経歴多彩で"介護職愛”あふれるプロの講師陣 現場のリアルな話に興味津々
新卒で入社した出版社で、書籍の編集者一筋25年。12万部のベストセラーとなった『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(多良美智子)などを手がけた編集者が、40代半ばを目前にして、副業として訪問介護のヘルパーを始めることを決意しました。働き始めるために必須とされたのが「介護職員初任者研修」の受講。今回は、スクーリングで出会った講師の方々のお話です。
講義を受けた先生は5人
研修が行われた教室は、小さなビルの一室でした。部屋の両端には介護ベッドや車椅子などの福祉用具、大人用おむつなどがずらりと並んでいます。私が受講したスクールの教室には、事務局のスタッフはおらず、講師の先生が準備や受付をすべて一人でこなしておられました。そのため先生と生徒の距離感が近く、アットホームな雰囲気でした。
スクーリングは10回ですが、一人の先生が全部の回を受け持つということはありませんでした。講師の先生は総勢5人ほど。講義は1回だけという先生もいました。
一人の先生に担当してもらう方が、気心が知れて質問もしやすく、受講生一人ひとりの習得具合もきめ細かく見てもらえるのでしょうけれど、先生方はほとんどが40~50代の働き盛り。普段のお勤めをしながら、まさしく副業で講師業をされている様子。そう毎週のように授業を受け持つことは難しいのでしょう。
それに、複数の先生の授業を受けられたのは、この研修の大きな利点でもありました。というのも、先生方はそれぞれにバックグラウンドが違い、様々な介護業界のリアルな話を聞くことができたからです。
施設勤務歴の長い方や障害者福祉出身の方、訪問看護師さんなど経歴はそれぞれ
講師の先生は、全員が介護の現場に長く携わっている方でした。つまり、介護職のプロ中のプロ、私たち受講生の大先輩です。特別養護老人ホーム勤務という方もいれば、訪問介護のヘルパーをしているという方、ケアマネジャー職がメインという方もいました。
ただ、それはあくまで「現在」のこと。数十年の介護職キャリアの中で、障害者施設に勤めていることもあったり、デイサービスやグループホームにいたこともあったりと、複数の介護・福祉の業態を皆さん経験されていました。
ある先生は、介護業界に入ったのが40代と遅めだったのですが、多様な業態を経験したいと、2~3年単位で老人ホーム→デイサービス→ヘルパー→老健(介護老人保健施設)…などと転職しているのだとか。「いろいろ知ってみたくて」と楽しそうに話されていました。
最年長の60代の先生は訪問看護師をしていたとのこと。訪問看護では、入浴や食事の介助、ベッド上の体位交換など、介護職と重なることも行うので、介護のスキルをもちろんお持ち。とくに介護保険制度が始まる2000年以前は、医療が介護の役割も担うことが多かったようです。
このほか、キャリアのスタートは障害者施設だったという先生がお二人。介護保険制度ができてから、障害者福祉から高齢者福祉の世界に移ってきたとのこと。そうしたケースは少なくないそうです。
教科書にはない、現場のリアルな話が貴重
こうした経歴を、各先生の初回の講義で聞くのですが、これがとてもおもしろくて印象的でした。元々本業の編集者職では、著者の方に取材して「話を引き出す」のが大きな仕事。自分の知らない世界のことを聞くのは大好きなのです。
5人も介護のプロフェッショナルが集まれば、あらゆる業態の介護職が網羅されます。それぞれの現場でどのような方をどのように介護するのか、教科書にはないリアルな話が、実体験をもとに詳しく語られました。こんな貴重な話を一度にたくさん聞かせてもらえるなんて、もうそれだけで研修を受けたかいがあるというものです。
また、講義は基本的にテキストをもとに進むのですが、先生方の現場で経験したエピソードが随所に入ってきます。例えば、「レビー小体型認知症」の説明では、「特徴的な症状として『幻視』がありますが、私が勤めていた特養でも、天井の隅に小さな動物がいると、ずっと言い続けている方がいました」といった感じです。
実技中も、テキストには書かれていない、なまの情報をたくさんいただきました。
ずっと忘れられないのが、グループホームなど認知症の方の介護現場が長かったA先生の話です。受講中、私はメガネをかけていたのですが、先生が「重い認知症の人の介護をするときは、メガネは危ないかもね」とおっしゃったのです。えぇ、どうして?
「認知症の人にとって、顔にかかっているメガネの存在は、どうも不思議に見えるらしくって。じっと顔を見てきたと思ったら、いきなりメガネをつかまれて壊れたことが何度かある」と理由を説明してくださいました。わぁ、そ、それは……。
先生方の「介護職愛」がモチベーションを上げてくれた
特養で、寝たきりの方の介護を多くされているB先生。ベッド上のおむつ交換を練習している際、「実際には、こんなふうに静かに横になっていてくれることは少ないんだけど…」とのこと。では、実際には?
「かゆくて、おむつに手を突っ込んでしまう人もいます。便が手についてしまったりして。でも、かゆいものは仕方ないですもんね。何とかしますよ」と、なかなかすごい話を朗らかに話されました。
このB先生はとても明るい方で、「介護の仕事が大好き、楽しいです」とおっしゃっていました。その言葉通り、本当に楽しそうに介護の様々な知識、技術を伝授してくださいました。
実技の最終テストはB先生が担当だったのですが、テストが終わって受講生一人ひとりに直接講評を伝える際、「利用者さんへの声がけも丁寧で、完璧でしたよ。介護の仕事にとっても向いていると思います」と、笑顔で私に言ってくださいました。これがとてもうれしくて、「私、向いてるんだ。よーしがんばろう!」と介護職として働くことへのモチベーションが一気に上がったのを覚えています。
B先生にかぎらず、どの先生からも“介護職への愛”が伝わってきました。先生方のおかげで、介護職に対して非常にポジティブなイメージを持つことができました。それが、スクーリングで得た大切な収穫だったと思います。