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誰でも居酒屋

認知症の人と飲む。そんな感覚が自然と薄れていく「誰でも居酒屋」

お手製のジャンボ茶碗蒸しを手に登場したひろゆきさん(写真右)=飯塚悟撮影
お手製のジャンボ茶碗蒸しを手に登場したひろゆきさん(写真右)=飯塚悟撮影

認知症の人も、そうでない人も、飲み仲間として語り合える。そんな飲み会が「誰でも居酒屋」だ。東京・池袋周辺で月1回。会費は3千円、お酒は2~3杯まで。 小ぶりの飲食店を貸しきりで、という日が多い。いろんな人が顔をだして、結構繁盛している。今回は、ひろゆきさんの料理の話。

認知症のシェフ

「さ、みんなでとりわけて」
昨年11月の「誰でも居酒屋」。ひろゆきさん(53)が、具だくさんの「ジャンボ茶碗蒸し」を手に、お店の厨房から登場した。ひろゆきさんは認知症の当事者で、アパートで一人暮らしをしている。

ひろゆきさんが作ったジャンボ茶碗蒸し(水野隆史さん提供)
ひろゆきさんが作ったジャンボ茶碗蒸し=水野隆史さん提供

「おいしそうっ」「このかまぼこ、飾り切りだよ」

酒席が一気に盛り上がる。
料理はひろゆきさんの得意分野だ。認知症と診断されるまで勤めていた会社では、同僚に手料理をふるまうこともあった。

「おいしいって言ってもらえるとうれしいし、またつくろうって思いますね」

笑顔で言うひろゆきさん。味に手抜きはしない。ジャンボ茶碗蒸しにもこだわりが詰まっている。

「出汁は、昆布とカツオ、それに干し椎茸の戻し汁を加えてます。鶏肉は白だしにつけて下味をつけて……」。

料理の質問をすると、メモしきれないほどの答えが返ってくる。

この日のメニューは大阪風お好み焼き。フライパンをあおってお好み焼きを返すひろゆきさん
この日のメニューは大阪風お好み焼き。フライパンをあおってお好み焼きを返すひろゆきさん=清川卓史撮影

飲み会で料理をするときは、スタート時間の1時間以上前にお店に入って、厨房を借りて仕込みや調理を始める。今年1月の「誰でも居酒屋」では、得意料理のひとつ「大阪風お好み焼き」をフライパンで調理した。たっぷりのかつお節の上に散らした桜エビの色が食欲をそそる。「料理は色が大事」。それが持論だ。

100人100通りの認知症

「誰でも居酒屋」に参加する理由を、ひろゆきさんに聞いてみたことがある。

「認知症は進行するし治る病気ではないと思うけれど、人と会話するのは脳にいいことだと思う」

「おいしいもの食べながら、知らない人と話したり、笑ったり。それに料理をすると手も動かすじゃないですか」

もの忘れは現在それほどではなく、食材の買い出しも調理も段取りを考えて、きちんとこなすひろゆきさん。それを見て「全然病気に見えないですね」と言う人もいる。

ひろゆきさんが社会に伝えたいと思っていることのひとつが、認知症=もの忘れじゃない、それ以外の認知症もある、ということだ。

お店の厨房を借りておにぎりをつくるひろゆきさん
お店の厨房を借りておにぎりをつくるひろゆきさん=清川卓史撮影

「認知症は100人いたら100通り、だと思う。困りごとはみな違う」

「誰でも居酒屋」はちょっと不思議な場所だ。杯を重ねているうちに、誰が認知症の本人で、誰がそれ以外の人で、という感覚がだんだん薄れていく。

一緒にお酒飲んで隣で笑っているのは、「認知症の人」という抽象的な存在ではなくて、ひろゆきさんはひろゆきさんなのだ。

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