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勇者が加齢で老害に?ウケるファンタジー漫画で介護が身近になる

『ファンタジー老人ホームばるはら荘』
『ファンタジー老人ホームばるはら荘』

かつて魔王を倒し世界を救った勇者たちが、加齢とともに迷惑老人へと成り果て、老人ホームへ……介護をファンタジーの世界にあてはめた独自の設定が面白く、若い世代が気軽に介護に触れられるコミック『ファンタジー老人ホームばるはら荘』。作者の岡村アユムさんに、この設定やストーリーがどのように生まれているのかを聞きました。

――主人公の新人介護士マリーの日常でよく見かける仕事は、身体の起こし方だったり、声の掛け方だったり。『ファンタジー老人ホームばるはら荘』には、介護を知る方でないと描けないのではないか、と感じるシーンが多々あります。どんなところから着想を得ましたか?

岡村アユム(以下岡村 祖父母と同居していたため、祖父を自宅介護する祖母の姿を目にしてきました。現在、祖父は入院していますが、自分が中学生の頃までは、介護が日常に自然に組み込まれていましたね。食事のために祖父を呼びに行き身体を支えるのも、リンゴをすり下ろすのも自分の役目でした。「あれが介護だったんだ」というのは、大人になってから気づいたくらいです。
漫画を描くにあたっては、現役の介護士である友人を大いに頼りました。話の大筋を立てたうえで、自分で下調べをし、不自然でないかの質問リストをつくり、一つ一つ介護士に確認していく。そうしたステップは必ず踏むようにしています。

「あくまでストーリー展開に合わせて、豆知識を入れていく。読者の方が押し付けられている、と感じないように」と担当編集の松石遼さん
「あくまでストーリー展開に合わせて、豆知識を入れています」と担当編集の松石遼さん

――食事介助など、介護をするうえでの豆知識が図解で記されているのも新鮮です。「実際にやってみよう 食事介助NG集」もありますね。

岡村 図解は、設定作りの段階で「こんなことを表現してみたい」と漠然と考えていたことを編集担当に伝え、「わかりやすく図解にしてみましょうか」とアドバイスをもらったことがきっかけです。とはいえ、押し付けがましくなく、あくまで楽しく受け取ってほしい。それは描くうえで気をつけていることです。

担当編集の松石さんも、介護施設で暮らす祖母のお見舞いを通して“介護”を知った。「いざ、認知症の症状が現れると、距離感も接し方も変わってくる。心の準備が必要だな、と思いました」
担当編集の松石さんも、介護施設で暮らす祖母を通して“介護”を知った

「食事介助NG集」は、主人公マリーのキャラクターに由来しています。マリーは“痛い目を見ないとわからない人”。相手がどういう状況なのかを想像することが苦手で、想像すれば防げることも全部体感してしまう。ただ、同時に彼女を見ていてわかるのは、「実際にやってみるのが一番わかりやすいし、学べる」ということです。マリーは刻んだり、潰したりして原型を留めない食べ物は、自分も一度食べてみよう、と思っています。もしかしたら自分が考えている以上に、食べづらいかもしれない。実際に試してみないと何事もわからないのだと、作者の私が言うと逆なんですが、マリーの行動から気づきました。

――載せた食べ物を好物に見せる「幻影のお盆」に、吸水力が大幅アップした「スライムオムツ」……。リアルとファンタジーの掛け合わせも絶妙です。

岡村 現在の技術で最も効率的とされていることも、ファンタジーの世界ではその先まで成立させることができる。「ファンタジーの世界でここまで可能になったら、現実の世界の人も喜ぶだろうな」「こうだったらいいだろうな」という気持ちを大切にしています。
「スライムオムツ」について言えば、吸水ポリマーと同じような発想になりますが“スライムを砕く”というところにファンタジーならではの面白さを感じてもらえたら、と。

現実世界のネタをファンタジー世界で再生産する。発行元であるマッグガーデンでは、そうした漫画を多く発表してきた。「介護」というキーワードは、編集部の新連載を決める会議で自然と浮かび上がってきたという
現実世界のネタをファンタジー世界で再生産する。発行元のマッグガーデンは、そうした漫画を多く発表している

――排泄のシーンにも挑戦されています。表現が工夫されているので、とても自然に読むことができました。

岡村 描くのが難しいな、と思いました。知識を集めても、体験談を聞いても、それをどう表現すればいいのか。すごく悩みました。排泄は、生きていくうえでは避けられないこと。でも基本的にはそれを人に話すことも、人に見せることもないわけです。どうしたらいいんだろう、と担当編集ととことん話し合いました。ご都合主義には陥らずに、でも楽しく読んでもらいたい。そのバランスがとても難しかったです。

実際に介護士として働く方から「ファンタジーに変換されていますが、じつはあのことを指していますよね?」といったお便りもくるのだとか
介護士の方から「ファンタジーですが、じつはあのことを指していますよね?」とお便りもくるのだとか

読者の方がいつの日か介護の知識が必要になったとき、この漫画に散りばめられていたちょっとしたコツをふと思い出し、実際の生活に活かすことができたら。料理漫画であれば、料理をつくっているシーンを見て「自分でもできるかもしれない」と行動に移すこともありますよね。『ファンタジー老人ホームばるはら荘』で目指しているのも、まさにそこなんです。自分自身、普段生活するなかで「これは漫画で得た知識だ!」と感じることって結構ありますから。

「介護」は大切な人の健康や命を預かる、責任ある行為です。ですから、気負いすぎて潰れないでほしいという気持ちを込めて描いています。

岡村アユム(おかむら・あゆむ)
新潟県出身、漫画家。主な作品に 『ファンタジー老人ホームばるはら荘』(マッグガーデン/試し読みを無料公開中)、 『天使も定時で帰りたい!!』(実業之日本社)などがある。

【プレゼント】

直筆サイン入りコミックを1名にプレゼント。なんと、岡村さんが初めて書いたサイン本です! サインだけではなく実は……と、こちらは当選者さまだけのお楽しみ。奮ってご応募ください。なお、当選者への通知をもって発表に代えさせていただきます。
ご希望の方は、住所・氏名・連絡先・記事の感想と、件名「ばるはら荘サイン本応募」を書いて、nakamaaru-support@asahi.comまでお送りください。
※締め切り:3月10日(火)

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