認知症とともにあるウェブメディア

介護の裏ワザ、これってどうよ?

血圧200の壁 孫と国民的大女優の秘密 これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母が認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!

「うちの孫はさゆりちゃんに似てるんだよ!」「・・・」

孫が吉永小百合になっちゃった!

それは休日の昼下がりのこと。ばーちゃんが通っている病院で薬をもらった帰りに、気分転換でお茶でもしようと近くのファミレスに立ち寄りました。その日は満席に近い状態だったのですが、なんとか待たずに最後の一席につけたゆずこたち。しかしここで悲劇が起きてしまうのです。
メニュー表を開こうとしたその瞬間、
「ゆずこは吉永小百合ちゃんにそっくりだね!」
と、突然大きな声で孫を褒めまくる(?)ばーちゃん。さらに続けて、「目鼻立ちが瓜二つだよ!」「もしかしたら小百合ちゃんよりも美人さんかもしれないね」と、ばーちゃんの暴走は止まらない。
驚いたのは私だけではありません。突然の国民的大スターの降臨で、満席のファミレスは一瞬でざわつき始めたではありませんか。
「どこ?……え、全然似てないじゃない」
「うそ、あの子? どこが?」
周りを動揺させてしまって申し訳ないやら、恥ずかしいやらという気持ちでいっぱいですが、誰だ「なんだ、ずんぐりむっくりじゃん」って言った人は!……正解。

この突拍子もない「ゆずこは吉永小百合ちゃんに激似」発言ですが、実は我が家では“ばーちゃんの体調の変化のサインの一つ”だったりします。

小百合発言の裏にはある傾向があった

そのサインとは、「血圧が200を超えると、ゆずこを吉永小百合に似ていると褒めだす」というものです。こうやってばーちゃんがベタ褒めしているときに、持ち運びできる血圧計で血圧を測ってみると、必ず上が200を超えているという……。
平常時に褒められることはほとんどなく、大体180を超えると「あんた愛嬌のある体格してるじゃないか」(嬉しくないし、よく分からない)と外見を突然褒めだし、200を超えるとゆずこは決まって国民的大女優に変身するのです。

これが家ならまだいいのですが、このときは満席のファミレスで“小百合ちゃん”を連呼されてしまったため、一斉に周囲の視線がゆずこに集中! そりゃあ「激似!」と言われればちょっと振り返って見てみたくなりますよね。でもその先にいるのは、ほうれん草のベーコン炒めを口いっぱいに頬張るゆずこ。ええ、これっぽっちも似てませんけど。

「あんたはさゆりちゃんに激似だね!」※ファンの皆さますみません。これっぽっちも似ていません

血圧上昇で気分が高揚? 異変の伝え方

この「血圧が200を超えると、ゆずこを吉永小百合に似ていると褒めだす」謎のルールですが、原因があるのでしょうか。認知症や介護ストレスを専門とし、東大病院老年病科で物忘れ外来を担当している亀山祐美先生にお話を聞きました。

「いつもと違う場所や環境などで緊張して血圧が高めになるのは、認知症の初期から中期の方に比較的よくみられる傾向です。ゆずこさんのおばあさんもまた、満席のファミレスや多くの人の視線などが刺激になって血圧が上がったのかもしれませんね。
高血圧になることで影響する感情表現は千差万別で、気持ちが高ぶり、それが居心地の悪さに直結してしまう人も多くいます。大声で『帰る!』といって聞く耳を持たなかったり、家族や周囲の人に指をさして怒鳴り散らしてしまったり。元々の性格やその場の環境にも大きく左右されるので一概には言えませんが、ゆずこさんのことを『吉永小百合』と言う程度なら、まだ可愛いくらいです(笑)」

そうだったのですね! でも「ずんぐりむっくり」発言には精神的ダメージを受けましたが……。ばーちゃんはどのように落ち着かせればいいのでしょうか。

「声が大きくても『静かにして!』『黙って』と刺激してはいけません。相手を労うように『声を張ったら疲れちゃうでしょう』『この半分でばっちり聞こえているわよ』と伝えてみてください。
それと、私たちが高血圧になると肩こりや頭痛などにその兆候が表れる人もいますが、認知症の人は体の痛みに鈍くなったり言葉が出なくなったりして、症状を的確に訴えられなくなります。高血圧のほか貧血や肺炎、高熱などもそうです。自分の体に違和感があるのに、うまく表現できない。大声で叫んだり怒鳴り散らしてしまうのも同じことが言えます。今まで診た患者さんの中には『“何か”変だ』と訴える人や幻覚が見える人、いつも起きてくる時間に起きてこない、突然失禁してしまったという人もいます。行動の表面だけを見るのではなく、その背景や根本を探ってみる視点も大切です」

「その行動(発言)には何か理由があるのかも」頭の片隅に置いておくだけでも、異変に気が付けるかもしれません。
ファミレスに滞在していた1時間ほどの間、ひたすら「小百合に激似」と連呼されたゆずこ、いいえ、小百合。メンタルは相当鍛えられました。

亀山先生
亀山祐美(かめやま・ゆみ)先生
東京大学医学部附属病院・老年病科助教。医学博士。認知症、老年医学、介護うつ、介護ストレスを専門とし、日本老年医学会、日本認知症学会、日本老年精神医学会、日本抗加齢医学会などの専門医を務める。2003年より東大病院老年病科で物忘れ外来を担当。『不安を和らげる 家族の認知症ケアがわかる本』(西当東社)を監修。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア