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介護の裏ワザ、これってどうよ?

「酒をくれ」認知症の祖父に勧める酒の中身は? これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!

「水? のどなんか渇いてねーよ! 酒ならのむぞー!」※口の中は乾燥してカピカピです。

高齢者が陥りがちな、ちょっと心配な水分不足

普段、あまりにもばーちゃんのインパクトが強いので目立たない存在になっているじーちゃんですが、実はなかなかの曲者です。昔からお酒が大好きで、ゆずこと一緒に暮らすまでは毎晩、近所のお寿司屋さんで焼酎のお湯割り(梅干し入り)やら、熱燗の日本酒を「くいっ」とおいしそうに飲みまくり。まぁ、驚くほど大量に飲んでしまうとか、アルコール中毒というわけではないのですが、心配なのはお酒に比べて水を飲まないこと。

夏だろうが、冬だろうが、目の前で「飲むまでここにいるからね!」と半ば強制しないと、なかなか水分をとってくれないのです。
基本的な水分補給は、みかんをしゃぶるだけ。薄皮は食べずにミカンを一房ずつしゃぶって水分をとります。ほっとくと一日で10個や20個、おおげさな話ではなく段ボール箱の半分くらいペロッと食べてしまうことも。だけど、じーちゃんは糖尿病。ビタミンが摂れるのはいいのですが、糖分たっぷりの甘いみかんを大量に食べちゃうのは、なんとか阻止しないといけません。
水は飲まないけど、お酒なら飲む。そんなじーちゃんの傾向を見ていて、ゆずこは“ある作戦”を実行することに……。

100円ショップでゲットできる、水を酒に変える錬金術

お酒なら飲む。それなら、水をお酒に変えちゃえばいいじゃないか。そんな錬金術のようなこと、できるわけが……あるのです。
まずは100円ショップで霧吹きを購入。次に、水でちょっと薄めた焼酎を霧吹きに入れて思いっきりシェイク。シェイク、シェイク。自家製フレーバー「なんちゃってアルコール水」の完成です。そしてじーちゃんが「酒をくれ」と言ってきたら、水を注いだコップの上からすかさずシュシュッ!と振りかけます。

「冷酒が飲みたい」と言われたら、冷たい水に3倍くらいに薄めた「日本酒フレーバー水」を(ぬる燗ならぬるま湯に)シュシュッ。
「焼酎のお湯割り」なら、お湯に焼酎のフレーバー水を振りかけてから梅干しを落とせば完成です。イメージとしては、カクテルの最後の仕上げに上から柑橘系の皮を振りかけて香りづけする感覚に近いかも知れません。
「なんちゃってアルコール水」、見た目も味(表面の香り)もかなり本物そっくりです。
ちなみに、じーちゃんはウィスキーやハイボールもたまに飲むのですが、そんなときは麦茶やウーロン茶をベースにして、最後に“ウィスキー水”を振りかければOK。どれもグビグビッと飲み干し、「(俺が求めていたのは)これだよ!」と、嬉しそうに口を拭ってご満悦なじーちゃん。水分不足も解消されて一石二鳥です。しめしめ♪

「お待たせ致しました。当店自慢の一杯でございます」「やっぱコレだな」日本酒、ウィスキー、ブランデーに焼酎など、各種薄めた水を用意

地域の力を借りることで解決する方法も

「できることなら、お酒を飲みたいというじーちゃんの望みを叶えてあげたい。でも水分不足は結構心配」というゆずこの思いが生み出したこの作戦。専門家から見るとどうだったのでしょうか。

認知症の在宅医療推進や情報の発信に積極的に取り組み、『認知症の人を理解したいと思ったとき読む本 正しい知識とやさしい寄り添い方』(大和出版)の監修を務める、湘南いなほクリニック院長・内門大丈先生にお話しを聞きました。

「“霧吹き作戦”なんて初めて聞きました。すごい工夫ですね(笑)。歳を重ねると味覚や嗅覚がどうしても鈍くなったり、同時に『自分は喉が渇いているかどうか』というのも分かりにくくなります。そこで、水分不足の状態かどうか周りにいる人が判断できる一つの方法が“ツルゴールテスト”です。手の甲を軽くつまんでみて、皮膚のもどり具合をチェックしてみてください。大体2秒以内に元に戻れば平常で、それ以上は脱水が疑われます。

また、大酒飲みの認知症の方に対しては、家族だけじゃなく地域ぐるみで協力し合うという方法もあります。自分で買い物に行ける、とある方の家族は、本人に『ノンアルコールでお酒の量を減らしていきましょうね』と伝えたうえで、周りのお店にも状況を説明し、ノンアルコール飲料を売ってもらっていたそうです。今は見た目も味も本物のビールそっくりな商品が多いので、本人はお酒を買って飲んでいるつもりで満足します。そうしてお酒の量を少しずつ減らしていくのも一つの手です」

じーちゃんにめちゃくちゃ効果があったこの作戦ですが、これから年末年始の飲みの席で試してみるのもいいかも……?
かなり酔っていると、自分が何を飲んでいるのか、その味やおいしさなんてわからなくなってしまうことも多いので、酒量を調整するのにも使えるかもしれません。
Byのん兵衛のゆずこ。

内門大丈先生
内門大丈先生
湘南いなほクリニック院長。いなほクリニックグループ共同代表。日本老年精神医学会専門医・指導医。日本認知症学会専門医・指導医。認知症の在宅医療推進や認知症情報の情報発信に積極的に取り組んでいる。『認知症の人を理解したいと思ったとき読む本  正しい知識とやさしい寄り添い方』(大和出版)監修。

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