なかまぁるクリップ

夏だ! 海だ! 認知症当事者もプロサーファーもみんなで波乗りだ!

灼熱の太陽が降り注ぐ三重県志摩市の国府白浜(通称・国府の浜)に8月4日、全国から認知症の人とその家族や関係者が集まり、海とサーフィンを楽しむイベントが開かれました。その様子をお伝えします。
※もっと写真を見る場合はこちら

雲ひとつない国府の浜。最高気温32℃だが体感はもっと暑かった
雲ひとつない国府の浜。最高気温32℃だが体感はもっと暑かった

「夢と友情をつなげるサーフィンプロジェクト」と名付けられたこのイベントは今回で2回目です。堺市を拠点に活動する若年性認知症の人と家族と地域の支え合いの会「希望の灯り」などが主催。京都や大阪をはじめ、仙台や広島など全国各地、15府県から84人が参加。また、台湾からの視察やボランティアを含めると総勢約130人が集結しました。
昨年の1回目は、認知症の人と家族の会三重県支部代表の中川絵里子さんの夫で、元サーファーの誠治さんが「また、サーフィンしたいなあ」とつぶやいたことが発端で始まったものです。希望の灯りとともに、昨年は誠治さんを含む当事者3人が集まりサーフィンを楽しみました。
今年、自家用車に分乗し19人の大所帯でやってきたのは、神奈川県鎌倉地域の医療・介護に従事するサーフィン愛好家団体「ナミ・ニケーションズ」(Nami-nications)です。同団体に声をかけられて参加したのは、逗子市在住の近藤英男さん(66)。サーフィンはほぼ初挑戦です。15年くらい前に地元の逗子海岸で、遊び程度のサーフィンや、ボードの上に立って1本のパドルを左右にこぐスタンドアップパドルボード(SUP)を少しやった経験があるだけです。
そんな近藤さんの挑戦が始まります。

開会式では、仲村拓久未プロがボードを使って波乗りレクチャー
開会式では、仲村拓久未プロがボードを使って波乗りレクチャー

ロングボードの上に腹ばいになると、一緒に来た仲間4人が前後を囲んで沖に向かっていきます。この日は前々日に発生した台風8号が小笠原諸島付近まで近づいていましたが、その影響は受けていないものの、波のサイズは最大で腰程度の高さがありました。
沖から横一線にきれいな波のうねりがやってくると、仲間がタイミングを合わせて近藤さんを乗せたボードを岸方向に押し出します。1回目はすぐに頭から海面に突っ込み、ボードが背後で跳ね上がりました。それでも、繰り返し挑戦すること5回目には波に乗って岸方向にすべっていくことができました。近藤さんはずぶぬれになりながら、両手を挙げて仲間と喜びを分かち合います。
へとへとになって岸に戻ってきた近藤さんは「最高!」と満面の笑みで叫びます。
「海は元々好き。みんながサポートしてくれるから安心してできた。本当に気持ちいい!」

プロサーファーも応援に

そもそもナミ・ニケーションズは、鎌倉地域の介護専門職らがサーフィンという共通の趣味で集まった団体。認知症の人が加わるようになったのは16年秋、代表でデイサービスや訪問看護事業所を運営する柴田康弘さんと、若年アルツハイマー型認知症の川名賢次さん(62)が出会ったことでした。川名さんは国内各地の大会に出場したり、バリ島に波乗りツアーに出かけたりするサーフィン歴20年以上の本格派サーファーでした。認知症になってからは家族ともども「海は危ない」とあきらめていましたが、柴田さんが「一緒にやりませんか」と声をかけたことがきっかけでした。現在では毎月定例で集まり、身体に障害を持つ人などもサーフィンに挑戦し活動の和が広がっています。
8時半ごろから始まった開会式では、志摩市長の竹内千尋さんのあいさつの後、柴田さんらが持ち込んだ逗子海岸の砂と国府の浜の砂を混ぜ合わせるセレモニーを実施し、「友情の証し」としました。見つめていた参加者らからは大きな拍手が巻き起こりました。
イベントには志摩市役所や志摩市民病院など地域のボランティアが多く関わりました。なかでも日本サーフィン連盟三重支部からはプロ2人を含む地元サーファー38人が参加。本部テントを立てたり、ボードを用意したりと裏方として運営を支えました。現在は海外に拠点を移し世界ツアーに挑戦する仲村拓久未プロも参加。開会式では代表して波の乗り方をレクチャーしました。仲村プロは、海外で認知症の人や障害を持つ人のサーフィンイベントをよく目の当たりにしていたそうです。
「自分の地元で開かれてうれしいです。自然のなかで波と一体化できるのがサーフィン。元気とパワーがもらえますよ」(仲村プロ)
一方、参加することにちゅうちょしていた人もいました。堺市の伊藤広美さんです。

たった一言で参加を決意

広美さんの夫(57)は、49歳のときに若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。希望の灯りの初めての本人会員です。年齢はいちばん若いのですが、この8年間で症状は進行し、周囲のサポートがないと長距離移動がむずかしい状況でした。まず移動するバスのステップを乗り降りするのが大変ですし、現地に到着できても海岸までたどり着くまでにはいくつもの障壁があることが想像できたからです。
広美さんがそんな思いを抱えていたところ、若年性認知症に特化したデイサービスで3年前に夫を担当していた登山静夫さんから「一緒に行きましょう! 私が手伝いますよ」と声をかけられました。そのひと言が後押しになり気持ちが変わったそうです。

波に乗った近藤英男さん。思わず笑顔がこぼれる
波に乗った近藤英男さん。思わず笑顔がこぼれる

当日はサーフィンができませんでしたが、波打ち際で海水に足をつけることはできました。約10年ぶりの海だったそうです。
「みなさんはサーフィンがチャレンジ。私たちは海に行くことがチャレンジでした。それでも夫の足に波が当たると、本当に気持ちよそうな顔をしていました。夫の笑顔を増やすことをまだあきらめてはだめだと思いました」(広美さん)
参加者がサーフィンを楽しむ様子を岸から眺めていた主催者の下薗さんは、目を細めながらこう語ってくれました。
「見てください。サーフィンをしている人も、岸で待っている人もはじけた笑顔をしているじゃないですか。危ないから、迷惑をかけるからと尻込みすることなんてありません。やってみたらいいんです。最高ですよ」
この日、日焼けして真っ黒になりながらみんなで楽しい思い出をつくりました。認知症とともに生きる人のみならず、さまざまな困難を抱える人も、新しいことに挑戦したり、ともに楽しんだりするには、周囲の理解とほんの少し環境を整えることで実現するのだと改めて思った夏の一日でした。

もっと写真を見る場合はこちら

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について