真夏の電源オンオフ戦争 自室は汗と涙の染みだらけ これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
「今はまだもったいない!」クーラーを節約(?)して、倒れていく高齢者たち
まだまだ残暑も厳しいこの時期、よかれと思ってクーラーをつけても、ばーちゃんは「もったいない!消しておくれ!」と消す始末。ばーちゃんとクーラーをつけるつけないを巡って、毎日恒例行事のようにリモコン争奪戦が起こります。
わたしたちが住んでいるのは、よく「日本一暑い街」でも取り上げられる地域にほど近く、真夏には35度を超えることも珍しくありません。室内で熱中症で倒れる方も多く、もはやクーラーを付けないということは、命を危険にさらす行為でもあるのです。
それなのに、いくら説明してもばーちゃんは断固としてつけない。「もっと暑くなったらつける」の一点張りです。いやいや、もっと暑くなったらって……。
スイッチを入れたら消され、入れたら消されを繰り返して、最終的には壁の上部に刺さっているエアコンのコンセント自体を引っこ抜いてしまいます。80歳オーバーのばーちゃんが、全力でジャンプしてエアコンのコンセントをわしづかみ。それはそれは異様な光景です。
さらには夜、部屋の電気を点けるのも「もったいない!」「この電気ドロボウが!」と罵られて消されていく。真っ暗闇の中、一切の電気を使わせてもらえない孫。部屋は即効でサウナ状態になり、もの凄い勢いで吹き出す汗、汗、汗。
でもそれでも痩せないのだから、わたしって逆にすごい。
暑さには弱いゆずこ。思わず何度も抵抗してしまい
このようにクーラーをつけない、電気も片っ端から消していくというばーちゃんの行動。いままでのゆずこの対応のように、うまくスル―したりコントロールできればよかったのですが、暑さが短気に拍車をかけてイライラしまくり。
消されたら何も言わずにつけ返す、「なんでこんな嫌がらせするのさ」とブツブツ文句を言ってしまうなど、逐一抵抗してしまいました。ものすごい高速で部屋の電気がついたり消えたりする光景は、ゲームのボタン連打で有名な高橋名人もびっくりの速度だったはず。
でもそうして抵抗すると、ばーちゃんは余計に興奮してしまい、もっと意地を張って「もう今年は絶対にクーラーなんて付けないよ!」「クーラーなんかいらない、捨ててきておくれ」と言い出してしまって……。わたしの行動がばーちゃんの感情を逆なでしてしまっているのは分かるのですが、何度正論で説明しても効果はなし。疲れて思わず、より感情的にもなってしまいます。
こんなゆずことばーちゃんの、クーラー&電気をめぐる争奪戦
東北福祉大学福祉心理学科の教授で日本認知症ケア学会の理事、そして『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新書)の著者である加藤伸司先生は、一連のわたしの対応をどうみるのでしょうか。
「まず、ゆずこさん。認知症の方と同じ土俵で戦っては絶対にいけません。反抗したくなるその気持ちももの凄く分かるのですが、相手が消したものをすぐ目の前でつけ返すということは、相手に思い切り逆らっている行動なので、より逆上させてしまう危険があります。だからそこは相手が去ってからさりげなくつけるか、指摘されても『あれ!? いつの間にかついてた』『誰が付けたのか分かんないな~』と徹底的にシラをきり続けた方が良かったですね」
反省します……。
でもそういえば、前回の「そういえばじーちゃんも認知症 高額請求かわす術」では、「最終的な心のよりどころがお金になっているからこそ、固執する」というお話もありましたが、もしかしてクーラーや電気をつけさせない今回のトラブルも、根本はお金に固執してしまうからこその言動なのでしょうか。
「確かに関係しているかも知れません。すべての根本にあるのは、漠然とした不安感。なくなって不安になるものはやはり圧倒的にお金が一位で、その次に通帳や印鑑が続く。これらは、一昔前は認知症の方が『家族に盗まれた』と被害を訴える“もの盗られ三点セット”でもありました。現代では『なくなって不安になるもの』の1位は携帯電話などスマートフォンかも知れませんね。そのうち、なくなったら何よりも不安になるのが、【スマホ、カード、パソコン】など、もの盗られ三点セットもガラリと変わるはずです」
確かにスマホがあれば、今は何でも買えるし銀行の入金&各種支払なども出来てしまいます。認知症も時代を反映する。今の若い世代が歳を重ねたら、「現金はなくなっても不安にならないけど、スマホはヤバいよ!どこに行ったんだ!誰が盗ったんだ!」と大騒ぎになるかも。そんな日もそう遠くないかもしれません。
- 加藤伸司先生
- 東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科教授。認知症介護研究・研修仙台センターセンター長。日本認知症ケア学会副理事長。近著に『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新社)、『認知症の人を知る―認知症の人はなにを思い、どのような行動を取るのか』(ワールドプランニング)など