人気DJが80歳のお年寄りとフィーバー「幸せです」の理由を聞いた
取材/熊谷わこ 撮影/上溝恭香
30年以上前のディスコ全盛期から、第一線のDJとして活躍し続けているDJ OSSHY(ディージェイ オッシー)こと押阪雅彦さん。2017年からは、昼間の明るい部屋で高齢者を対象にしたディスコも展開しています。なぜ高齢者なのでしょう。目指すものは? ディスコショーが終わったあとの控室におじゃましました。
――若い世代中心のディスコDJだった押阪さんが、どのようなきっかけで高齢者ディスコを始めたのでしょうか
ディスコというと大人の中でもごく限られた人の楽しみで、私もそんなものだと思ってDJを続けてきました。しかし2000年にレコード会社の企画で、かつてディスコで遊んだ30代後半から40代に向けて「休日の昼間に、お子さん連れでディスコを楽しみましょう」というイベントが開催されましてね。そのイベントでDJをつとめた私は「時の流れとともに家族の形も変わっていく。幅広い世代が楽しめるこのコンテンツはアリだな」と直感したんです。それをヒントに自ら同様のイベントを企画し、「親子ファミリーディスコ」というタイトルをつけて年1回細々と続けてきました。
――まず若い親子に広げたわけですね。反応はいかがでしたか?
当時ディスコは少しとんがった人たちの遊び場というイメージだったので、同業者からは「親子でディスコなんてダサい」と大バッシングを受けました。でも来てくださる方は親も子も笑顔いっぱい。帰り際にはみんなが「またやってください」と声を掛けてくれるんですね。だから「安心安全をキーワードにした幅広い世代が楽しめるディスコは絶対に根付く」という確信がありました。
――そこから今度は「高齢者」に広げていった?
リアルディスコ世代の子どもだけでなく、「親」も楽しめるディスコがあってもいいんじゃないかと。ただ具体的に何から始めればいいのか方法がわからず、手を付けられないままでした。ところが2017年に、デイサービスを提供する施設の関係者から「認知症のかた向けにディスコができないか?」と、ご相談いただいたんです。
全員車イスと知り頭が真っ白に
――初めての高齢者ディスコはいかがでしたか?
当初は取り立ててアレンジすることなく、通常のディスコと同じことをする予定でした。ところがイベントの1週間ほど前に打ち合わせをしていた時、「全員車いすです」と聞かされましてね。頭が真っ白になりました。ステップを踏みながらダンスフロアを縦横無尽に動くというディスコしか知りませんから、座ってディスコなんて想像できなくて…。「これは失敗するかも」と相当悩みました。
――どうやって解決したのでしょうか
真剣に考えてひらめいたのが、上半身だけを動かせばいいということ。当時のディスコミュージックは一曲一曲オリジナルの振り付けがついているものが多いので、上半身だけで踊れる曲を選んで構成すれば、何とかなるんじゃないかと考えました。介護福祉士の野毛美邦さんに介護士ダンサーとして企画に加わってもらって、2人で「拝むポーズ」とか「ロダンの考える人のポーズ」とか「芋ほりダンス」とか、高齢者にもわかりやすい振り付けのネーミングを考えました。これが大当たり。初めて聞く音楽でもできちゃうんですね。
――お年寄りは演歌や昭和歌謡の方が馴染みはあると思いますが、洋楽にこだわるのはなぜですか
「少しでもリアルなディスコの現場をご高齢の方に届けたい」というのが高齢者ディスコの趣旨。音楽付きの体操を提供したいわけではないんですね。ディスコの楽しさを自分の親世代と分かち合いたい、お孫さんからおじいさんまで三世代が一つの曲をかけて同じ振り付けで踊れるようになれば最高だなと。
反応がなくてもつまらないわけではない
――認知症の方々の反応はどうでしたか
フィナーレまでじーっとしている方が多くてね。反応がほとんどないように感じて、「届いていないのかな」「つまらなかったのかな」とすごく落ち込みました。そうしたら施設の方が「全然違います。つまらなければお部屋に帰りたいと言いますから。体を動かしたくても動かせない人もいるし、楽しんでいる人がほとんどですから」と。その言葉に勇気づけられ、それを糧に、自分自身も高齢者や認知症の方の思いをくみ取ろうと勉強している最中です。
――課題はありますか?
お客様を一人でも帰らせないようにする工夫とか、重度の患者さんに参加してもらうにはどうしたらいいかとか…。まだ産声を上げたばかりなので、課題だらけです。とはいえ、たとえば介護士ダンサーとのタイミングの合わせ方など、現場で解決できる課題もある。回を重ねながら軌道修正し、少しずつ形ができてきています。今回6回目ですが、10回くらい場数を踏めばテンプレートが出来上がるような気がしています。
――今後の目標を聞かせてください
僕は「ディスコの力」と言っているんですが、ディスコの現場を体感すれば必ず元気になってもらえるだろうと確信しています。高齢化が進む中で「高齢者ディスコをやってほしい」と声を掛けられる機会も増えて、ニーズが広がっていることを感じますが、やはりDJのパフォーマンスや、サービス精神が備わった演出がなければ受け入れてもらえない。まず自分がテンプレートを作り、次のステップとして高齢者ディスコを実行できるスタッフを育成していければと考えています。老若男女にディスコの楽しさを感じていただけるような時代を作っていきたいですね。
プロフィール
押阪雅彦(DJ OSSHY/おしざか・まさひこ)
1965年、東京都生まれ。DJタレント。国立音楽大学特別講師。MCとミキシングを両方こなすDISCO DJのスペシャリスト。80′s ディスコ伝道師。「ファミリーディスコ」「高齢者ディスコ」など、三世代で楽しめるイベントを主催、安心・安全・健康的でクリーンなディスコの魅力を全国に伝えている。テレビ司会の第一人者、押阪忍の長男でもある。「ディスコの日」(7月22日)制定者。