誰でも居酒屋

認知症の人と挑戦を 幹事たちが踏み出す「誰でも居酒屋」の次の一歩

若い飲み仲間たちと認知症について語る水野隆史さん(写真右端)=清川卓史撮影
若い飲み仲間たちと認知症について語る水野隆史さん(写真右端)=清川卓史撮影

認知症の人も、そうでない人も、飲み仲間として語り合える。そんな飲み会が「誰でも居酒屋」だ。東京・池袋周辺で月1回。会費は3千円、お酒は2~4杯まで。小ぶりの飲食店を貸し切りで、という日が多い。いろんな人が顔をだして、結構繁盛している。連載最終回は、飲み会の常連メンバーも参加する「みま~もいたばし」について。「誰でも居酒屋」永久幹事の水野隆史さん(45)が、地域の仲間と立ち上げた新たなネットワークだ。

お互いに支え合い、見守り合う

「地域で暮らしているのは認知症の人や高齢者だけじゃない。その隣には子育てママさん・パパさんがいる。でも、みんな子育てに精いっぱいだから認知症のことを伝えても届かない。だったら、まず認知症の人が子育てを手伝えばいいんですよ」

「誰でも居酒屋」が開かれるお店までの道すがら、歩きながら語る水野さんの言葉が熱を帯びる。

聞いた方は「でも、どうやったらそんなことができるの?」という疑問がわく。その答えになる活動の一つが「みま~もいたばし」。地元NPO法人「チーム赤塚」のメンバーや地域の仲間とともに、水野さんが5月に立ち上げた地域ネットワークだ。

若年認知症の人、子どもたち、高齢者、ひとり親、体や心に障害のある人、ひきこもりの人。地域で孤立しがちな人が互いに支え合い、専門職ともつながって、新たなチャレンジができるようにしたい。そんな願いを込めた取り組みだ。

5月下旬、発足イベント「赤塚公園deかくれんぼ」が地元の東京・板橋区で開かれ、40人以上が参加した。小学生、若年認知症の人、車いすを利用する人、精神障害のある人、医療福祉関係者、法律家、行政の担当者ら、顔ぶれは多彩だ。

「かくれんぼ」は、1人で外出中に行方がわからなくなった認知症の人や子どもたちを捜索する模擬訓練だ。参加者はまず、一般社団法人セーフティネットリンケージが提供する「みまもりあいアプリ」をスマートフォンにダウンロードする。そうすると訓練用に準備された6人分の捜索協力依頼(顔写真や特徴)が配信されてくる。これをもとに広い公園のなかから行方不明になった人を捜す練習だ。

とはいっても、着ぐるみのキャラクターが行方不明者役になったり、見つけたらシールがもらえたり、景品としてお菓子や風船がもらえたりと、子どもたちが楽しく参加できるように趣向をこらしている。「よしっ、さがしにいこー」とスマホ片手に駆けだしていく子どもたち。たまたま遊びに来ていた親子連れが「面白そう」と飛び入り参加する姿もあった。

みま~もいたばしのイベントで「みまもりあい」アプリの説明をする水野さん(写真中央)=清川卓史撮影
みま~もいたばしのイベントで「みまもりあい」アプリの説明をする水野さん(写真中央)=清川卓史撮影

若年認知症の本人も行方不明者役をつとめた。その一方で、捜す側にも認知症の人が加わった。「誰でも居酒屋」で顔を見かける「飲み仲間」たちの姿も、あちこちにあった。

「認知症の人だけを捜すのではなく、子どもたちのことも捜す。車いすの人も、認知症の人も、みんなで。役割を固定しないで、お互いに見守り合うことができるんです」と水野さん。

みま~もいたばしのイベントには、「誰でも居酒屋」常連さんの姿が=清川卓史撮影
みま~もいたばしのイベントには、「誰でも居酒屋」常連さんの姿が=清川卓史撮影

    ◇

毎月1回の「誰でも居酒屋」に私(記者)が通いはじめて、1年2カ月。昨年末、若年認知症の人の「就労祝い」と称して、4人で池袋の駄菓子屋バーで飲んだことも、よい思い出だ。

毎回楽しく飲んで、食べて、それが楽しみで通っているわけだし、会話の9割は雑談だ。でも、ときどき、はっとさせられるような認知症の人の言葉を、飲みながら耳にする。

あるとき、認知症の男性が突然、自分の過去の「万引き」と、それによって家族がお店に謝りにいったときのことを語り始めた。

「万引き」は、認知症の原因となる、ある病気の症状として知られている。それを認知症についての本で読んだことはあったけれど、ご本人の言葉として聞いたのは初めての経験で、なんと言葉を返していいかわからなかった。

新聞記事を書くときに、私たち記者はよく「認知症の○○さん」という表現を使う。説明としては必要なのだけれど、「誰でも居酒屋」の記事を書くときには、なぜだか、この「認知症の……」と頭にかぶせる表現に違和感があって、困った。

毎月一緒に飲んでいる認知症の人たちは、一般化できない「○○さん」「△△さん」であって、2人が同じ病気でもまったく個性が違う。「認知症以外」の人生の歩みや趣味があるわけで、飲み仲間としてその人のことを知るほど、「認知症の○○さん」とひとくくりのグループにできない存在だという感覚が強くなっているからかも知れない。

人間というのは、ある程度の期間つきあわないとわからないことが、やっぱりある。認知症の人であっても、そうでなくても。

水野さんによると、内輪のメンバー中心に開催してきた「誰でも居酒屋」を、もう少し、地域の人にも開いていくようなアイデアもあたためているそうだ。

「誰でも居酒屋」のおいしい料理とお酒、そして「常連さん」たちの活動を、これからも楽しみにしている。

※ 「誰でも居酒屋」の連載はこれで終わります。

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