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五十路娘 母の住まい探しに迷走中!

理想のホーム入居に準備着々のはずが… 「疑」の病名であえなく撃沈

【健康診断書について】有効期限は3カ月。1日でも過ぎると取り直し。施設所定の用紙が多いが、要件を満たしていれば手持ちのものでOKなこともある。「複数の施設を申し込むなら、覚えておこう。お金も時間もかかるものだから、賢く節約しよう」

いつかはやってくると思いつつ、ついつい先送りしてしまう親の介護の準備。関西在住のイラストレーター&ライターのあま子さんもそんな一人。これまで一人暮らしを続けていた母が、2022年正月早々に転倒し、骨折→入院という経緯で認知症を発症。いったん母は首都圏に住む兄一家のところで暮らすことになりましたが、その後、母は入退院を繰り返します。そうした中、母の住まい探しを関西で続けていたところ、「老人ホーム紹介センター」を活用して、理想のサービス付き高齢者住宅とやっと出会いました。今回は、入居審査についてのお話です。ただ、まだまだ紆余(うよ)曲折がありそうです。

前回お伝えしたように老人ホーム無料紹介所の助けを借りて、とうとう母に理想のサービス付き高齢者住宅(サ高住)を見つけました。粘り強く探せば見つかるものですね。すっかり浮かれて、その場で入居申し込みをしたのですが、だいじなことを私は忘れていました。申し込みはあくまで仮で、部屋を仮押さえしてもらえるだけ。部屋に空きがあっても、申し込む=即入居決定ではないのです。仮押さえの期間は通常1カ月ほどだそうですが、母の場合は入院中であることや、関東から来るということで「延長になってもいい」と言っていただきました。ありがたい。

仮押さえのあいだに、施設による入居審査「書類審査」と「本人面談」があります。入居可否の基準は次のようなものです。
・費用の支払い能力があるか
・施設で過ごせる健康状態か
・共同生活に問題はないか
・保証人や身元引受人はいるか
・本人の介護状態

母の場合、保証人や身元引受人になる子ども(つまり、私たち)がいるので全く問題はありませんが、子どものいない自分はどうなるんやろ。身元保証会社に頼むと何十万もかかるらしいし…。思わず、わが身のことを考えてしまいましたが、母の書類審査に話を戻します。提出を求められる書類は施設ごとにちがいがありますが、今回は次のようなものでした。
【提出書類】
・入居申込書
・健康診断書(施設の様式あり)
・診療情報提供書(主治医がホームのドクター宛てに作成する紹介状)
・居宅フェースシート(ケアマネさんに依頼する)
・介護保険証・後期高齢者医療被保険者証(コピー)

健康診断と診療情報提供書は、母が入院している病院に義姉から依頼してもらいました。ちなみに、退院後そのまま老人ホームへ入居する人も多いそうで、病院側もこうした書類についてはよく理解しています。ただ、母の健康具合などもあり、書類をそろえるのに時間はかかりました。また、健康診断書は一般的に、3カ月が有効期間とされていることが多いようです。期限を過ぎていると、診断書の取り直しを求められることもあるようなので注意が必要です。
その間に私は夫とホームを再訪して部屋を正式に決めたり(部屋の候補が複数あった)、住まいに必要なものの確認をしたりして着実に話を進めていきました。このホームではオムツなどの日用品は持ち込みではなく施設のものを使用します。その費用やふとんのレンタル代など細々したものを上乗せすると、元の料金から3万円ほどアップすることがわかりました。多くの施設で似たり寄ったりの上乗せがあるとの話を聞いていたので想定内でした。
姉や親戚にも、よい住まいが見つかったと報告して了承をもらい、あとは面談を待つばかり。面談は対面が基本ですが、母の場合は遠方なので電話面談でOKとのことでした。

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入院中の母にも電話で「いいホームが見つかった」と伝えると「いつ帰れる? はよ(早く)退院せな」と大喜び。母の笑顔が見えるようで、私の心もはずみました。
「いよいよ」と高揚する周囲の気持ちとは裏腹に、ことはスムーズに運びませんでした。
入院先の医師から、母が誤嚥(ごえん)性肺炎をくり返す原因は「食道アカラシア」の可能性が高いといわれたのです。熱帯の花のような病名ですが、食べたものがスムーズに胃へ流れず食道内に食物がたまってしまう珍しい病気で、これによって肺炎が引き起こされることもあるそうです。はっきりした原因は不明。治療法は手術になりますが、必ず治るかわからないとのこと。そもそも90歳を過ぎた母に手術の選択肢はなく、生活で気をつけることは「飲食した後はすぐに横にならず1時間ほど起きておくこと」とのことでした。それであれば誤嚥性肺炎の予防法とあまり変わりません。初めて聞く病名におののいたものの、ホームからは「誤嚥性肺炎の受け入れは可能」といわれていたこともあり、胸をなでおろしました。面談の調整も含め、ホームには義姉から連絡をしてもらいました。

1週間ほどたって、ホームから私に電話がかかってきました。「母の受け入れはできない」とお断りがきたのです。「食道アカラシアという病気に対応したことがない」というのが理由でした。看護師のいる系列ホームにも相談したものの、受け入れは難しいといわれたそうです。こちらを紹介してくれた老人ホーム無料紹介所のKさんには、ホームから連絡するとのことでした。
面談する前に書類で落ちてしまった…。

これまでも母の住まい探しのなかで、心が折れたことは何度かありましたが、今回の打撃が一番大きかった。なぜ、いつもいつも、うまくいかないんだろう。義姉によると、入院先の医師は「関西に行くなら、体調が安定しているうちに少しでも早く行く方がいい」と言っているそうですが、こんな病気の母を受け入れてくれる施設はあるんでしょうか。
不安と絶望のなかで、私を支えてくれたのは「夜明け前が一番暗い」という言葉でした。夜明けは来る、もうすぐ来るとつぶやきながら、新たな住まい探しを始めたのです。

【感想&後日談】

後日、関西に移った母を地元の医師に診てもらいました。そのときにわかったのは、母の入院先から送られた診断書には、食道アカラシアに「疑」という言葉がついていたということです。病気は確定じゃなかった。先生に「疑いだったら検査してください」と私がいうと、確定するには、体に負担のかかる検査を行わなくてはならず、メリットはないので「疑」のままにしているほうがいいとのことでした。「その一文が取れれば施設選択の幅が広がるのに」と思ったものの、検査で体調が悪化すると本末転倒なので、結局なにもしませんでした。
あれから1年半たちます。母がアカラシアなのかわかりませんが、現在は元気でなんでもよく食べ、1度も入院していません。今の母なら、あのホームも間違いなく受け入れてくれるでしょう。ただし、ホームは大人気になっており相当な順番待ち。つくづくご縁ってあるなーと思います。

登場人物【あま子】アラフィフのライター&イラストレーター。関西で夫と2人暮らし。優柔不断な性格。【母さん】91歳。要介護3。娘2人の世話で1人暮らしをしていたが…性格はマイペース。【カン太】あま子の夫。突然の施設探しに右往左往するあま子のよき協力者。【カラ美】あま子の6歳上の姉。気の強いしっかり者。兄とは犬猿の仲。3児の母。【ツヨシ】あま子の3歳上の兄。首都圏在住。小さいころからオレ様気質。3児の父。※年齢は施設探しを始めた2022年当時のもの
登場人物

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