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介護の裏ワザ、これってどうよ?

ばーちゃん「金盗られた」にはスカスカ財布を見せろ これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護"で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……?専門家に解説してもらいました!

完全に孫のことをクロだと思っている視線っ・・・

孫は家中の500円玉を盗む、「小銭泥棒」だった!?

認知症の症状の一つに、お金や物を誰かに盗られたと疑いはじめる“もの盗られ妄想”があります。ウチの場合も、まだ辺りが薄暗い早朝の時間帯からばーちゃんがよく大騒ぎしていました。
「ゆずこに、家中の500円玉を盗まれた!」
「私の財布をどこに隠したんだ。返しておくれ」と、何度叩き起こされたことか……

“家中の500円玉"というのがなぜか絶妙にしょぼいですが、本人にどれだけ身の潔白を伝えてもほとんど聞いてもらえません。
そのうちばーちゃんの訴えはエスカレートし、「財布からお金を盗っているところをあたしは見たんだよ!」と言い出します。ここまで言われるとこっちもムキになり、捜索開始。すると早々に、ばーちゃんの布団の枕の下に押し込まれていた財布を見つけました。大事なものを枕の下に入れる習慣があるので、そこに無意識に財布もしまい込んでしまったようです。

急いでばーちゃんに財布を手渡すも、私に向けられた疑いの眼差しは変わりません。
そこで私は自分の部屋に駆け足で戻り、いつも使っているリュックから自分の財布を掴んでばーちゃんに差し出しました……!

「これでもお金を盗ったと疑うの?」孫の財布を見たばーちゃんは……

わたしは酔っ払うと、余裕がなくても奢ってしまうクセがあります。長すぎるばーちゃんの家の廊下を「スケートボードで滑ってみよう」となぜか思い、ネットショッピングで中古のボードとヘルメットを買うという散財もしました。
ほかにも、料理を本格的にやってみようと、ちょっといい値段のする包丁セットを購入し、今では物置の奥でホコリを被っています。
「これが私の全財産だよ。これでも盗ったっていうの……?」
お給料日前日、散財を続けたわたしの全財産は、470円。泣きたい。

孫のサイフを見た認知症のばーちゃんに、思いっきりドン引きされているのはわかった・・・

孫の悲惨なお財布事情を相当不憫に思ったのか、それ以降ばーちゃんは「孫がお金を盗んだ」と一切言わなくなりました。それどころか、最終的には千円札をわたしに握らせ、ばーちゃんは無言で立ち去っていきました。うれしいけど、なんか複雑な気分……

「自分は絶対に悪くない!」認知症の方の、極端すぎる自分の守り方

このように、家族や親しい人に「お金を盗られた!」と騒ぐもの盗られ妄想ですが、一体どんな背景があるのでしょうか。
認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)の著者、川崎幸クリニックの院長・杉山孝博医師にお話しを聞きました。

「認知症の症状の中には、自分に不利なことは認めないという“自己有利の法則”があります。例えば何かの〆切が迫っているのに全然終わらないときなど、『もうすぐ終わります』『あと少しです』と、怒られないために自分を守ったりしますよね。これは本能的に誰にも備わっているのですが、認知症の方は判断力や推理力が低下しているので、『財布をなくしたのは自分じゃない』という思いが、『家族に盗られた』と、バレバレの虚言になってしまう。さらに、認知症の方々の世界の中では、“本人が思ったことは、本人にとっては絶対的な事実”です。だからこそ、正論を伝えたり否定をしても効果がないのです」

わたしの場合、「盗ってない!」と伝えるよりも早く、財布を見せて“給料日前の経済状況がどれだけ悲惨か”をまず伝えました。本当に私が盗っていたら、財布はパンパンに膨らんでいるはずです。

「財布を見せたことで、“場面の転換”ができていますね。上手く気をまぎらわせている。一番まずいのは、『私は知らないよ! 自分がどこかに置き忘れたんでしょ』など相手を否定すること。相手にとっては自分が思い込んでいることが事実なので、こちらが否定するほど、『開き直っているな』と捉えてしまう。すると余計反発が強まってしまいます。
気をまぎらわす場面の転換のほかに、否定せずに『それは大変ね。一緒に探しましょう』と受け流すのも効果的です。
ただ、一緒に探すのはいいのですが、ゆずこさんが一人でさっさと探して見つけて渡す……というのはあまり宜しくないですね。なぜなら勝手に見つけると、『やっぱりお前が盗って隠していたのか』と疑われてしまうこともある。だからこそ、先に見つけてもあえて相手をそこに誘導してあげるなどの工夫も必要でなんです。大切なのは、見つける瞬間を共有すること。相手を否定しない、プライドを傷つけない演技やシナリオを考えましょう」

ちなみに、残金470円の財布をばーちゃんに見せたとき、どこか呆れたように笑っていたような……結果オーライならいいのですが。早く来いこい、給料日。

〈つぎを読む〉「部屋に稲川淳二が」認知症の幻覚に便乗する。これって介護の裏技?

杉山孝博・川崎幸クリニック院長
杉山孝博先生
川崎幸クリニック院長。認知症の人と家族の会の全国本部の副代表理事であり、神奈川県支部の代表を務める。著書に『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、その他多数。

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