荒れるばーちゃんは心の鏡 止める技も鏡の中 これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
これまでこの「介護の裏ワザ、これってどうよ?」では、それまで介護ド素人だったゆずこが実践してきた“体当たり介護”を紹介してきました。どの裏ワザも根本にあるのは、とにかくじーちゃんばーちゃんをよく見るとこ。ときには相手になりきって「同じことをされたら果たして自分はどう思うか」を考え、観察します。
ただ、この「相手をよく観察する」「表情や言動の端々から、本当の気持ちを読み取る」ことは、実はわたしよりもじーちゃん・ばーちゃん(特にばーちゃん)の方が圧倒的に上手だったのです。
毎晩ゆずこの部屋の荷物を外にポイッ!
ばーちゃんはわたしの部屋の扉を叩きまくったり、荷物をすべて廊下や外に出してしまったりなど、同居して半年経ってもその勢いは衰えることなく、突発的な暴走を繰り返していました。
ある日も、家に帰ると私物がすべてきれいさっぱりなくなっていました。本や書類はきれいにビニールひもで、テレビやパソコンのコードはマジックテープで、きちんとまとめられて整理整頓されています。
毎回荷ほどきするのはもちろん大変ですが、無駄な動きもほとんどなくテキパキ引っ越し作業をしているばーちゃんを想像すると、なんだかくすっと笑えるような。
それにあまりにも手際が鮮やかだったので、「ここまで丁寧かつ怪力(重い荷物を何段も積み上げていた)の高齢者がほかにも集まれば、超高齢社会時代、本当に商売になるのでは!?」などと、よく一人で妄想してはにやにやしていました。
けれどさすがに仕事が激務だったり、ハードなスケジュールが続いたりするとそんな妄想をする余裕もなくなります。疲れ切って帰宅したところで罵声を浴びせられ、部屋も荒らされている。無理に表情を柔らかくしようとしても、口の端がつってしまいます。そしてさらに、部屋を片付けて「これでやっと寝られる!」と布団に倒れ込んだ瞬間、絶妙なタイミングで暴れだすばーちゃん……。わたしの部屋を荒らす以外にも、ご近所さんが大切に育てている花壇の花を引っこ抜いてしまったり、窓からごみを外に投げまくったりと、その暴れっぷりは勢いを増していったのです。一体なぜ?
心身ともに追い詰められるゆずこ。なぜかばーちゃんもより暴れだす
「わたしはいつも通りやってるはずなのに、いやむしろいつもより頑張っているはずなのに、なんでばーちゃんは暴れるんだろう」。そんなことをぼーっと考えていると、ばーちゃんがふいにわたしの顔を覗き込んで、「……なんであんたは最近ずっとそんな変な顔をしてるんだい」と突然言い放ったのです。
一瞬、ただの顔の文句!?と思いましたが、洗面台で改めて自分の顔を見てみると正直驚きました。
鏡に映っていたわたしは、怒っていないのに眉間にしわが寄っていて、とにかく不機嫌そう。顔色もどんよりくすんでいるような……。それに、痩せたわけでもないのに、なぜか頰だけがゲッソリとこけていました。どうみても病んでいる顔です。
自分ではいつも通りなんとか笑顔で過ごしているつもりでも、実際はこんなに余裕のない表情で二人に接していたのです。もしかすると、ばーちゃんはそんな孫の余裕のなさを敏感に感じとり、「なんでゆずこはこんなにイライラしているんだろう。なぜこんな表情なんだろう」とより不安になり、荒れてしまっていたのかも知れません。
自分を大事にできなければ、在宅介護は続かない!
じーちゃんばーちゃんには、本当に“心身ともに追い詰められて、余裕をなくしたゆずこ”が伝わってしまっていたのでしょうか。
東北福祉大学福祉心理学科の教授で日本認知症ケア学会の理事、そして『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新書)の著者である加藤伸司先生はこう話します。
「僕らも生身の人間です。ストレスも感じるし、いくら大切な家族が相手でも、ときには介護の負担でイライラもしてしまうでしょう。それが積もり積もって自分でも気が付かないうちに、日常の行動や、ちょっとした仕草、言動、表情にも表れます。おばあさんをはじめ要介護者の方々は、我々の細かい部分をすごくよく観察されているんですよ。だからゆずこさんが思ったように、ゆずこさんの“変化”にも敏感に気付いていたはずです。
その変化が要介護者の方にとって不安となり、より一層暴れるなど症状が強く出てしまい、介護する側の負担がさらに増えてしまう……と、悪循環です」
意外と、自分のことは自分が一番分かっていないのかもしれません。わたしは自分が心身ともに追い詰められているのにも気が付かず、「どう相手と向き合えばいいのか」と、相手への接し方ばかり考えていました。
「要介護者のケアも大事ですが、同じくらい“介護する家族のケア”も大切です。自分たちが心身ともに元気じゃないと、この悪循環を断ち切ることはできません。自分のことも大切にできるケア(いいケア)ができていると、要介護者も徐々に落ち着いて今度は良い循環が起こるのです」
介護はまるで、合わせ鏡のよう。改めて、自分のことも大切にする介護の重要さに気付かされたゆずこでした。
- 加藤伸司先生
- 東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科教授。認知症介護研究・研修仙台センターセンター長。日本認知症ケア学会副理事長。近著に『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新社)、『認知症の人を知る―認知症の人はなにを思い、どのような行動を取るのか』(ワールドプランニング)など