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中尾ミエがデイサービスでロックンロール 舞台への思いと年の重ね方

中尾ミエさん

高齢者施設を舞台にしたミュージカルをプロデュースする中尾ミエさん。5年目を迎える『ザ・デイサービス・ショウ』は今年がファイナル、一区切りを迎えます。客席を巻き込んでみんなで盛り上がり元気になれる舞台。全国で愛されてきたこの作品にかける思いを、改めて中尾さんに聞きました。

キャストの平均年齢は76歳、舞台は高齢者施設。そんな、ほかに類を見ないオリジナルミュージカル「ザ・デイサービス・ショウ 2019~It's Only Rock'n Roll~」が10月、幕を明ける。今年で5年目、上演回数は80回を超える。自身も主演し、プロデュースを手掛ける中尾ミエさんも「出演シーンでなくとも袖から観てしまうほど、楽しくて仕方がない」と口にする、明るくポジティブなミュージカルだ。
中尾さんは、「ザ・デイサービス・ショウ」以前にも「ヘルパーズ!」という名の舞台で介護をテーマに扱っていた。そもそも「高齢者施設を舞台に」と考えるようになった背景には何があるのか。中尾さんは言う。
「年を重ねた自分にできることってなんだろう、と考えたんです。人はみな、否応なく年をとっていく。けれど、ただ待っていても、自分が望むような環境が生まれるわけではないんですね。自分の理想って自分でもわからないけれど、元気なうちに最後まで楽しめる環境を考えていけたら」
とくに中尾さんの世代にとって、“介護施設”は決していいイメージが持たれる場所ではなかった。
「自分の意志とは関係なく、連れて行かれてしまう場所、というのかしらね。でも、嘆いていても変わらないし、だったら自分でできることを探して動いてみようと思って」

中尾ミエさん

綺麗事だけでは、観客には響かない

中尾さんが演じるのは、かつて一世を風靡したスター、矢沢マリ子。ある日、高齢者施設を訪れミニコンサートを開催したのだが、そこで目にした実情に疑問を抱き、「ここの人たちをハッピーにします」と立ち上がる。
マリ子が放つ「あなたたち、高齢者を子ども扱い、赤ちゃん扱いしているわね」という言葉は、高齢者施設を訪れたことがある観客ならドキリとさせられるはずだ。物語には、認知症当事者も登場する。若き介護職員が、送迎バスに乗り遅れてしまった認知症当事者の女性に浴びせる「仕事増やすなって」という言葉には胸が痛む。じつは脚本を手掛けた山口健一郎さんは介護士の資格を持ち、いまも時々現場で働いているのだという。
「現実を知っているからこそ、本来なら口にしたくないような裏のことも言える。綺麗事だけだと、やっぱりお客さんには響かないから」
とはいえ、きつい言葉でも多少は当たりが柔らかくなるのがミュージカルの良さだと中尾さんは言う。人の心を揺さぶり、そこから自分は何ができるかを考える余白がある。
マリ子を中心に、高齢者施設でロックコンサートを開催することを目標に、物語は進む。エルヴィス・プレスリー、ビートルズ、トニー・ベネット……。マリ子は「みんな若い頃に聴いていたのはこうした人たちの曲でしょ? 本当に歌いたい歌って、(日々この高齢者施設で歌っている)唱歌ではないんじゃない?」と訴える。

観客の皆さんが元気になって劇場を出て行くのが嬉しい

中尾さんは、舞台を続けながら日本各地の介護施設を訪れるなかで、「何かに特化したデイサービスがあればいいのに」と思うようになったという。たとえば、コーラスが好きな人が集まる場所や、フラダンスが踊れる場所。一人一人、培ってきた経験も熱中したものも違う。「みんなで唱歌を歌いましょう」と一緒くたにするのは、そもそも無理があるのかもしれない、と。
「『私はこういうところに行きたい』と選べるようになり、『行きたいから行く』と思える場所になればいいですよね。昔好きだったことでもなんでもいいから、使わなくなった機能をもう一度呼び起こしてあげられるようサポートする。発表会などがあれば、目標ができますしね」
中尾さんは、介護する側もされる側も心から楽しめる場所になればいい、と強調する。介護する側も義務からではなく、「私は○○が得意なのだけれど、一緒にやりません?」と気軽に声を掛けられるような。
「ザ・デイサービス・ショウ」では、観客がみな一緒に踊れるような賑やかなラストが待っている。
「舞台と客席をはっきりわけるのではなく、劇場を一つにしたいと思っているんです。劇場まで足を運ぶってそのエネルギーだけでも大変なこと。みなさん元気になって劇場を出て行ってくれるのが何より嬉しい」

頑張ればいくつになっても進歩する

日本各地で公演を行うが、移動中のバスの中などでもキャストたちはみな和気あいあい。出演が決まってから楽器を始めたキャストもいるが、年を重ねるごとにどんどんうまくなっていくという。何歳から始めたって遅くない。目標があれば、「もっとうまくなりたい」という向上心も芽生えるようになる。

中尾ミエさん

中尾さんも「頑張ればいくつになっても進歩する」ことに、年を重ねて気づいたという。たとえば、体型維持。今年出演したミュージカル「ピピン」ではアクロバットで劇場を沸かせる役を演じた。そのために鍛え身体が変わると、今度はそれを維持したいと思うようになった。それまでは週1回コーチにつき、クロールを中心に行っていた水泳では、バタフライまで始めるように。次なる目標は大会に出場することだ。
「私、年を取って本当に良かったと思っているの。そう思えるのって、幸せですよね」
5年続いた『ザ・デイサービス・ショウ』は、今回がグランドフィナーレとなる。パワフルなキャストで繰り広げる痛快ミュージカル。平均年齢76歳のミラクルバンドの生演奏にも期待だ。

【作品情報】

オリジナルミュージカル「ザ・デイサービス・ショウ2019~It's Only Rock'n Roll~」
作・音楽/山口健一郎 演出・振付/本間憲一 プロデュース/中尾ミエ
出演/中尾ミエ、尾藤イサオ、光枝明彦、モト冬樹、正司花江、初風諄、北村岳子、土屋シオン、tohko

※公演の詳細情報はこちらでも見られます

プロフィール
中尾ミエ(なかお・みえ)
福岡県生まれ。1962年「可愛いベイビー」で歌手デビュー。100万枚を超える大ヒットとなり一躍スターに。その後、伊藤ゆかり、園まりとの「スパーク3人娘」として話題になる。64年映画やドラマでの活躍が認められ、歌手として初めて映画製作者協会新人賞受賞。近年は演じるのみならず、舞台のプロデュースを手掛けたり、舞台『ピピン』では空中ブランコに乗ってアクロバットを決めるなど、さらに新たな挑戦を続けている。

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