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「福祉とか嫌い」な代表がいるデイサービスが常識の斜め上をいっていた

会場はほぼ満席で、熱心にメモを取る人の姿も見られた
会場はほぼ満席で、熱心にメモを取る人の姿も見られた

デイサービスといえば、高齢者が施設に集まって、童謡を歌ったり、折り紙をしたり…。普通はそんなイメージでしょうか? ところが東京・町田市に、認知症の人たちが連れだって仕事に出かけたり、昼食を自分たちで作ったりするデイサービスがあります。時間の使い方を自分たちで選ぶ、そんな常識破りのデイサービスを全国に100カ所つくろう!という構想が水面下で動き始めているようです。神保町ブックセンター(東京千代田区神田神保町)で開かれたトークイベントを、なかまぁる編集部が詳しくお伝えします。

トークイベントの話し手は、NPO法人「認知症フレンドシップクラブ」理事の徳田雄人さんと、町田のデイサービス「DAYS BLG !」代表の前田隆行さん。聞き手は、会場となったブックセンターを始め、全国各地で街づくりや場づくりを仕掛けるUDS株式会社代表取締役社長の中川敬文さんです。

認知症の人=問題ではない

▼元NHKディレクターの徳田さんは「認知症フレンドリー社会」(岩波新書)を出版したばかり。イベントではまず、認知症についての問題意識や、この本を書いたきっかけを話しました。

徳田さん:認知症と聞くと多くの人が、高齢の人がいなくなってしまうとか、スーパーで支払いがすんでいない商品を食べてしまうとか、そういうトラブルを思い浮かべて、じゃあ、そういう人たちをどうサポートするかと考える。それが一般的なイメージなのかなと思います。間違っているわけではないが、その発想を変えないと、本当の意味で問題は解決しないと思っています。それが本を執筆する一番のきっかけでした。

NHKで働いていた頃、地方で暮らす認知症の人を取材したら、わりと進行して要介護度も高い人が、地域の人たちとうまく連携して、とても楽しそうに暮らしていました。一方、都市部では、認知症は軽度なのに、診断をきっかけに外出が難しくなり、家に引きこもっている人がいました。

出版記念イベントで話す徳田雄人さん(右)
出版記念イベントで話す徳田雄人さん(右)

徳田さん:この頃から、認知症の人が問題なのではなくて、認知症の人がいる環境のほうに、解決しなければいけない問題がある、つまり我々が社会を変えなければいけないと考えるようになりました。今は、「認知症の人=問題」という意識の方が強まってきているようで、気になっています。

認知症フレンドリーとは、「認知症の人にやさしくしてあげましょう」ということではなく、認知症の人に使いやすい、適応した、というような意味合いです。認知症の人に使いやすければ、高齢の人全般にも、障害のある人にも、子どもたちにも使いやすい。認知症フレンドリーを、この社会をどうデザインしていくかを考える手がかりにしていけたらと思います。

座ったままで7時間半耐えられますか

▼トークイベントのもう一人の主役、前田さんが代表を務めるDAYS BLG ! では、利用者(DAYS BLG !ではメンバーさんと呼ぶ)たちが近所のカーディーラーで、展示車を洗う仕事を請け負っています。認知症の人の働きたいという思いを生かす、この先進的な取り組みは、どのように始まったのでしょうか?

前田さん:なにか仕事はないですかと、メンバーさんと一緒にディーラーを訪ねたんです。お店の人は「認知症の人たちは何ができるだろう?」ということで、洗車はどうですか、粗品をビニール袋にいれるのはどうですかと聞いてくれて。その選択肢の中で、洗車にメンバーさんが反応された。車を大事に乗っていた世代なんですよね、土禁車って分かります?土足禁止車のことで、汚さずに車に乗るために、靴をサンダルに履き替えていた。

徳田さん:いわゆるデイサービスって、おじいちゃん、おばあちゃんが、日がな一日、椅子に座っているイメージですよね。前田さんたちは、なんで外に出ちゃったんですか。

「なんで外に?」と徳田さんに聞かれる前田隆行さん(左)
「なんで外に?」と徳田さんに聞かれる前田隆行さん(左)

前田さん:天気がいいから、みんな外に出たいわけです。認知症だとか、介護が必要だとか、そんなの関係なく、みんな、天気がよければ外に出たいですよね。じゃあ、みんな外で何したい?と聞くと、「働きたいよな」と。その思いを実現していくというのは、至って自然なことだと思うんですよ。転んだらとか、怪我をしたらとか、そんな心配自体、不必要だと。

徳田さん:いや、でも、ふつう……ですね(笑)、デイサービスの定員は何人で、安全管理者がいて……とか、いろいろ考えますよ。前田さんがあえて線を踏み越えている理由は?

