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介護施設で、あるある探検隊♪

介護職必読!いじめと「イジり」の境界線 あるある探検隊の活動報告11

「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま介護施設をまわっています。テレビや劇場の一般客相手と違って、施設の利用者さんたちを笑顔にするのは、やっぱり難しい! そんな2人が見つけた、今日の介護現場の“あるある”は――。

レギュラーと介護施設のみなさん
写真は毎回、レギュラー公式マネジャーがスマホで撮影した「渾身」の1枚です!

介護施設では、普段のステージのように観客になにか質問を投げかけても、すぐには答えが返ってこないことがままある。だけど、そんなときでも“経験”を積んだレギュラーの2人は慌てない。返事を待つ時間が、お笑い用語で言うところの「タメ」の効果を生み、結果的により大きな笑いにつながることがあるからだ。
たとえば、ある介護施設でのこんなやりとり。

「どんな食べ物が好きですか?」

定番の質問を客席に投げかける松本くん。西川くんは、いつものように客席の間をうろうろして、入居者のご婦人に回答をうながす。
「好きなのはどんな食べ物かな?」
「……(シーーーン)」
ひたすら目を丸くして、西川くんを見つめる老婦人。

「しょっぱいですか? 甘いですか?」
「……(シーーーン)」
果たして考えているのか、それとも質問を忘れてしまったのか?

「ん?」
「……(シーーーン)」

一大ブームを巻き起こしたクイズ番組「クイズ$ミリオネア」の司会みのもんたと回答者のやりとりを彷彿させる、ジリジリとしたにらみ合いが続く。何分続いたのだろう。忘れたころに、婦人が消え入りそうな小さな声で答えるのだった。
「お餅」
これだけで会場は大盛り上がり。入居者の天然の「タメ」が炸裂した瞬間だった。

松本くん 最近、いろんなところで介護レクリエーションの講演をやらしてもらってるやんか。介護関係の展示会とか、勉強会とか。いままで知らなかったけど、世の中にはいろいろ介護の催し物があるんやね。ほんと、いろんなところに呼んでもらって、それだけで勉強になるわ。

西川くん この前行った大阪南港の「ATCエイジレスセンター」(大阪市住之江区)っていうのもすごかったな。10年ほど前にできた健康や福祉、介護なんかの常設展示場で、ありとあらゆる介護機器が展示されてる。

松本くん びっくりしたのは、よくおばあちゃんたちが押してるカートあるやんか。あれが30台ぐらいズラッと並んでたもんな。あんなに種類があるもんなんやというのも驚いたけど、カートが並んでいるさまも壮観やった。カートのサービスエリアっていうか、モーターショーっていうか。美人のコンパニオンはいてへんかったけど(笑)。

西川くん ああいうフェアや施設に呼んでもらうと、テクノロジーがどんどん進歩してることに驚くね。深く座らずに腰を浮かせるだけで乗り降りしやすい車いすとか、階段の昇降機がついた車いすとか、お年寄りの話し相手になるロボットとか。教習所みたいに車いすのコース体験ができるイベントもあった。

松本くん 吉野家さんとか、永谷園さんとかが介護食事業に参入していて、誤嚥を防ぐために調理された牛丼や味噌汁なんかを出してはることも驚いた。インスタント味噌汁の「あさげ」も、ワカメが細かく切ってあって、汁にはとろみがついてたりするからね。フェアなんかに行くたびに、介護業界がどんどん進化しているのが印象的やね。

西川くん そういう展示会やフェアでやる講演会では、必ず自分たちの体験をたっぷり入れるようにしているね。聞きに来てくれるのは、介護用品メーカーの社員さんだったり、介護用品ショップの人だったり。介護施設のスタッフもいて、年齢層もバラバラ。そういうプロの人たち相手の講演会は、多くなってるよな。

松本くん そこでは専門的な介護のことばかり言いすぎないで、笑いの要素を多めに入れるのもポイントやね。講演会というより、いつもの営業に近い感じにしている。それで、なんで僕らがこういうことをやっているのかわかってもらえたらいい。

西川くん 目の前でメモられると、僕らも緊張するけどな(笑)。

松本くん 考えてみると僕らが出した介護の本も、一番のお得意さんは介護施設のスタッフさんたちやったやろ。もともと、介護のことを知らない人たちに向けた入門書のつもりで書いたものだけど、フタを開けてみたら介護のことを一番よく知っているプロのスタッフさんたちが買ってくれたっていうな。

西川くん SNSで「おもしろかった」「わかりやすかった」って、本の感想を書いてきてくれるのも、そういうプロの人たちやったしね。

松本くん やっぱり印象に残ってるのは、講演を聞いてくれた介護施設のスタッフさんから、「現場では笑いが少ないので、介護レクリエーションと笑いの融合がすごくよかった」と言われたことやな。

西川くん いつもニコニコと朗らかなスタッフさんたちだけど、いざ自分で笑いをつくろうとすると、やっぱり「イジり」と「イジメ」の線引きが難しいというのもあるんやないか。

松本くん たとえば、髪が薄い入居者さんがいたとして、それをイジるのは相手が芸人ならよくやるパターン。でも介護施設では、家族が見たら虐待と思われる可能性もあるやろ。デリケートな部分があるからな。

西川くん その点、僕らは芸人だからある程度、笑っていいし、ふざけていい。ただ、なにも考えないでやったらあかん。いきなりボケても空気がわからないと笑いにならない。「イジメ」になってしまったら最悪や。「イジる」というのは、信頼関係がないとできないやん。そういう空気をつくって、相手のことを理解して、その人が受け入れてくれるからこそ、笑いになるんやね。

松本くん でも僕らも昔はヘンに気を使ってたときもあったやんか。ここは利用者さんたちを腐すとマズいんちゃうかとか思って、神経質になっていたことも。

西川くん それでも恐る恐るツッコんでみたりすると、笑いにしてもOKなパターンもあることがわかってきて、少しずつ距離感を探っていったっていうところやね。特別扱いするほうが、かえって尊厳の侵害じゃないかと思うこともあるし。おかげで、いまでは思わぬ反応があったとき、逆になんの反応もなかったときとかでも、だいぶ対応できるようになってきたな。

松本くん やってると、僕らの想像を軽く凌駕する面白い答えが出てくることもあるもんな。びっくりするほど「タメ」をつくった一言とか(笑)。

西川くん 松本くん、あれはもう神の領域やな(笑)。

(編集協力/ Power News 編集部)

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