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面白かったら笑っちゃおう 認知症も受け止め方次第 藤田弓子さん対談2

ペコロスの母を演じる藤田弓子さんと、原作者でペコロスのモデルとなっている岡野雄一さん
ペコロスの母を演じる藤田弓子さんと、原作者でペコロスのモデルとなっている岡野雄一さん

認知症の母と家族との実際にあったエピソードを、かわいらしいタッチで描いたベストセラー漫画『ペコロスの母に会いに行く』。その人気から映画化や舞台化もされています。今回で4度目となる舞台は、初回から厚生労働省推薦作品に。原作者でペコロスのモデル岡野雄一さんを前にして「お会いしたときは頭をなでるの(笑)」と、言葉どおりにそのペコロスをぺちぺちするのは、母役として舞台の主役を務める藤田弓子さん。お二人に作品に対する思いを聞きました。今回は後編です。
※前編はこちら

――漫画「ペコロスの母に会いに行く」には、ふっと笑ってしまう描写も多いですね。明るく描こう、と心に決めたのはなぜだったのですか。

岡野雄一(以下岡野) 母と一緒にいた頃、日常が面白かったんですよ、本当に。漫画を描く前は、「離れて暮らす弟は母の様子が気になるかな」と思って写真を送っていたんです。母ちゃん思いの弟だったので。心配をかけたらいけないという気持ちもあり、楽しそうにボケている母ちゃんの写真を撮り「母ちゃん、こんなになっちゃったよ(笑)」みたいなコメントをつけて送っていました。弟からも、「いい感じでボケてきたね(笑)」と返事が来て。漫画は、そのやり取りの延長です。

当時は、携帯電話でも動画が撮れるようになってきた頃。母が畳の上で面白いコケ方をして、動画で撮り損ねたときは、「もう一回転んで」って母にお願いしたりもして。

藤田弓子(以下藤田) 「もう一回転んで」っておっしゃったの?(笑) 面白いですね。

岡野 そうですそうです。そうしたら母がもう一度転んだあと、「これで良か?」って(笑)。

藤田 やっぱりそういうユニークな方だったのが良かったのかもしれませんね。「母ちゃんを見ていてネタの宝庫だと思った」ともおっしゃっていましたよね。

藤田弓子さん

岡野 自分のまわりを見渡しても、真面目な方ほどうつになったり倒れてしまう。「面白く面倒を看る」というのは、自分の精神状態にもいいんです。僕も漫画を描くことで、精神的に深刻になりすぎず良かったんじゃないか、と。それは病院のお医者さんからも言われたことがあります。

藤田 人と人との付き合いのなかでも、なんでも悪く捉えるか、面白く捉えるか、というところで人生変わってきますよね。
私は小さい頃からいじめられたことなどないと思っていたら、まわりからは「あなた、いじめられていたよ」と言われたこともあって。いじめている子の顔を見ていると、面白くなってしまう。「なんだか変わったことを言っているな」と思って、ジロジロ見ちゃう。そうやってジロジロ見る人には変なことを言わなくなるんですよね。私は昔からそうだったみたい。

岡野 役者をやっていらっしゃる方って、やはり人に対する好奇心みたいなものがあるのかな。

藤田 それはありますね。小さい頃からそうでした。怒っている人を見ても「なんで?」って。岡野さんも、「人が面白い」と思うから絵が描けるんでしょ。人に興味がある人は年を重ねても大丈夫だなって思います。

岡野雄一さん

岡野 いわゆる大企業で働いていた知人は、お母さんが認知症になったとわかった途端にトイレもお風呂も付き添って24時間面倒をみはじめて、自分ががんを煩っていることに気付かなかったそうです。結果的に、その知人の方が母親より先に亡くなってしまって。
24時間、親孝行をしなくてもいいんです。“プチ親不孝”をする時間、つまり親から意識が離れる時間は絶対に持った方がいいと思う。元気になってから、また向き合えばいい。

藤田 喰始(たべ・はじめ「ペコロスの母に会いに行く」の演出家)さんのお母様も認知症当事者でいらっしゃるみたいで。やはり面白いことをおっしゃることもあるそうで、「面白かったら、笑っちゃおう」と思うようにしている、とおっしゃっていました。一般的には当事者が面白いことを言っても「笑わないようにしよう」「またあんなことを言って」と悲しくなってしまったりするけれど。受け止めかた次第ですね。

――認知症に対するイメージは変わりましたか?

岡野 そういえば、僕は39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さんのことを知り、イメージが変わりましたね。会社も辞めず、ずっと講演活動もされていますよね。救いだな、と思いました。

藤田 岡野さんのように、そうやって人に興味を持つことができる人は、だいたい大丈夫ですよ。誰も一人では生きられないから。人と生きていかなければいけないからね。
私、舞台「ペコロスの母に会いに行く」のなかで、好きな言葉がたくさんあるんです。「お母さん、今日は何日?」って言われて「昨日は何日?」って聞くの。あれはいいですね。それから、「徘徊でもしてくるか」という言葉も。そういう風に返せるのがいいですよね。「あんたは禿げているほうが良か」って言ってみたり、一つ一つ言うことが可愛いの。チャーミングで愛嬌があったら、生きていけると思う。そうすると、人に愛されるから。愛される人になろうとしている、というわけではないけれど、そんな風に年を重ねていけたらいいですね。

※前編はこちら

藤田弓子(ふじた・ゆみこ)
俳優。1968年のNHK連続テレビ小説「あしたこそ」でヒロインデビュー。テレビ、映画、舞台のほか、講演など多方面で活躍中。伊豆地域全体の芸術文化振興を目的として設立した伊豆の国市付属劇団「いず夢」の座長としても地域に貢献している。
岡野雄一(おかの・ゆういち)
漫画家。1950年長崎生まれ。漫画雑誌の編集者を経て漫画家に。認知症になった実母を主人公に、自身や家族をモデルにした漫画「ペコロスの母に会いに行く」がベストセラーになると、テレビドラマ化、映画化、舞台化などが相次いだ。シンガーソングライターとしても活躍中。##カードモジュールここまで

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