「冷やし中華、終わりました」認知症の母が喜ぶ毎日ごはん
撮影/百井謙子
フードライター大久保朱夏さんが、認知症のお母さんとの生活のなかで見いだしたレシピを紹介します。卵、ハム、きゅうり。定番だけれど、食べ慣れた冷やし中華は、母の大好きな味でした。
※料理は普通食です。かむ力やのみ込みに配慮した介護食ではありません
母は、2008年からキャンパスノートに一行日記をつけていた。ボケ防止のためにと、『ど忘れ漢字辞典』をひきながら。
毎年7月になると、めん料理が増える。
「Tさん 冷やし中華 おいしい」
「Bさん 冷やし中華 おいしい」
「Tさん 冷たいそうめん 卵焼き」
日付のほかは、ヘルパーさんの名前と昼食の献立が書いてあることが多かった。冷やし中華のときにはおいしいとも書いてあり、ヘルパーさんの訪問記録にも、母が冷やし中華をとても喜んでいると書いてあった。
その記録を読んで、冷やし中華の材料を冷蔵庫に入れておくようにした。ある日、スーパーで「瀬戸内レモンの冷やし中華」を見つけ、たまには目先が変わったほうが喜ぶのではないかと、気を利かせたつもりでそれを買ったのが失敗だった。
「酸っぱい冷やし中華を出された!」と、母がへルパーのTさんを烈火のごとく怒ったという記録があった。Tさんはショックを受けただろう。申し訳ない気持ちでいっぱいになり、事業所に電話をして謝った。酸味の強い冷やし中華が母の記憶に刻まれてしまい、なんと「嫌いな料理は冷やし中華です」と、言うようになってしまった。
酸っぱいどころか、私にとっては苦い思い出だ。食べ慣れた冷やし中華に勝るものなし。
冷やし中華
昔、母が好んで食べていた、定番の冷やし中華を思い出して作りました。卵、ハム、きゅうり、トマトなど、具だくさん。あなたのご家庭の定番冷やし中華は、どんな具が載っていますか?
材料 2人分
冷やし中華めん 2玉
きゅうり 1/2本
ハム 4枚
トマト 1/2個
卵 2個
サラダ油 小さじ2
付属のたれ 2袋
刻みのり 適量
白いりごま 適量
作り方
- きゅうりとハムは細切りにする。トマトはくし形に切る。卵はよく溶きほぐす
- フライパンにサラダ油を入れて弱火で熱し、1の卵液で薄焼き卵を作り、細切りにする
- 鍋に湯を沸かし、めんを袋の表示時間通りにゆでる。流水で洗ってぬめりを落として水気をしっかりきる
- 器にめんを盛り、きゅうり、ハム、トマトをのせ、付属のたれを回しかけ、刻みのり、白ごまを散らす