もう一度、父に恋した認知症の母。10年以上介護で見守る長女の思い
取材/朝日新聞編集委員 清川卓史
認知症の人も、そうでない人も、飲み仲間として語り合える。そんな飲み会が「誰でも居酒屋」だ。東京・池袋周辺で月1回。会費は3千円、お酒は2~3杯まで。小ぶりの飲食店を貸し切りで、という日が多い。いろんな人が顔をだして、結構繁盛している。今回は、誰でも居酒屋の「店長」、ゆかさんの話。
20代前半のとき、母がレビー小体型認知症に
「誰でも居酒屋」には「店長」がいる。ゆかさんだ。
飲食店を開いていたことがあり、いまも子ども向けの料理教室で教えている。「誰でも居酒屋」では、その日に出す料理を一手に引き受けることもある。
67歳になる、ゆかさんの母親はレビー小体型認知症。いまは要介護5だ。発症は12年ほど前、ゆかさんは当時まだ20代前半だった。
それから10年以上、仕事をしながら母を自宅で見守り、介護してきた。
一般的な若い世代には想像もできない苦労があったのだろう。そんな先入観にとらわれてしまうが、認知症の母を語るゆかさんの声は明るい。
「妹には『自分の人生を犠牲にしないで』って言われてたのですが、私はすっごく楽観的なんですよ。若くて体力のあるうちでよかったな、親孝行できてよかったなって」
「それに、とっても面白いんですよね、母が」
ゆかさんが熱を込めて私に話してくれたのは、認知症になってもう一度、父に恋した母のエピソードだった。
「母は父のことが大好きなんですよね。父と結婚していることがわからなくなって、認知症になってもう一度、父に恋をしたりして」
「あるとき『好きな人いるの?』って私に聞いてきたんです、友達みたいに」
「『なんで? ○○さん(母の名前)、好きな人できたの?』『もしかしてその人、まるっこくて少しはげてない?』って私が言ったら、うれしそうにうなずいて」
「私が、『○○さん、いいこと教えてあげるね。その人と○○さんは結婚して子どももいるのよ』って言ったら、母がすごく喜んで、その後でやってきた父に背中から抱きついたりして」
「本当に父が大好きみたいです。そう思うと施設には入れられない」