1月2日のお雑煮 やっぱり敵わない母の味 認知症の母が喜ぶ毎日ごはん
撮影/百井謙子
フードライター大久保朱夏さんが、認知症のお母さんとの生活のなかで見いだしたレシピを紹介します。父の焼く角餅と、澄んだ出汁とゆず香る母のお雑煮。なかなかたどり着けない両親の味。
※料理は普通食です。かむ力やのみ込みに配慮した介護食ではありません
私が子どもの頃から、年末になると母はおせち作りに奮闘していた。28日はなます、黒豆、29日はきんとん、田作り、30日は昆布巻き、酢ばす、しいたけの甘煮、叩きごぼう、ピリ辛こんにゃく、31日お煮しめ、魚の塩焼き、ごぼう煮物、数の子と4日がかり。雑誌『栄養と料理』や『きょうの料理』の切り抜きをノートに貼り、えんぴつで書き込みをして工夫を重ねていた。
元旦はお雑煮。使い込まれたかつお節削り器で、カッカカッカといい音を立てながら削り節にして、昆布と合わせて一番だしをとる。東京生まれの母が作るのは、あっさりしたすまし仕立ての東京風の雑煮。父が網で焼いた角餅の香ばしさと、澄んだだしの味、ゆずの香りが絶妙だった。
唯一、おせち作りが途絶えたのは父が亡くなる直前、2003年の年末。看病で疲弊していた母を見かねた私が、「今年は料理屋さんのおせちを注文しよう」と言い出したのだが、最期を迎えようとしている父に、我が家のおせちを食べさせたかったと今でも後悔している。
父が亡くなってからは私と妹も加わり、3人で手分けしておせちを作った。母は、アルツハイマーの診断を受けてからも2年ほどは、お雑煮が作れた。みそ汁の味は、ぼんやりしてしまったのに、お雑煮の味は不思議と決まっていた。
ある年からは、私が母にかわってお雑煮を作るようになったが、いまだにその味に到達できない。年々歳々人同じからず、今年は、母は老人ホームで、私は夫と妹、ふたりの姪と5人でお雑煮を食べる。
お雑煮
母の味を思い出しながら作ったレシピです。我が家の元日の雑煮は、小松菜、かまぼこ、ゆずのシンプルな東京風。2日になると鶏肉、里芋、にんじんが加わります。具だくさんの2日のお雑煮を紹介します。里芋は乾いた状態で皮をむくと、ぬめりが出ず、むきやすいです。野菜を下ゆでしておくと、手際よくお雑煮ができあがります。
材料 2人分
切り餅 2個
かつおと昆布の合わせだし 400ml
鶏もも肉(小さめの一口大) 90g
里芋 2個(80g)
にんじん(2cm長さの薄切り) 8枚
小松菜 40g
しょうゆ 小さじ1
塩 小さじ1
松葉ゆず 適量
作り方
- 小松菜はかためにゆでて、水けをしぼり3cm長さに切る。里芋は皮をむき、薄切りにしてにんじんとともに下ゆでする
- 鍋にだしを入れて温め、しょうゆ、塩で味つけをして鶏肉を5分ほど煮て火を通し、1の野菜を加えて温める
- 切り餅を網で焼く
- お椀に2と3を盛り、松葉ゆずを添える