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「会社は闘いの場」イメージ変えた。介護を語る企業内カフェの可能性

私たちの社会は、今まさに「大介護時代」の入り口に立っています。遠からず、多くの人々が介護や認知症というテーマに直面せざるをえなくなるでしょう。しかし、そんな未来に備えて十分に語り合える世の中になっているかというと、残念ながらまだ及ばないというのが現実かもしれません。
とりわけ私たちが介護や認知症の話をしにくい場所のひとつが勤務先です。仕事とプライベートを分ける風潮が強まるなか、上司・部下はもちろん、ともに働く同僚でも家庭内のことを詮索しないようになっています。
そんな時代に、会社の中で介護について語り合うカフェを開催し、新しいコミュニケーションの土壌を作り出すことに成功した企業があります。
それはドイツ銀行グループ。意外にも、ドライな人間関係をイメージされがちな外資系企業です。

ドイツ銀行グループ本社・18階会議室で行われた12月の「ケアギバーズカフェ」
ドイツ銀行グループ本社・18階会議室で行われた12月の「ケアギバーズカフェ」

東京都千代田区永田町にあるドイツ銀行グループ本社では、2018年10月から毎月1回、「ケアギバーズカフェ」が行われています。
社内でこのカフェを取り仕切るのはIT部門に勤める後藤三枝子さんと山崎亮さん。そして外部からファシリテーターとしてNPO法人・UPTREE代表の阿久津美栄子さんが参加します。
カフェの日時・場所などの情報は、開催日の2週間前に、社内メールで約500人の全社員に一斉送信されます。
これまでの参加人数は各回10~20人ほど。その顔ぶれは所属・役職もさまざまで、同じ社員といってもカフェで初めて言葉を交わす人が多いといいます。ドイツ銀行グループの代表者である、本間民夫チーフ・カントリー・オフィサーも過去に参加したことがあり、継続的に応援する姿勢を示されているそうです。

ファシリテーションするNPO法人・UPTREE代表の阿久津美栄子さん
ファシリテーションするNPO法人・UPTREE代表の阿久津美栄子さん

ほとんどの社員が自分で勤務時間を決められる裁量労働制のドイツ銀行グループですが、やはり昼休みの時間帯が参加しやすいということで、「ケアギバーズカフェ」は11時30分から始まります。
2019年12月の回では、途中参加の人も含め12人が集まりました。
開始時刻になると、まず遠距離で親の認知症介護をしているカフェリーダーの後藤さんからあいさつがあります。続いて2人の初参加者が、自己紹介を兼ねてそれぞれの関心事について一言ずつ話をしました。
「そろそろ介護が始まりそう」
「準備の段階で何をしたらいいのか知りたい」
それを受けてファシリテーターの阿久津さんが、この日のテーマ「介護に関する兄弟(姉妹)間格差トラブル」に繋げていきます。
「兄がちょっと頼りなかったので、妹の私が多くを引き受けた」
「きょうだいでも価値観が違う」
「(兄弟の)お嫁さんとの方がうまくいくこともある」

家族と介護について話した体験を語るドイツ証券社員・山崎亮さん
家族と介護について話した体験を語るドイツ証券社員・山崎亮さん

それぞれの体験談が交わされるなか、カフェ発起人の一人である山崎さんが、家族と将来について話し合ったことを打ち明けます。
「親とはエンディングノートの話をしました。次は、兄弟で、親の老後について話す機会を持ちたい」
まだ具体的な介護は始まっていない山崎さんですが、カフェへの参加がそんな会話のきっかけになったそうです。
「ケアギバーズカフェ」では、いろいろな介護の段階にいる参加者が学び合います。
東京都小金井市で地域のカフェも行っている阿久津さんは、次のように語ります。
「非常に勉強熱心なのが企業内カフェの特徴です。目的なく参加する人はひとりもいません」

カフェリーダーを務めるドイツ証券社員・後藤三枝子さん
カフェリーダーを務めるドイツ証券社員・後藤三枝子さん

いま、後藤さんの周囲では、カフェではない場でも介護の話が出るようになってきたそうです。
「世間話風にその人の介護に関する話を聞くこともあります。たとえ参加できずとも、カフェの存在が心の支えというか気持ちの吐け口になっているなら、カフェを1年続けてきた良い影響ではないかと思います」

ある参加者はいいました。
「これまで会社は闘いの場だと思っていたけれど、介護について話すことでそのイメージが大きく変わりました」
これはカフェの可能性を感じさせる言葉ではないでしょうか。最も介護について話しにくい場である「会社」のイメージが変わるなら、日本人の労働観や人生観にまで影響するかもしれません。

左から山崎さん、後藤さん、阿久津さん(ドイツ銀行グループ受付前にて)
左から山崎さん、後藤さん、阿久津さん(ドイツ銀行グループ受付前にて)

後藤さん、山崎さん、阿久津さんの3人によると、企業内カフェで心すべきことは次の2つだそうです。
1つは「有志でいいから思い切ってはじめること」。
現在の「ケアギバーズカフェ」は社内有志の活動という位置づけです。だからこそ、社長が参加しても雰囲気が変わらないでいられます。認知症カフェの用語でいえば「役割を外す」ということに繋がるのでしょう。
もう1つは「たとえ参加者がいなくても、必ず毎月開催すること」。
いつか参加したいと思っている人にとって、毎月変わらずカフェがあるということが大事なのだそうです。

この記事を読んで、うちの会社でもできるのではないかと思った人もいるかもしれません。そんな方には、ぜひ一歩を踏み出していただきたいと思います。ひとりひとりの小さな動きが、世の中を少しずつ変えていくはずです。
まさに「企業内・認知症カフェ」は日本社会を変える切り札といえるでしょう。

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