいね」と伝えていたのですから、そのお気持ちを大事にしてほしいと思います。
「どうされましたか?」「何かお困りですか?」と声をかけてみると、「家に帰ろうと思って……」ということは案外多いものです。お時間があれば、ご自宅の前まで案内してあげてください。あなたに声をかけてもらえたことで、どれほどの安心を得られることでしょう。
こういった対応ひとつにしても、同じマンションの住人同士の顔見知りであればこそ、協力できることだと思うのです。
もしかしたら同じマンション内には、ほかにも認知症の人がいるかもしれません。今はいなくてもこれから増えていくことも十分考えられます。認知症の人が周囲にいる環境が、当たり前になってもおかしくないのです。認知症についての理解を深めるために、同じマンションの人に声をかけて地域で開催している認知症サポーター養成講座などに、息子さんと一緒に参加してみてはいかがでしょうか? 地域包括支援センターなどに相談して、マンション内で開催するのもいいかもしれません。認知症について理解できれば、息子さんも怖がらなくなるのではないでしょうか。
認知症については、まだまだ地域や社会の理解が足りているとは言えないのが現状です。それでも、認知症の人も、障がいがある人も、そのご家族も、みんなが共によく生きる社会の実現は、今を生きる私たちの願いであることは確かだと思うのです。

【まとめ】息子が同じマンションに住む認知症の男性を怖がる

  • 男性がウロウロしている理由について、思いやる
  • 息子さんと認知症サポーター養成講座などに参加して、認知症への理解を深める

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