渋谷と認知症

渋谷がオレンジ色に!認知症当事者が交差点をパレード「RUN伴」

認知症の当事者、家族、医療福祉関係者、地域住民、ほか支援者が地域を走ってタスキをつなぐ、認知症の啓発イベント「RUN伴」(らんとも)が10月19日、東京都渋谷区で開かれました。参加者は総勢約600人。「どんな人が?」「何をするの?」。イベントの様子を取材しました。

渋谷のスクランブル交差点をパレード
渋谷のスクランブル交差点をパレード

「RUN伴」は、NPO法人・認知症フレンドシップクラブ(東京)が主催し、2011年に北海道で始まりました。喜びや達成感を共有することで、認知症の当事者を含め皆が地域でともに暮らす大切な隣人であることを実感し、新たなつながりを生むことが目的です。
取り組みは次第に西に広がり、近年は日本列島縦断を目指して全国各地で開催されています。地域でたすきリレーを完結させる「RUN伴+」(らんともぷらす)はその姉妹イベントです。
渋谷区の「RUN伴」は、一昨年、昨年と認知症フレンドシップの主催で開かれましたが、3回目の今年は「RUN伴+渋谷2019」(らんともぷらす・しぶや2019)」と銘打ち、同区在住・在勤の市民による実行委員会が運営しました。

この日は「大雨」との天気予報で関係者をはらはらさせましたが、渋谷周辺などの都心は朝方に雨が上がり曇り空でした。計画では、区内に1.5~4.5キロの五つのリレーコースを設定。認知症の当事者が家族、支援者らとともに走り、中継地点で次の走者の当事者にタスキを渡します。ゴールはいずれも渋谷駅北側の美竹通りに面したキユーピー本社前。5コースの参加者全員がゴールした後は、渋谷駅のスクランブル交差点を通過する1.5キロの「認知症啓発パレード」をにぎやかに行います。

走るのではなく応援で参加する人も多数
走るのではなく応援で参加する人も多数

午前10時ごろ、5コースからそれぞれ先頭走者がスタート。「西部コース」(約4.5キロ)の二つめの中継地点である同区上原の特別養護老人ホーム「杜の風・上原」では、RUN伴+渋谷実行委員の中島珠子さんと、中島さんがここで月に1回開いている若年性認知症カフェ「caféマリエ」に来ている当事者や家族12人でつくる「チームマリエ」が、ランナーの一群を待っています。看護師・認知症ケア専門士の資格をもち、渋谷区のRUN伴に1回目から実行委員として携わる中島さん。RUN伴は、もともと「RUN TOMORROW」(明日に向かって走ろう)の略。でも、中島さんはこう言います。
「ランともって言葉がわかりにくいわよね(笑)。『RUN(ラン)』といっても速く走るのではなく自分のペースで。『とも』は伴走の「伴」と私は捉えてますよ」

前のランナーからタスキを受け取るヤマセさん
前のランナーからタスキを受け取るヤマセさん

午前10時55分ごろ、前の中継地点から1キロほどゆっくり走ってきた50代と60代の当事者女性2人が「杜の風・上原」に到着しました。施設の高齢者や支援者50人ほどが「がんばれー」「がんばれー」と声援で出迎えます。2人からタスキを受け取ったのは「チームマリエ」の男性メンバーで同区笹塚在住のヤマセさん(62)=仮名。
今度は、ヤマセさんを先頭にほかのメンバーや「認知症になっても安心して暮らせるまち渋谷」と書かれたのぼりを持つ支援者、自転車で伴走する人、手作りのボードを持つ関係者ら20人ほどの集団が、約2キロ先のゴールを目指してスタートしました。

NHKの脇を通って渋谷の中心を目指す一行
NHKの脇を通って渋谷の中心を目指す一行

タスキをかけた走者も、伴走する人たちも、認知症支援のシンボルカラーであるオレンジ色のTシャツを着ています。集団は目を引き、まちの人から「なに?」「認知症?」という声がちらほら。速足のペースで進み、午前11時45分に皆で手をつないでオレンジ色のゲートにゴール! 福祉関係者や支援者、家族らが出迎え、また大きな拍手が起こりました。

