ご飯盛るばーちゃんを、美味し●ぼ風に褒めちぎる これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
食器棚のあまりの無法地帯ぶりにあ然!
お風呂を洗ったり部屋の掃除をしたり、お腹が減ったからご飯を作る……など、これまで当たり前のようにできていたことが突然できなくなってしまうのも、認知症の症状の一つです。
それまでマメにぬか漬けを作ったり、自家製の健康ふりかけを作るなどわりと料理好きだったウチのばーちゃんも、認知症になってからパタリと手が止まってしまいました。しかも一切やらなくなっただけではなく、わたしが作ったご飯を食べたあとに必ず食器をそのまま棚に戻してしまう。ご飯粒やしょうゆやソースがべったり付いていたり、中にはお椀の中におかずが残ったままの食器も平然と戻してしまうことも。
そうなると夏場は地獄です。すぐにカビが生えてしまうし、家じゅう濃厚でコクのある、酸っぱくてとてもファンタジーな臭いに占拠されてしまいます。この臭いが服に着くと、まあ取れないこと取れないこと。洗いモノは何度言ってもそのまま棚に戻されてしまうので、付き添えるときは食べ終わったらわたしが即行で洗い、いないときはなるべく早く棚から出して洗いました。
でも、あれほど料理好きだったばーちゃんがこんなことになるなんて……。一瞬あまりの変わりように鼻の奥がツーンとしましたが、あれ、ちょっと待てよ。よく考えたら家事が“まったくできなくなった”わけではないんじゃないか? そんな考えが頭をよぎったのです。
「〇〇ができなくなった」ちょっと待って。それって本当?
食後の食器を洗うことは忘れても、「食器を棚に戻す」という行為は今までやっていたことと変わりません。洗ったか洗わなかったかが違うだけで、ちゃんと棚には戻せている。また、コンロの切り方は忘れても「コンロを使って料理を作ろう」ということは覚えているじゃん、と。要するに、今までできていたこと「全部」ができなくなったわけではないのです。つまり、「パズル全体は組み立てられなくても、一つひとつのピースは今までと変わらずにある」ということ。決して別人のように変わっちゃったわけではありません!
そこでわたしは「やる事をメチャクチャ細かくしちゃえ」作戦を実行してみることに。例えば、料理を考えて、作って盛り付けて、後片付けをする――という一連の行程の中から、ばーちゃんには「炊飯器のスイッチを押す係」と「ご飯をお椀に盛る係」を頼みます。全部自分一人でやれば早いのは分かっているのですが、ばーちゃん自身が何もしなくなってしまうと、今より本当に何もできなくなってしまう気がしたのです。だから、色々家事を細分化してなんやかんやと手伝ってもらっていました。
そして何より、ばーちゃんがやってくれたことに対してめちゃくちゃ褒めまくる! これ、かなり重要です。褒められることで「また手伝ってやってもいいよ」「自分は役に立っている」という気になるようで、家事をやることのハードルが低くなるのです。
ご飯を盛ってくれただけで、「この米の炊き具合といい、絶妙な盛り付け具合は素人ではできない芸当だ……。(誰もいない空中に向かって)おかみ! 料理人をここに呼べい!」と、グルメ漫画『美味し●ぼ』に登場する、稀代の美食家・海原●山になりきって毎回ベタ褒めしていました。
役割を取り上げるのはダメ! 出来ることを探そう
果たして、この孫の「家事を細かく分担して頼んじゃえ作戦」はどんな効果があったのか。
東北福祉大学福祉心理学科の教授で日本認知症ケア学会の理事を、そして『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新書)の著者である加藤伸司先生にお話を聞きしました。
「料理や家事など物事の手順が分からなったり、計画を立てることが困難になる。それは実行機能障害といって認知症の中核症状の一つです。例えば、何十年も料理をしてきたのに『豆腐のお味噌汁ときんぴらを作って』と言われると、どんな材料が必要で、どんな手順で作ったらいいのか分からない。結果的に“作れない”ということになる。でも実は豆腐を切ったり、ごぼうをささがきにすることはできる。このように一つひとつの行程はできることが多いのですが、できなくなった部分だけを見て『もう料理は無理だろう』『できなくなってしまった』と思って本人から役割を取り上げてしまうのは、もっとも避けたいこと。やる気がなくなると、自分から何かをしようという気がもっとなくなってしまう“自発性の低下”にも繋がります。
だから今回のゆずこさんのように、行動を細かく分けて、相手と一緒にやってみたり褒めるのはすごく大切です。さすがですね。
私たちも怒られたり注意されると、やる気がなくなりますよね。でも褒められたり、誰かの役に立っていると思うとすごく嬉しいし、またやろう!という気になる。それは認知症の方も同じです。ときには褒めながら一緒に行動してみる。どんなに小さくても何かを頼んだり、しっかりと役割を担ってもらうのも大切です」
恐らく、いや絶対、好きで「できなくなった」わけではない。本人の中での葛藤を想像して、一部を見て全部を判断することなく、焦らず急かさず。
こちらはこちらで“褒めのボキャブラリー”を増やしておきましょう!
- 加藤伸司先生
- 東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科教授。認知症介護研究・研修仙台センターセンター長。日本認知症ケア学会副理事長。近著に『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新社)、『認知症の人を知る―認知症の人はなにを思い、どのような行動を取るのか』(ワールドプランニング)など