「部屋に稲川淳二が」認知症の幻覚に便乗する。これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
それは幻覚? それとも……
実際にそこにはいない人や物を「いる」と感じるのが幻覚という症状ですが、これは認知症の方にもよくみられる兆候の一つだと思います。
ウチの場合、特にひどかったのがばーちゃんです。「家の中に知らない人がいる」という訴えからはじまり、「ゆずこが若い男を100人くらい部屋に連れ込んで、毎日パーティーをしている」というものなど様々な幻覚がありました。ちなみに、当時わたしの部屋は6畳一間のフローリング。それが本当なら通勤ラッシュですし詰め状態の満員電車より、人口密度が高くなる。そんなところで毎日パーティーだなんて、もはや罰ゲームです。
このようにあからさまに「幻覚だな」と分かるものもあれば、向き合って話していたのにおもむろにフッと目をわたしの肩の方にそらして、「……なんであんたの部屋に知らないおじーさんがいるんだい」と、ボソッと一言。
幻覚だと分かっていても怖いものは怖いです。
ほかにも、「しかめっ面の子どもがあとを付いて来てるね」「廊下にずっと立ってる、着物を着た女性はあんたの友達かい?」。
たとえ幽霊やモノノケの類が出てきても、まったく動じなそうなばーちゃんなので、「もしかしたら本当に“視えてる”の……?」と、背筋がゾクッとすることもありました。描写もものすごく細かいので、思わず信じそうになることも。でもそこで否定するのではなく、その幻覚に乗っかっちゃうのがポイントです。
恐怖! ゆずこの部屋に現れた大物芸能人
そんなある日、夜中の1時過ぎに突然部屋にばーちゃんがやってきました。そして一言。
「なんであんたの部屋の隅に、稲川淳二がいるんだい」
幽霊でも妖怪でもなくて、それを怪談話として伝えているご本人がまさかの登場。しかも、ばーちゃんいわく、「着物姿で座布団に座り、壁に向かってブツブツひとりごとを言っている」らしい。
ばーちゃんの幻覚を具体的に想像してみる。
「やだなあ~、怖いなあ~」「おかしいなー、おかしいなー」など、淳二節が部屋で聞けるなんて! それはまさしく、稲川さんの怪談ライブでよくありそうな光景。一度は行きたいと思っていたので、自分の部屋で1対1の対面でライブをしてくださるなんて、本当だったら感動の嵐です。幻覚も悪くない!
しかし、観客は私一人ではなかったようです。
「ほかにも、数十人のおばあさんが座っているね」
まさかの先客! そして、「子どもたちもきた」「怒った顔をした男の人も団体さんで流れこんできた」らしく、知らないうちに観客席はどんどん勝手に盛り上がっている。このような話をずっと真顔で語るため、幻覚に乗っかるとはいえ話を聞き続けたら段々怖くなってビクビクしてきました。
そして「しょーがない、今日は一緒に寝てあげるよも~、ばーちゃんとじーちゃんはホント寂しがりなんだから~」と、川の字で眠りについたゆずこなのでした。ひ、人のせいにしてるんじゃないんだからねっ。これも介護のうちなんだからねっ。
否定ではなく、安心を与えて
横浜相原病院の院長で、『認知症は接し方で100%変わる!』(IDP出版)の著者、吉田勝明先生いわく、「幻覚の症状が出たときは、決してそれを否定したり怒ってはいけない」といいます。
「幻覚を否定されると、不安が強まったり混乱したりしてしまい、幻覚がひどくなるなどほかの症状が出てしまうこともあります。だから、『知らない人がいる』と言われた場合は、『どこにそんな人がいるの』ではなくて、『お客さんが来ていたけど、もうお帰りになりましたよ』などと言って安心させてあげてください。そして、不安を和らげるために手を握って安心させてあげると、より効果的です」
たとえ部屋に「淳二が出た」と言われても、優しく手を握って微笑んであげてくださいね(……できるかな)。
〈つぎを読む〉話を繰り返す祖父母には「レバニラ大盛り7人前」これって介護の裏技?
- 吉田勝明先生
- 横浜相原病院院長。日本老年精神医学会専門医・精神科専門医。「今を楽しく」をモットーに、認知症の患者と全力で向き合う。著書に『「こころ」の名医が教える 認知症は接し方で 100%変わる!』(IPD出版)など。