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認知症フレンドリー社会へソーシャル・グッドな映像とは?カンヌ受賞監督と考えた

ソーシャル・グッドと映像表現を考えるトークイベント

地球環境の保護など社会課題の解決を、製品やサービスで目指す「ソーシャル・グッド(Social Good)」という考え方が注目を集めています。なかまぁる編集部では、カンヌライオンズを含む数々の広告賞受賞作を生み出してきた高島太士さん(FIRST APARTMENT代表/ドキュメンタリスト)をお招きし、「Social Goodと映像表現」を考えるトークイベントを開きました。高島さんは「今、企業に求められているソーシャル・グッドは『自分の会社は未来の社会のためにある』と言い切って実践する姿ではないでしょうか」と指摘しました。

8月6日、都内で開かれたイベントには、高島さんに加え、朝日新聞社員として動画事業を担当しながら、Ted Sharks(テッド・シャークス)という監督名で映像作品を作る山本哲也さんも登場。冨岡史穂・なかまぁる編集長が司会を務めました。【ダイジェスト動画はこちらです

高島さんは、東日本大震災以降、「商品を売る」ではなく、ソーシャル・グッドに特化した映像で広告を手がけてきました。2015年には、紙おむつのパンパースのCM「MOM’S 1ST BIRTHDAY ママも1歳おめでとう」を制作。高島さんは「今この映像表現だと『パパも頑張っている』という指摘が絶対に来ます。2015年だから受け入れられた」と振り返ります。

ソーシャル・グッドに特化した映像を生み出してきた高島太士さん
ソーシャル・グッドに特化した映像を生み出してきた高島太士さん

ブラック企業が批判され、「働き方改革」が叫ばれるなかで、高島さんが花王とタッグを組んでつくった今年の作品は「働き方も衣類もホワイトにしていこう」がコンセプト。しかし、キャンペーンのタイトル「#BeWHITE」が人種問題と結び付けられました。花王社内から「肌の色を連想させて問題だ」との声が上がり、花王はすぐに取り下げを決めました。

冨岡編集長は「『社会にどういう影響与えるか』という流れの最先端のもっとその先では、どこかに穴がないのかについても、国際的な感覚をもっと磨かないといけない時代がきている」と指摘しました。それに対し、高島さんは「2年ほど前から、消費者が広告の誇張しすぎた『うそ』を見抜くようになってきました。『いい風の動画』をつくってもスムーズに受け入れられない時代になってきている」と応じました。

たくさんの来場者が、実際の映像を見ながら熱心に聴き入っていました
たくさんの来場者が、実際の映像を見ながら熱心に聴き入っていました

カンヌ受賞監督の印象に残る動画

そんななか、高島さんの印象に残っているのが、ミドリムシを活用した食品やバイオ燃料などを販売・研究開発する企業「ユーグレナ」の動画です。役員が小学校を訪れ、子どもたちに未来のことを尋ねている内容で、タイトルは「未来の大人たちに聞いてみた。」。
「今、企業が向き合うべきなのは、これからの未来をつくっていく子供たちだと言うことを押し出している。自分たちの会社は子どもたちのためにあると言い切っていて、潔い、真摯な姿です。今求められているソーシャル・グッドはこれだ、と思いました」

議論に加わる冨岡編集長
議論に加わる冨岡編集長

イベントでは、ソーシャル・グッドな取り組みをどう映像化するかについても議論がかわされました。都営地下鉄大江戸線に、トーマスのキャラクターが描かれた「子育て応援スペース」ができたニュースを題材に、これをドキュメンタリーとして撮るとしたら?と冨岡編集長が投げかけました。

朝日新聞のさまざまなメディアで動画も制作している山本さんは、「ベビーカーを押してきたお母さんは、ここにたどり着くとやっと一息つけるのではないか。電車に乗るまでにどのような苦労をしたのか、その苦労を追いたい。このエリアを作らせてしまった日本社会についても考えたい」と提案します。

実際のニュースをどう映像にするか。高島さんと山本さんが考えを話しました
実際のニュースをどう映像にするか。高島さんと山本さんが考えを話しました

高島さんは、このスペース設置のための署名集めや企業への訴えに取り組んだ平本沙織さんを、直接知っているそうです。
「きっと実現するまでに企業側にも大変なことがあったと思います。自分なら、苦労して実現にたどり着いた人たちを取材して、ヒーローとして描く映像表現にします。日頃から、『人は勇気を出す瞬間が美しい』をコンセプトに動画を撮っています。誰かの苦労やエピソードを引き出してストーリーにすることで、見た人の共感が得られると思います」

認知症フレンドリーな映像を作るなら

では、認知症の人も生きやすい社会にしていくために、どんなソーシャル・グッドな映像表現が考えられるのでしょうか?

英国では、認知症の人が生きやすい社会づくりへの取り組みが進んでいます。買い物するときにゆっくりお会計のできる「認知症フレンドリーキャッシュレーン」もあります。空港も、認知症やそのほかの精神疾患のある人にとって使いやすいか検査を受けます。保安検査場を通る時にスタッフが認知症にフレンドリーな対応をすることや、搭乗前に静かな環境を用意するといった基準を満たしていない場合、改善しなければいけないそうです。

「ソーシャル・グッド」の観点から映像について議論する高島さん(左)、山本さん(中)、冨岡編集長
「ソーシャル・グッド」の観点から映像について議論する高島さん(左)、山本さん(中)、冨岡編集長

日本でもこんな風に認知症フレンドリーな社会へしていくためには?
高島さんは「『夢の動画』を作ってみると、次の一歩が踏み出しやすい」と指摘します。

使いやすいATMや、ゆっくり対応してくれるスタッフのいる交通機関――。みんなが「こうだったらいいな」と思っていることを映像化してみると、具体的にとらえることができ、そんな社会の実現に近づくといいます。

「みんながふわっと想像していたことが映像表現になると、それを見た人には『正しいこと』として認識される。映像にはそういうチカラがあります」

SDGsに企業はお金を払う?

ソーシャル・グッドや、持続可能な開発目標であるSDGs。山本さんは「大事だと分かっていても、直接的に売り上げにつながるわけではありませんよね。(そういう映像をつくる)企業側にとってのメリットはどんなところにあるのでしょうか」と尋ねました。

映像表現のあり方について語る山本哲也さん
映像表現のあり方について語る山本哲也さん

高島さんも、日本ではまだ、ソーシャルグッドな映像に資金を投じる企業が少ない現実を認めた上で、次のように話しました。「日本では〝いま〟無理なだけなんじゃないでしょうか。(企業側は)来年も(広告費を)払うし、再来年はもっと払うと思います。僕は悲観的でもなんでもない。ただ、無理やり〝いま〟説得しようとしても難しいだけだと思います」

アウトドア用品ブランドのパタゴニアは、今年7月の参院選の投票日、全国のお店を一斉休業としました。
「数年前、本拠地アメリカでブラックフライデーという稼ぎ時に、一斉にパタゴニアがお店を休んで大きな話題になりました。それを今回、日本でやったことで『いい会社だ』と国内の評価が上がったわけです。要は、タイミングなのではないでしょうか」

さらに高島さんは「ドキュメンタリーの時代がくる」と指摘します。

「日本のように、こんなに社会課題や自分の国に興味がない国も珍しいですよね。これまで、単にドキュメンタリーの見方が分からなかったんだと思います。NHKやYahoo!も力を入れていますし、受け手側もどんどん見る力も高まっていくと考えています。企業が映画をつくる感覚でドキュメンタリーをつくる時代がきます」

【会場の雰囲気がわかるダイジェスト動画はこちらです

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