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コマタエの 仕事も介護もなんとかならないかな?

新宿といえば…復興支援の物産展でよみがえる「きんつば」の思い出

駒村多恵さん

タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。石川県や福井県の名産品を集めた物産展を訪れ、記憶がよみった「きんつば」についてのお話です。

きんつば

先日、売り上げの一部が被災地に寄付される、石川県や福井県の名産品を集めた物産展が開催されると聞き、足を運びました。近年、物産展から足は遠のいていたのですが、子供の頃は、母に連れられてよく出かけていました。試食販売が楽しくて、様々なものを味見し、「これ、買って帰ろう!」と二人でわいわい言いながら、つい買い過ぎて帰ったものです。北陸地方だと、石川の小鯛の笹漬け、富山の白板昆布、福井の焼き鯖寿司、水ようかんも。今のようにネット通販が身近ではなかった時代、デパートの催事で目にし、口にし、知らず知らずのうちに地方の食文化を学んでいたように思います。今回も、買い物をすることでわずかながらも応援できればとの思いも相まって、かきもち、鯖寿司、日本酒などなど、様々なアイテムを購入しました。母には、きんつばを購入。あんこは母の大好物。祖母が小豆を栽培していて、よくあんこを炊いていたのです。そのあんこを餅でくるみ、窯に薪をくべ、大きなせいろで蒸してあんころ餅も作るのですが、それがまた絶品! つい食べ過ぎて、毎回苦しくなった覚えがあります。そんな美味しい記憶があるためか、あんこは親子でずっと好物です。

新宿で行われた物産展で購入したきんつば。母が食べやすいように手を加えていきます
物産展で購入したきんつば。母が食べやすいように手を加えていきます

30年ほど前、新宿東口の駅ビルの地下がまだ食料品売り場だった頃、店頭できんつばを焼いている店がありました。新宿に行くと、そこで焼き立てのきんつばを買って帰ったものです。大きな駅なので、西口エリアで用事があったら、そこから10分近く歩くことになるのですが、我が家は、父も母も、記念日に限らず、家族の好きな食べ物に出会ったらお土産に買って帰るのが常だったので、新宿に出たら、大体きんつば。焼けるのを待って熱々を持ち帰り、まだほんのりあたたかさが残るきんつばを頬張って、自然と笑顔になる。なんとも至福の時間でした。それだけに、閉店と聞いた時はショックでした。
今回の物産展の場所も新宿。そして、たまたま石川県の和菓子屋さんがきんつばを販売していたので、なんとなく、「新宿といえば、きんつば」の記憶がよみがえり、気がついたら行列に並んでいました。

最近の母は嚥下の具合が悪く、きんつばはいつも食べているアイテムではないので、念には念を入れて、嚥下リハビリテーションの訪問診療の日を待って、先生のチェックのもと提供することにしました。年末年始から崩れた体調は、一旦戻ったように見えて喜んだのも束の間、三歩進んで四歩下がり、もう半歩進めるか進めないかという状況。粒々の形状のものは、細かくて食べやすいと思いきや、大半を飲み込んでも残渣(ざんさ)が舌に留まる場合があり、それが不意に唾液を飲み込んだ拍子に、誤って気管に入ってしまう恐れがあります。安全第一。口から食べることにこだわるけれど、決して無理はしません。

きんつばは中身を取り出して粒をある程度潰し、牛乳を少しずつ加えて、今の母に合う濃度に調整。それを濾し器でペースト状にしました
きんつばは中身を取り出してすり鉢で粒をある程度潰し、牛乳を少しずつ加えて、今の母に合う濃度に調整。それを濾し器でペースト状にしました

診察の日。まずはテクスチャーチェック。すりこぎで粒々をつぶし、牛乳を加えた上で、濾(こ)します。もはや、きんつばではなくなりますが、潰しただけだとつぶれた粒がバラけるのでかえって危険度は増すような気がします。牛乳で少しずつのばし、母に適切なテクスチャーに仕上げました。
ペーストにしたものを提供してみると、先生方も驚きのスピードでゴックン!
「すごい! お好きなものは飲み込みが速いですね」
残渣もなく、綺麗に素早く食道へ流れていくのがわかりました。先生方も目を細めます。美味しいと感じることは、やはり大切。味の記憶に引っ張られて、この先も、美味しいものをたくさん食べてほしいものです。

物産展では、かきもちやあられなども購入しました
物産展では、かきもちやあられなども購入しました

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