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認知症とまちづくり

自治体のみなさーん!誰とコアチーム作ってますか?認知症とまちづくり1

これをすべて1人で進めるのか? 認知症まちづくりイメージ1

この記事のポイント

●なぜ認知症の人にやさしい「まちづくり」が必要なのか
●自治体担当者が直面する問題
●自治体のやり方は認知症の人の役に立っているだろうか
●まちづくりを進めるための体制「コアチーム」とは

国の方針は「共生」と「予防」の両輪

認知症とは、正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活や社会生活を営みづらい状態になることを言います。2019年6月に策定された政府の「認知症施策推進大綱」と内閣府の「平成29年版高齢社会白書」によると、2018年に認知症高齢者数は500万人を超え、65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症となり、来る2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると見込まれています。

さらに大綱には、「認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら、『共生』と『予防』を車の両輪として施策を推進していく」とあり、国の指針としての「まちづくり」「社会のデザイン」が示されています。では、具体的に現場では、どのような取り組みを進めればいいのでしょうか。この連載は、新しく就任した自治体の認知症施策推進担当者や、認知症まちづくりに関心のある医療介護関係者、ご家族の方々に役立てていただけるように、医療法人静光園白川病院(福岡県大牟田市)医療連携室長の猿渡進平さん、NPO法人認知症フレンドシップクラブ理事で株式会社DFCパートナーズ代表の徳田雄人さん、株式会社フューチャーセッションズ セッションプロデューサーの芝池玲奈さん、3人のオピニオンリーダーにお話しをうかがいます。

なぜ認知症の人にやさしい「まちづくり」が必要なのか

――まずお三方が認知症の人にやさしい「まちづくり」に関わったきっかけを教えてください。

猿渡 私は福岡県大牟田市にある白川病院のソーシャルワーカーで、認知症と共に生きる方やそのご家族の様々な相談を受けています。一番多い業務内容は、退院後の相談です。ご本人は「家に帰りたい」とおっしゃいます。一方、ご家族は「退院して家へ帰るのは心配だ。施設を希望する」とおっしゃる。ご本人とご家族の間で、意見に差の出ることがあります。

ご家族の意見には「認知症の人は周りに迷惑をかける。自分も常時対応ができるわけではない」といったものが多く見られます。そして、まちを見渡してみると、まちの人もご家族と同じような考えを持っていることが多いです。地域の商店などからは「認知症の人は、他のお客さんとトラブルを起こすのではないか。以前、万引きをされて大変だった」とコメントをもらうこともあります。認知症の方が自宅で生活するためには医療や介護も当然必要ですが、まち全体がやさしくなることが必要ではないか。病院の中だけで医療保険、介護保険サービスのアドバイスをするだけではなく、認知症と共に生きる方々のよりよい生活のためにはまちの在り様を考えることが必要ではないかと思い、院外の活動をするようになりました。

話し手3人の写真 認知症まちづくり

徳田 私は、2009年までNHKで認知症番組のディレクターをしていました。その取材中、「運動自体は問題なくできるが、更衣室で着替えをするとどこに自分の服を置いたのかがわからなくなるという理由で、スポーツクラブを利用することをあきらめた」という若年性認知症の方に出会いました。これは認知症の病気としての課題というより、社会の課題なのではないか。認知症の方の困りごとに社会の側からアプローチすべきではないかと思い、10年前から社会をデザインするNPOの活動をしています。

芝池 フューチャーセッションズという企業で、企業、自治体、NPO、市民など、あらゆる立場から自らの想いで社会を変えようとする方たちと、イノベーションが生まれる場づくりをしています。認知症の人にやさしいまちづくりに取り組むきっかけとなったのは、徳田さんからの相談でした。認知症の人にやさしいまちづくりのことを「認知症まちづくり」と呼んでいますが、これを進めるにあたって、地域の方々がイベントで集まるだけでなく、継続的にまちを変えていくためには、ファシリテーションのスキルが必要なのではないかと。フューチャーセッションズが実践しているファシリテーションスキルをお伝えする講座などを通じて、猿渡さん、徳田さんと一緒に活動をしています。

