食べるの遅いのは認知症だから わかっちゃいるけどイライラ 専門家が回答
構成/中寺暁子
見守り支援を行う梅澤宗一郎さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.同居している義母(夫の母・82歳)は初期の認知症です。食事を準備してもなかなか食べ始めず、やっと食べ始めたと思ったらすぐに中断します。時間がかかるのでイライラしてしまいます。どうしたらスムーズに食べてくれるでしょうか?(54歳・女性)
A.食事を食べ始めなかったり、中断したりするケースはよくありますが、理由は本当にさまざまです。今までのお義母さんと違うことに戸惑いますよね。こういった場合も一つ一つ原因を考えることが大切です。大きく分けると身体的な原因と心理的な原因があります。
<身体的な原因>
・便秘
・薬の影響
・味覚や嗅覚、視覚の障害
・口内炎や入れ歯が合わないなどの口内トラブル……など
<心理的な原因>
・環境によるストレス
・うつ
・妄想(思い込み)
・何らかのストレスの表現……など
食事をスムーズにできない原因はどこにあるのか
そのほか、次のような原因も考えられます。
・食欲がない
お義母さんは、どのような状況で食事をされているでしょうか? 例えば一日中、座っていて活動量が少なく、食事の時間になったら配膳されたものを一人で食べる、という状況だと、食欲がわきにくいですよね。お義母さんと料理雑誌を見ながらメニューを相談したり、一緒に食材の買い出しに行ったり、料理を手伝ってもらったり・・・。食事までの流れの中で五感を使うと、食欲がわいてくるものです。
これまでどのような環境で食事をしてきたのか、ということもヒントになります。大家族でおしゃべりをしながら食事をしてきた人が、一人では食が進まないのは当然です。男性職員より先に食べるのは、気が引けるという方もいました。その方は若いころ、夫や子供に先に食べさせて、自分は後から食べてきたんでしょうね。
時間帯をずらしたり、何度かに分けてみる、好みの食べ物や食べやすい形状の物から提供してみてはいかがでしょうか。
・思い込み(気になること)
デイサービスを利用していたSさんは「息子がおなかをすかせているから今すぐ帰って食事の支度をしないといけない」と言って、なかなか食べてくれませんでした。その方にとっては大事なことなので、息子さんの食事のことを解決しなければ、確かに食は進みませんよね。そのときは息子さんに電話をして、直接お母さんに「自分で食べたから大丈夫」と言ってもらうことで、安心して食べてもらうことができました。
ほかにも「手持ちのお金がなくて飲食代を払えないから食べられない」「毒を盛られているかもしれないから食べない」など、食べない理由は、本当にさまざまでした。食事のほかに気になっていることがあるのであれば、それを解決するように考えられるといいですね。
・食べ方がわからない
「食卓に並べられた食事のうち、どこまでが自分の食事なのかわからない」「白いお茶碗に白いご飯が入っているとご飯を認識できない」といったことが理由でスムーズに食べられないこともあります。このため、ランチョンマットを敷いてその方の食事がどこまでかを明確にする、色付きのお茶碗にする、ワンプレートに盛り付ける、といった工夫は、私たちもとり入れることがあります。なかなか食べ始めないけれど、手にお箸とお茶碗を持つサポートをするだけで、食べ始めるという人もいます。食べ物の量や形状、固さ、大きさなどを工夫して、試してみると良いかもしれません。
スムーズに食べない理由がわかれば、お悩みの解決策も見えてくるはずです。まずは食事の様子をよく観察したり、お義母さんのこれまでの食事習慣を夫に確認したりすることから始めてはいかがでしょうか。
【まとめ】認知症の人がスムーズに食事をとるためには?
- 五感を使って食欲が湧くような工夫を
- 食事のほかに気になっていることがあれば、まずそちらを解決する
- 迷わずにスムーズに食べられる環境づくり