認知症の人が店員 細部のこだわりは「注文をまちがえる料理店」代表の話2
取材/熊谷わこ 撮影/上溝恭香 企画/秋山晴康
認知症当事者がホールスタッフとして働く「注文をまちがえる料理店」。いまや全国で同じ趣旨の取り組みがみられます。「認知症の人と介護職員の関係が料理店の場面に全部出る」と話すのは、一般社団法人「注文をまちがえる料理店」代表理事の和田行男さんです。前回に引き続きお話を聞きました。
※前回のお話(第1話)はこちら
料理店だから、きちっとした料理を食べていただくのがポリシー
――「注文をまちがえる料理店」を開催するにあたり、和田さんはじめ、さまざまな分野の専門家が集結したそうですね
発起人の小国士朗さんが声をかけ、2カ月あまりでデザインやPR、デジタル発信やクラウドファンディングの専門家、テレビ局の記者や雑誌の編集者、外食サービスの経営者などが集まり、「注文をまちがえる料理店実行委員会」が発足しました。
――実行委員会のメンバーのうち、介護の専門家は和田さんだけですか
そうです。僕だけにしてもらいました。認知症の方と関わったことがない実行委員が多数なので、打ち合わせの時に当事者夫妻に参加してもらい、僕らがやろうとしていることを率直に話して意見をもらいました。そうした打ち合わせを重ね、方向性を見いだしていきました。
――実行委員会では、料理店としてのクオリティーに徹底的にこだわったとか
「料理店」という名前を付けたからには、きちっとしたレストランで、きちっとした料理を食べていただくのが僕らのポリシー。料理のプロフェッショナルがメンバーに入って、最高の料理をお出しする。料理だけではなく、お店のしつらえとか、テーブルクロス1枚に至るまでどのようなものにするか検討してね。それぞれのプロフェッショナルがそれぞれのこだわりを持ち寄っているのが「注文をまちがえる料理店」ですから、お客様に「素敵だね」「すばらしい料理だったね」と満足して帰っていただけるようなお店にしようと。そこは大事にしましたね。
――ホールスタッフを募集する際には、何か条件を設けましたか
まず自分で歩ける人。料理店なので衛生面から排泄に課題がない人。人と関わる仕事ですから、その場の会話だけでもできる人。本人及び家族の承諾が取れる人。そしてメディア取材が入るので撮影OKというのが条件でした。
僕の所属法人、僕の仲間の法人で、介護施設で暮らしている方、自宅から利用されている方に募集をかけましたが、必要な人数はすぐに確保できましたね。
特定の服装はごく普通のこと。多少のトラブルも想定内
――全員おそろいのエプロンをつけて働かれていましたね
今年3月に3回目の「注文をまちがえる料理店」を厚生労働省内で開催しました。するとその後、インターネット上に「認知症の人だけに、認知症だとわかるようにエプロンをつけさせるのはいかがなものか」といった意見が出ていたそうです。でもね、どこのレストランでも、ホールスタッフだとわかるようにお揃いのエプロンをつけたり、制服を着たりしていますよね。警察官にしろ、看護師にしろ、その職業人を特定する服装をしているのはごく普通のこと。「注文をまちがえる料理店」でもスタッフだとわかるように、エプロンをつけてもらいました。「認知症の人にエプロンをつけさせている、けしからん」という感想を抱くとしたら、普通の感覚がないなぁと思う。
――これまで3回開催されましたが、いずれも予約制でした。「注文をまちがえる料理店」を通して多くの人に認知症に対する理解を深めてもらいたいのに、予約制だと限られた人しか利用できないですよね
そうですね、確かにお客様は限られます。でも予約制をとらずにお客様が出たり入ったりすると、目の前でどんどん景色が動いていくので、お客様との関係が作りづらくなってしまうんです。予約制なら時間を区切ってお客様の入れ替えができて、入れ替えまでのお客様は固定化されるので、会話がつながりやすくなるといういい面もあるんですよね。
認知症の人と職員との関係が料理店の場面に全部出る
――お客様との会話ややりとりの中で、認知症の方が傷ついたり混乱したりしてしまうのでは、という懸念はありましたか
普段生活する中でもそのようなリスクはたくさんありますから、そこは心配しませんでした。むしろ「注文をまちがえる料理店」では、お客様は「認知症の方が働いている」とわかって利用しているわけだから、リスクは低かったと思います。実際、多少のアクシデントはあったものの、僕からすれば想定内でした。働いている認知症の方にとって全く知らない人ばかりだったらいろいろなことが起こっていただろうなと思いますが、施設の顔なじみの職員がボランティアとしてサポートしてくれていましたからね。今年の3月に開催したときには、会場まで来たのに「やらない!」とおっしゃって、結局参加できなかった認知症の方もいらっしゃいました。
――それはやらされている感があったからですか
うーん、どこの介護現場でも、悪気はなくてもやる気をそいでしまう職員と、やる気にさせてくれる職員がいるんですよね。たとえば介護施設などでせっかく何かやろうとしているのに「あ、ダメダメ。危ないから座ってて!」と言われれば、本人の気持ちはそがれてしまう。逆にそっとそばに来て見守って、励ましの声をかけて気持ちを盛り上げてくれる職員もいる。認知症の方からすれば決定的な違いがあるんだと思います。
■インタビュー(1) 世を席巻「注文をまちがえる料理店」は認知症の何を変えたか 代表に聞く1
■インタビュー(3) 法人化で認知症の人にもメリット「注文をまちがえる料理店」代表の話3
- プロフィール
- 和田行男(わだ・ゆきお)
一般社団法人「注文をまちがえる料理店」代表理事
認知症ケアの第一人者。高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理担当から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち97年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。株式会社大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・認知症デイサービス・ショートステイ・特定施設・小規模多機能型居宅介護を統括。2016年から「注文をまちがえる料理店」の企画・運営に参加し、2018年の法人化とともに代表理事に就任した。『大逆転の痴呆ケア』『認知症開花支援』他、著書多数。