自治体担当者が直面する問題

――今年出された厚生労働省の「認知症施策推進大綱」には、まちの『共生』の取り組みが必要と書かれていました。しかし自治体の認知症施策担当者のなかには、認知症の方との共生について、どこから手をつけてよいのかわからない方もいると思います。認知症の人にやさしい「まちづくり」を進める上で、自治体担当者が直面する問題について教えてください。

芝池 「認知症サポーター養成講座」(※)や「認知症カフェ」(※)はすでに行っている。また、認知症の本人の声を取り組みの起点にしようと、認知症の人同士が集う「本人会議」を始めようとしている自治体も多いかと思います。でも「イベントをすることで担当者の頭がいっぱいいっぱいになってしまっている」「活動を継続していても、認知症の方が不在のまま」という話はよく聞きますね。

認知症サポーター養成講座 認知症高齢者等にやさしい地域づくりに取り組むため、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の人や家族に対してできる範囲で手助けする「認知症サポーター」を全国で養成するもの。

認知症カフェ オランダで始まったアルツハイマーカフェを源流として、世界各国にさまざまな形で広がったもの。日本では2012 年の認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)で紹介され、続く認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)では、全市町村設置を目指すことが示された。

徳田 そういう悩みのある方は、手段と解決する課題がフィットしていないことにジレンマを感じるようです。

「認知症サポーター養成講座」「認知症カフェ」の参加者を増やそうと手段の側に焦点を当てると、「そもそも認知症の方がどんな課題を抱えているか」という具体的なイメージがないまま任期を全うしてしまうことになります。すると、一生懸命仕事をしたのに、当事者の困っていることを解決した気がしないまま、次の担当者に引き継ぐことになります。地元で暮らす認知症の当事者の方々、ご家族のグループとの関係性を構築し、その声に耳を傾け、直接情報を取ることが担当者のスキルとして必要とされているのではないでしょうか。

自治体のやり方は認知症の人の役に立っているだろうか

徳田 今の自治体のやり方は、認知症の方の役に立っているのだろうかと、立ち止まって考えた方がいます。その方は静岡県富士宮市役所の稲垣康次さんで、彼は若年認知症の佐野光孝さんご夫婦が役所へ相談に来られた際に、市の職員とのやり取りを聞いて「これまで認知症政策として市役所でやってきたことだけでは、今そこにいる人の問題解決をできない」と感じたと言うんですね。要は、佐野さんは、退職されても自分の役立てる仕事や役割を探しに来られていたのに、市役所の相談員は介護サービスや要介護認定をすることしかできなかった。その後、稲垣さんは佐野さんと一緒に市の認知症に対する取り組みを見直していきました。

各地で認知症の人にやさしい「まちづくり」を中心になって動いていらっしゃる方は、「そもそもこの仕事は誰のために、何のためにやっているのだっけ?」という違和感を大切にされていて、取り組みの場には必ず認知症当事者の方がいらっしゃいますね。

猿渡 徳田さんのお話は認知症の当事者と接して課題を見つけたものでしたが、まちの人の協力を得る際も同じことが言えると思います。

私の勤め先の病院に地元商店街の眼鏡屋さんが出張販売に来ていました。入院患者さんの中には、老眼鏡や補聴器を必要とする方がいらっしゃるからです。眼鏡屋さんは「お店の中にいるだけでは、なかなか物が売れない」と言っており、こうした地元商店の課題も解決できないだろうかと考えました。そこで認知症と共に生きる方や地域で暮らす買い物に行きたいという方のニーズと、眼鏡屋さんの困りごとをつなげて考え、高齢者施設や高齢者が多く集まるサロンへの出張商店街が形になりました。具体的な課題は、目の前の人としっかり話をしていくことで見つかります。いまでは、出張商店街は幼稚園のイベントなどにも呼ばれているそうです。

暮らしはよくなっているだろうか? 認知症まちづくりイメージ2

まちづくりを進めるための体制「コアチーム」とは

――認知症まちづくりは、誰がどのような体制で進めていけばいいのでしょうか?

