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目指せソフトボール日本一!認知症の人たちが熱戦 静岡でDシリーズ

晴天に恵まれた3月24日、静岡県富士宮市の静岡県ソフトボール場で第6回全日本認知症ソフトボール大会(「Dementiaシリーズ」=通称「Dシリーズ」)が開催されました。エキシビションマッチに続いて神奈川対静岡、大阪(前回優勝)対日本選抜(宮城、東京、愛知、奈良、兵庫による連合チーム)の2試合が行われ、勝利した神奈川、日本選抜のうち得失点差で日本選抜が初優勝を達成しました。
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始球式後「いつか絶対にヒットを打ちたい」と話した須藤秀忠市長
須藤秀忠市長は始球式後「いつか絶対にヒットを打ちたい」と笑顔で話した

認知症当事者たちが真剣勝負でソフトボール日本一を目指すDシリーズ、第6回も笑顔あふれる大会となりました。始球式では、投手を務めた女優・北原佐和子さんが、打者・須藤秀忠富士宮市長を内野ゴロに打ち取り、プレーボール。
エキシビションマッチは東日本チーム8人、西日本チーム7人の当事者によるバッティング対決でした。車いすの当事者も思い切りバットを振り、一塁ベースを目指します。車いすから立ち上がって打ち、一塁まで走った当事者に大きな拍手が送られました。ヒットの数は西日本7、東日本6で西日本チームが勝利!

車イスから立ち上がって、打って、一塁へ!
車イスから立ち上がって、打って、一塁へ!

いよいよ本大会。1週間前に行われた実行委員会による抽選で、第1試合は神奈川対静岡、第2試合は大阪対日本選抜という組み合わせに決まりました。好プレーには大きな拍手が湧き起こり、珍プレーには笑顔が広がり、大会は温かく盛り上がります。第1試合は接戦の末に神奈川が静岡を破り、第2試合は日本選抜が4連覇を狙う大阪に大勝。勝利チームの神奈川、日本選抜のうち、得失点差により日本選抜が初優勝を達成しました。

第1回大会が開催されたのは、2014年3月のこと。富士宮市は以前から、住民と市役所などが協力し、認知症になっても安心して暮らせる町を目指して様々なことに取り組んでいました。富士宮市役所職員で、第1回から大会運営に取り組んできた稲垣康次さんは当時のことを振り返ります。
「2013年秋に、ボランティアのメンバー数人と、ある若年性認知症の当事者とで一緒に奈良へ旅行しました。奈良には認知症の当事者が旅するのを支援してくれるボランティアの方々がいたのです。旅は予想以上に盛り上がり、参加者の間で『また交流したい』などの声が挙がりました」

将来を想像してつらくなるのでは……そんな考えを変えた言葉

富士宮市には1998年に女子ソフトボール世界選手権のメイン会場として使用された静岡県ソフトボール場があります。
「どうせなら全国各地から認知症の人に来てもらって、ソフトボールを楽しんでもらおう」
稲垣さんは実行委員会を結成し、大会の実行に向けて動き始めました。メンバーは日頃から認知症の当事者たちと交流している地元のボランティアの人たちが中心。稲垣さんをはじめとした市の職員、若手の介護職の人、地元ラジオ局のスタッフ、商店街のおかみさん、認知症当事者の家族など、職業も世代も様々なメンバーが20人ほど集まりました。
しかし大会開催にあたって、最初から肯定的な意見ばかりだったわけではありませんでした。

「旅行やスポーツどころじゃない」
「家の中の大変な状況を分かっているのか」
「うちのおじいちゃんが、ゴロやフライを捕れるわけがない」
「けがでもしたらどうするんだ」
それでも「とにかくやってみよう」という機運は、しぼむどころか高まっていきます。実行委員会は議論を重ね、手探りで準備を進めました。アイデアを出し合っているうち、「市外の認知症の当事者や家族らを、みんなで出迎え交流する場にしよう」という大会の方向性も見えてきました。

富士宮市の小学生で構成された「宮っ子トランペット鼓隊」と、富士宮市のキャラクター「さくやちゃん」も応援に駆けつけた
富士宮市の小学生で構成された「宮っ子トランペット鼓隊」と、富士宮市のキャラクター「さくやちゃん」も応援に駆けつけた

大会前日には交流会が開催され、全国から集まった当事者や家族、支援者たちが親睦を深めています。また、当事者は全員、旅行の行程からケガや事故に備えて保険に入ることになっており、その費用は実行委員会が集めた地元での寄付金でまかなっています。
2014年3月、第1回大会には6府県から計約60人が参加。うち当事者は16人でした。各地から集まった参加者が東日本、西日本の2チームに分かれ熱戦を展開。大会は大いに盛り上がりました。翌2015年の第2回大会に出場した当事者は22人、2016年の第3回大会では46人と増え、今回の第6回大会にも50人近い当事者が選手として出場しました。しかし稲垣さんは、人数よりも「前向きな当事者が出会う意義」を強調します。

「重い認知症の人と出会った時に自分の将来を想像してつらくなるのではと、それまでは思っていました。でも、ある当事者の言葉で考えが変わったのです。『同じ症状を抱えながらも前を向いて歩いている人と出会って、立ち直れた』と。いい出会いは、一度失った希望や生きる目標を取り戻す力にもなり得る。Dシリーズはそんな交流が生まれる場となっていると思うんです」

当事者たちがはつらつとプレーする姿に驚いた家族から、毎年、大会後に「勇気づけられて地元に戻りました」とお礼の手紙が実行委員会に届くといいます。こうした取り組みが評価され、2018年にDシリーズはNHK厚生文化事業団による「認知症にやさしいまち大賞」を受賞しました。
参加者みんなが大会を楽しみ、「必要なところは少しお手伝いする」というのがDシリーズの精神。第7回大会、第8回大会……これからもDシリーズは笑顔の歴史を積み重ねていくことでしょう。

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