少し上気した顔のヤマセさん。「いつも歩いているから、これくらい大丈夫。楽しかったですよ」。
マンション管理の仕事をしていたヤマセさんが認知症と診断されたのは、去年の4月。初めての場所に行けない、電車に乗れない、地図がわからないなどの症状が出て、周りに促されて受診。ヤマセさんの母親も認知症で、介護経験があった妻のアキコさん(59)=仮名=の支えもあり、診断後は「しょうがない」とすぐ受け入れられたといいます。RUN伴は今年で2度目の参加。「渋谷のスクランブル交差点なんて普段こないからね。感謝しかないよね。来年も参加したいです」。傍らのアキコさんは「認知症の啓発活動を声高にしたい気持ちはないけれど、こういうイベントは気持ちがよくていいですね」と話していました。

5ルートの走者が次々にゴール。みな笑顔で出迎えます
5ルートの走者が次々にゴール。みな笑顔で出迎えます

毎年参加している同区広尾在住の櫻間嶺子さん(90)は、シルバーカーを押して3キロを「走破」しました。付き添ったのは地域密着型デイサービスの管理者、丹羽太郎さん。丹羽さんいわく「素晴らしい企画ですよ。室内でなく外をみなで歩くというのもいいものです」。
5コースのすべての走者がゴールしたのは午後0時15分ごろ。少しの休憩をはさみ、渋谷駅周辺のパレードへいよいよ出発です。

午後0時40分、渋谷駅近くのキユーピー本社前に整列したのは、認知症の当事者約30人を含む総勢約200人。松葉杖や車いすなどを利用している人も見られました。「認知症にやさしい渋谷」の横断幕を掲げ、4人ずつ並んでパレードに出発。美竹通りを宮下公園の交差点まで下り、高架下を通ってタワーレコードの角、渋谷駅前のスクランブル交差点、宮益坂上を左折し、キユーピー本社前に戻る約1.5キロ。警察車両にも先導され、渋谷駅周辺の象徴的なスポットを歩きました。

開業直前の渋谷スクランブルスクエアを横目に
開業直前の渋谷スクランブルスクエアを横目に

「らんとも渋谷!」「一人一人が!」「タスキを繋ぎ!」「地域とともに!」「暮らそう渋谷!」。認知症理解のためのシュプレヒコールを繰り返しながら、車道を歩いてPR。手首におそろいの鈴を付け、手作りのプラカードやオレンジ色のぽんぽん、髪飾り、のぼり、うちわ、手作りボードなど、工夫を凝らした装いでアピールしながらコールを繰り返しました。
訪問看護ステーションのスタッフが拡声機でパレードの趣旨を説明。「認知症になっても安心して暮らせる渋谷を目指し、年に1回渋谷の街を歩いています」。その説明を聞いた小学生が「ふーん、そういうパレードなんだ」と母親と話す声が聞こえてきました。タピオカを手に振り向くカップルや、スマホでカメラをとる人など多くの注目を浴びて、午後1時15分ごろゴール地点に到着。全員がハイタッチで笑顔、自然に拍手が起こりました。「緊張しちゃった」「ちょっと恥ずかしい」という声もありましたが、皆どこか誇らしげでいきいきとした表情でした。

なだらかな坂が続く宮益坂もテンポ良く歩いていました
なだらかな坂が続く宮益坂もテンポ良く歩いていました

同区本町在住のヨシエさん(67)=仮名=も笑顔で渋谷をパレードしました。最初は少し話しづらそうでしたが、パレードではコールを口ずさみました。ヨシエさんが認知症と診断されたのは6年前。当初は、夫のカズオさん(67)=仮名=も戸惑うばかりだったそうです。「近親者に認知症の人がいなくて、全く対応がわからなかった」「本人が好きで(認知症に)なったわけじゃない。よく2人で話しをしますよ。寝たら忘れちゃうけど(笑)」とカズオさん。認知症について理解を深めるため介護の勉強もし、夫婦2人暮らしを続けています。

シュプレヒコールをくり返しながらプラカードも掲げ、注目を集めていました
シュプレヒコールをくり返しながらプラカードも掲げ、注目を集めていました

パレードは注目を集める一方、関心がなさそうにスマホを見つめ続ける人も。しかし、当事者にとっても達成感があり、認知症について考えるきっかけになる取り組みです。RUN伴の関係者は「何より続けることが大切」と声を揃えます。
今回は、応援や準備、施設の関係者なども含めると総勢600人が参加しました。冒頭の中島さんも「まず、このイベントを知ってもらうことで認知症への理解を深めるきっかけになれば」と期待します。皆様お疲れさまでした!

パレード後の集合写真。お疲れさまでした!
パレード後の集合写真。お疲れさまでした!

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