記憶を呼び覚ます甘夏ジャムは涙も誘う 認知症の母が喜ぶ毎日ごはん
撮影/百井謙子
フードライター大久保朱夏さんが、認知症のお母さんとの生活のなかで見いだしたレシピを紹介します。母の味覚を呼び覚ましたのは、妹が作った思い出の味でした。
※料理は普通食です。かむ力やのみ込みに配慮した介護食ではありません
高齢になると味覚が低下し、味の濃いものを好むと言われるが、母はずっと薄味だった。ときどき味見をお願いすると、うまみと風味が感じられれば、「おいしい、このままで味つけなしでいい」と言うことも多かった。
険しい目つきで、しょうゆをドボドボかけてしまうときは、気持ちが不安定なときだ。味覚をバロメーターにして、母の心の内側から発せられるサインを読んでいた。
近所の人がクッキーやチョコレートを持ってうちに遊びにきてくれることがあった。母はなぜか「甘いものは嫌い」と言うようになったが、実際は甘いお菓子もうれしそうに食べる。
過敏になったのは酸味と苦味。酢の物もかんきつ類も好きだったのに、両方ともいつの間にか「酸っぱくておいしくない」「これは苦い」と嫌がるようになった。「酸っぱくておいしくない」という言葉を聞くたびに、母が母でなくなったような気がしてせつなかった。
「酸っぱくておいしい」と、母が言ったのは3年後。妹が作った甘夏ジャムをクラッカーに載せておやつに出したときだった。母は毎年、熊本県水俣市の甘夏を取り寄せてジャムにしていた。記憶のどこかにあった味だったのかもしれない。「そうだよね、お母さん、酸っぱくてほろ苦くておいしいでしょう」と、言いながら涙がこぼれた。
甘夏ジャムとクリームチーズのカナッペ
ジャムにチーズを添えて出すとエネルギーアップ! 口の中でパサつきがちなクラッカーも、なめらかでクリーミーなクリームチーズと一緒なら食べやすくなるので、高齢者のおやつに最適です。
材料 作りやすい分量
甘夏ジャム 約50g
クリームチーズ 約40g
クラッカー 6枚
チャービルなどのハーブ 適宜
作り方
- クラッカーにクリームチーズと甘夏ジャムをのせる
- 1にハーブを飾る