トラブルで内情おっぴろげ。赤裸々ご近所付き合い これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
まるでお昼のワイドショー 土地問題に悩むばーちゃん
事実ではないことを事実だと思い込んでしまう「妄想」も認知症の症状の一つですが、ウチのばーちゃんはその妄想が原因で、ご近所さんの家に勝手に乗り込んでしまったことがありました。
興奮状態になると、たまに「あの〇〇さんの家は、元々ウチの敷地だったんだ!」「昔は私の土地だったのに、勝手にとられてそのままさ」と、周辺の土地についてグチグチと語り出すばーちゃん。長いときは半日近く、ひたすら土地について文句を言い続けていました。でも、待てよ。もしかしたら本当に過去に土地にまつわるトラブルがあったのかも知れない。一方的にばーちゃんを否定できないなと思い、念のため母やオバに確認しました。しかしそんなトラブルは一切ない。「泥沼の戦い! 土地をめぐるご近所バトル!」なんて、お昼のワイドショー『噂の東京マガ〇ン』の特集で組まれそうなこのトラブルは、すべてばーちゃんの頭の中で起きている出来事だったのです。
それからは土地問題についてばーちゃんがヒートアップするたび、話を聞くフリをして「ほほう、それでは土地をめぐって勝負せぬか?」と“〇✕(陣取り)ゲーム”に持ち込んでいました。でも、わたしゆずこはコレが極端に弱い。オセロも弱い。いつもこれでもかと土地(陣地)をとられまくったあげく、「あんたじゃ相手にならない」と捨てゼリフを吐かれて立ち去られるのです。くっ、無念。
「ウチの土地を返せ!」他人の家に怒鳴って乗り込んでしまい……!
家族それぞれの性格を生かした適材適所作戦ですが、ゆずこは母とオバの両方をフォローしつつ、ご近所さんに「こんな状態なんですが、どうしたら良いでしょうか……?」とちゃっかり相談に乗ってもらっておりました。トラブルが起きると、申し訳ないことですが同時にウチの現状を知ってもらったということでもあるので、もう何も隠さずに赤裸々な相談もできてしまうんです。おっぴろげー。
在宅介護を閉鎖的にせず、「頼れるものは何でも頼っちゃえ!」がゆずこ家の介護のモットーです。
適材適所作戦で、地域の力に頼っちゃえ!
我が家はご近所さんに迷惑をかけてしまったら、このように適材適所で対応してきました。介護のプロから見て、果たしてこの作戦はどうだったのでしょうか。東北福祉大学福祉心理学科の教授で日本認知症ケア学会の理事、そして『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新書)の著者である加藤伸司先生にお話を聞きました。
「ご近所さんの力を借りたり、結果的に巻き込んで相談できたのはすごくいいですね。実は在宅介護をしていても、現状を隠し続けてしまうご家族が少なくないんですよ。『恥ずかしい』『人に知られたくない』など理由は色々あると思うのですが。デイサービスの車をわざわざ家の遠くに停めてもらったり、中には介護されるご本人が『周りには黙ってろ!』と言う場合も……。今回のゆずこさんのように、ご近所さんを巻き込んだトラブルが起きてしまうのは致し方ないのかもしれない。
でもそこで大切なのが、ご近所さんに理解してもらったり知ってもらうことで、何かあったときにすぐ手を借りられるようにしておくことです。隠し続けてしまうと、介護される方が暴走して『鬼嫁』『鬼孫』と周囲に訴えたときによからぬ噂がたったり、余計な勘違いをされてしまう可能性もあります。
それと、お話が得意なゆずこさんのお母さんやゆずこさんが外に出て話して回ったことで、自然と“何かあったときに頼れるコミュニティ”が作られていたのもいいですね。文句言われる前に頼っちゃえ精神ですか(笑)。素晴らしい。お母さんも外に出て喋ることで息抜きにもなりますし、まさに一石二鳥というか、一石三鳥や四鳥にもなっています。一番いけないのはご近所に何も言わず、家族も認知症の当事者も家に引きこもってしまうことです。地域の力に頼るゆずこ家のモットーはぜひ真似したいですね」
ちなみに母は、「ちょっと5分くらい挨拶に行ってくる!」と言って、3時間しゃべり倒して帰ってこなかった記録を持っています。凄すぎる……。
- 加藤伸司先生
- 東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科教授。認知症介護研究・研修仙台センターセンター長。日本認知症ケア学会副理事長。近著に『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新社)、『認知症の人を知る―認知症の人はなにを思い、どのような行動を取るのか』(ワールドプランニング)など