芝池 「まちづくり」「社会のデザイン」と聞くと、関わる領域が広いために何から手をつけてよいのか、わからないところがありますよね。先ほど徳田さんや猿渡さんが話されていましたが、スポーツクラブや買い物といったように困りごとは様々なシーンで起こり得ますし、そこでは大人から子どもまでまちにいる多様な人が関わることになります。その多岐にわたる問題を、自治体の方だけで解決するのは大変です。

そこで、認知症施策に関わる自治体の方々だけでなく、医療の専門職やNPO活動をされている方などと、まちづくりを推進する「コアチーム」を作る。チームが出来たら、そこに新しい人たちを招き入れ、「どんなまちにしていくのか。そのために何を解決すればよいのか」を一緒に考えて進めるといいのではと考え、現在実践しているところです。

徳田 「自治体だけで頑張って解決するのはアプローチとして限界がある」というのは多くの領域で言われていることで、認知症はまさにその領域の1つです。自治体の福祉担当者は、今まで課題のある方々を1対1で対人支援することが仕事で、それがコアの価値でしたが、これからは社会や地域の関係を変える課題が仕事になるのだと思います。

そのための解決方法として考えられるのが、「コアチーム」の考え方です。高齢福祉課の担当者が1人でまちづくりを考えるのではなく、まちのさまざまな方を招き入れて、同じ問いを共有する。頑張る人たちをまちの中に増やしていく。

猿渡 徳田さんの話に「問いの共有」がありましたが、実際にまちの人とワークショップを行ってみて「問いの立て方」がとても重要だと感じています。

認知症の方に限らず、私たちが生きていく上で、銀行、スーパーマーケット、スポーツ・レクリエーション施設など、さまざまな地域の資源が必要ですよね。でもこれまで関わりのないお店の方に「認知症の方を支えてください」といきなりお願いしても、なかなか受け入れてはもらえません。忙しい地域商店の方たちの立場に立っていないからです。

実は高齢者の一番の困りごとは、「買い物」です。これは大牟田市だけに留まりません。全国に共通する困りごとです。ですから高齢者が困っていらっしゃるデータや大牟田市の高齢者率(※)を地元企業や商店の方たちに見ていただき、「高齢者のお客さんに対して、スーパーの価値をどう高めていくか。子どもや高齢者がゆっくり会計のできる“ゆるいレジ”があってもよいのではないか。そうすることによって客の増加に寄与できるのではないか」と説明すると、皆さん前のめりになることが多いものです。一般的な市場では、「利益」というキーワードを示す必要があります。ボランティアだけではどうしても自分ごと化せず、継続的な事業にすることが難しいように感じます。人を招き入れるための「問い」をどう立てるか。「問いの立て方次第」で、話し合いの空間は随分変わってくると思います。

※大牟田市の高齢者率 = 2019年4月1日現在で36.3%

次回に続く

徳田雄人
東京大学文学部を卒業後、NHKのディレクターとして、医療や介護に関する番組を制作。NHK退職後、認知症にかかわる活動を開始。2010年よりNPO法人認知症フレンドシップクラブ理事。NPOの活動とともに認知症や高齢社会をテーマに、自治体や企業との協働事業やコンサルティング、国内外の認知症フレンドリーコミュニティに関する調査、認知症の人や家族のためのオンラインショップの運営などをしている。著書に『認知症フレンドリー社会 岩波新書』。
猿渡進平
医療法人静光園白川病院医療連携室長。1980年福岡県大牟田市生まれ。日本福祉大学大学院卒。同居の祖母が認知症になったことが理由で福祉の道に進む。2002年、医療法人静光園白川病院に入社。その後大牟田市地域包括支援センター、厚生労働省社会・援護局の出向などを経て現職。また、一般社団法人人とまちづくり研究所理事、認知症未来共創ハブ運営委員、NPO法人認知症フレンドシップクラブ認知症まちづくりファシリテーターチーム、NPO法人しらかわの会理事・事務局長、NPO法人大牟田ライフサポートセンター理事、大牟田市認知症ライフサポート研究会コアメンバーなど、社会活動に従事している。
芝池玲奈
慶應義塾大学総合政策学部卒業。学生時代から開発教育ワークショップの企画やファシリテーションに取り組み、卒業後は大手研修会社にて講師を勤める。2013年より、新しい未来を創っていくために、株式会社フューチャーセッションズに参画。セクター横断のイノベーションプロジェクトや、組織内ファシリテーターの育成を通じた組織開発・変容プロジェクトを、企業や自治体などで多く手がけている。つくりたい未来は、私たち一人ひとりの「自分ごと」が引き出され、表現され、実現され、響きあう世界。

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