前田さん:踏み越えている自覚はなくて、まあ、踏み越えていると言えば、踏み越えているのかもしれないけれど(笑)。

みなさんだったら、日がな一日座れますか?7時間半とかですよ。で、立ち上がろうとしたら、誰かがすぐ来て、「どうされました?お茶入れ替えますから、まあ座ってください」と、これは「見えない抑制」ですよ。元々私は、福祉とか介護とか嫌いなんですよ。余計なお世話みたいな感じで。なんでもっと、自然に暮らせないのかと虫酸が走るというか……(会場を見渡しながら)あれ??(笑)自分だったらどうだろうと、そういう気持ちからですね。それが後押しになっている。

「おせっかいおばさん」が地域をつなぐ

▼そんな「見えない抑制」がないDAYS BLG ! を、徳田さんと前田さんは、100カ所作ろうと計画しています。いったい、どんな構想なのでしょうか?トークは盛り上がります。

徳田さん:町田市では、前田さんとこを介して、認知症だけでなく、障害をテーマにしている人、子どもの支援をしている人、いろんな人やことがつながって、課題を解決していくんです。 BLG !が地域共生社会のハブになっているんですね。

前田さんはおばさんではないけれど、おせっかいおばさん的なことができる人なんです。それを個人ではなく事業所のようなところが担えれば、いろんな地域に広がるはずだと。それで、BLG !が100個できたらおもしろいと思ったんです。前田さんもちょうど、BLG!を全国に広げたいと思っていた。

徳田雄人さんと前田隆行さん

前田さん:町田にはBLG!があるからいいではなくて、いろんな地域で必要とされているんですよね。あるとき新潟から電話があって、新幹線で通いたいという相談でした。家族ではなく本人の電話です。認知症と診断されて、友人と思っていた人がどんどん離れていく。気づいたら家族しかいない。まだ自分にはやれることがあるはずと、いろいろ探したら、BLG!にたどり着いたと。ここなら社会とつながれて、仲間も見つけられるのでは?と言うんです。

そういう方たちがたくさんいるなら、近くにたくさん、そういう場所があると、つながりやすいよねと考えた。100カ所のイメージまではなかったが、いろんな場所にあるといいなと思っていました。

中川さん:BLG!を他の場所で再現するとしたら、何が一番大事ですか?

前田さん:一番大事なのは、空気の作り方。(何かを忘れたり、間違ったりしても)責められない空気、素のままでいられる場所。そんな場づくりが大事。

徳田さん:まさにその通りなのですが、ちょっと天才が作るラーメンのような状態になっていて、その技をどう分解して伝授したら、のれん分けできるのか、絶賛協議中です。

型破りデイサービス 空気づくりの3カ条

中川さん:前田さん、DAYS BLG ! の空気づくりの3カ条はありますか?

前田さん:一つ目は、自分をさらけ出す。

中川さん:前田さんが?怒ったりしますか?

前田さん:そう、怒ったり、言い合いになったりもします。

中川さん:二つ目は?

トークイベントで話す前田隆行さん

前田さん:男性のメンバーさんが多いのでね、性の話もします。それって、家族では話さないことだったりする。そういう素が出せることも大事。

中川さん:三つ目は?

前田さん:なんですかね~、音楽ですかね。BLG!では常に音楽が流れています、昔の歌謡曲とかではなく(笑)、カフェで流れているような、リラックスできる音楽です。

徳田さん:空気づくりに加えて、(BLG!再現には)地域とつながることも大事。実はこっちのほうが難しいのではと考えています。たとえば、前田さんはカーディーラーに1年半通って、「仕事ないですか」言い続けた。なかなか誰にでもできることではないんですよ。介護業界で働いている人には(未知の領域への挑戦は)難しいかもしれない。でもチームとしてなら再現できる。そういうチームの作り方を各地にインストールしていきたい。

▼トークショーはさらに、認知症フレンドリー社会に向けて政治や学問が果たすべき役割、設計やデザインが貢献できることなどを題材に盛り上がりました。なかまぁるは今後も、DAYS BLG ! 100カ所構想に注目して取材を続けていきます。

DAYS BLG ! のなかまぁる連載はこちらです。

■プロフィール■

徳田 雄人(とくだ・たけひと
1978年生まれ、NPO法人認知症フレンドシップクラブ理事。元NHKディレクター。09年にNHKを退職し、10年より現職。NPO活動とともに、認知症や高齢社会をテーマに、自治体や企業との協働事業やコンサルティング、国内外の認知症フレンドリーコミュニティに関する調査、認知症の人と家族のためのオンラインショップdfshopの運営などをしている。
前田 隆行(まえだ・たかゆき)
1976年生まれ、DAYS BLG ! 代表。認知症当事者と一緒に「想いをカタチ」へと実現すべく、認知症当事者が介護保険制度のサービスを利用しながら働けるように行政や企業と交渉を重ねてきた。現在、認知症当事者は謝礼を受け取ることができる。働くことを通じた仲間づくりや、居場所づくりの活動に加え、社会的課題を共有し、解決していくアイデアを実践する。
中川 敬文(なかがわ・けいぶん)
1967年生まれ、UDS株式会社代表取締役社長。キッザニア東京、薩摩川内市スマートハウス、ここ滋賀、神保町ブックセンターなど、企画・コーディネイト実績多数。

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この連載について

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