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糖尿病になるともの忘れしやすくなる?関わりのある認知症の種類や対策について紹介

【糖尿病】認知症のリスク因子を知る(国際アルツハイマー病協会/Alzheimer's Disease International)
【糖尿病】認知症のリスク因子を知る(国際アルツハイマー病協会)

国際アルツハイマー病協会の2023年の標語は”Never too early, never too late”(「早すぎるということもなければ、遅すぎるということもない」)です。

認知症への向き合い方として、早ければ早いほどよいものもあれば、遅くても対策をすれば諦めることはないというものもあります。そのためには、まず認知症のリスク因子について知ることが重要であり、多くは日々の生活習慣に関連するものでもあります。12あるリスク因子の中から、その分野に詳しい有識者に認知症との関連や、できる対策について伺います。

第1回目の今回は、糖尿病です。多くの研究によって、糖尿病になると認知症になりやすくなることがわかってきました。なぜ糖尿病は認知症のリスクになるのか、すでに糖尿病を発症している場合、どうすれば認知症のリスクを減らすことができるか、高齢者の糖尿病に詳しい東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科 フレイル予防センター長の荒木厚医師に解説してもらいました。

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糖尿病と認知症の関係性

日本で糖尿病を発症している人は、予備軍を含めると約2000万人いると言われています(平成28年「国民健康・栄養調査」)。男性は5人に1人、女性は10人に1人くらいかかっている身近な病気ですが、イギリスの権威ある医学誌『Lancet』によると、高齢期(65歳以上)の糖尿病は、認知症のリスク因子の1つであるとしています。

「糖尿病が強く疑われる者」の割合(20歳以上、性・年齢階級別)/厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成。【男性/総数】19.7%【20〜29歳】0.0%【30〜39歳】1.6%【40〜49歳】6.1%【50〜59歳】17.8%【60〜69歳】25.3%【70歳以上】26.4%【女性/総数】10.8%【20〜29歳】0.0%【30〜39歳】2.6%【40〜49歳】2.8%【50〜59歳】5.9%【60〜69歳】10.7%【70歳以上】19.6%
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成

糖尿病は血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高くなる病気で、進行すると動脈硬化が進み、脳梗塞や心筋梗塞、狭心症を発症しやすくなるほか、網膜症、腎症、神経障害といった合併症を引き起こします。血糖値が高くなるのは、血糖値を調節するホルモンのインスリンの作用(働き)が低下したり、分泌の量が不足したりするためです。糖尿病には1型糖尿病や2型糖尿病などの種類がありますが、大部分を占めるのは肥満や運動不足など生活習慣との関連が深い2型糖尿病です。

患者に説明する医師、Getty Images
Getty Images

ではなぜ、糖尿病が認知症のリスク因子になるのでしょうか。1つは、糖尿病によって脳梗塞を引き起こしやすくなるためです。認知症は原因となる病気によって、アルツハイマー型認知症や血管性認知症などの種類があります。糖尿病の人は、糖尿病ではない人と比べて約2.5倍、血管性認知症を発症しやすいと報告されているのです。血管性認知症は、糖尿病の合併症の脳梗塞などが原因となって発症します。つまり糖尿病によって血管が障害されてつまることで、脳梗塞となり、それが血管性認知症の発症につながるというわけです。また、たとえ脳梗塞を発症していなくても脳の血流が低下することで脳の白質という部分に変化がおき、認知機能が低下しやすくなるとも考えられています。

一方、認知症の中で最も多いアルツハイマー型認知症については、糖尿病の人はそうではない人に比べて約1.5倍発症しやすくなると言われています。アルツハイマー型認知症と糖尿病との関連については、さまざまな研究が実施されています。血糖値が高くなる原因の1つにインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」がありますが、動物モデルの実験では、脳の中でインスリンが効きにくくなると、認知機能が低下することが明らかになっています。また、高血糖、重症の低血糖、血糖値の変動が大きいことも認知機能を低下させることがわかっています。

例えば空腹時血糖が300mg/dlを超えるような高血糖の場合、認知機能が一時的に低下することがあります。この場合、血糖値を下げることで、認知機能がもとに戻る可能性があります。すでに認知症を発症している人が一気に進んだようにみえる場合は、高血糖によって認知機能が低下している場合もあります。

また、糖尿病の人で認知機能が低下すると、インスリンなどの注射や服薬の管理がうまくできなくなるという問題も起きうるのです。

糖尿病でも治療を受けていれば、認知症のリスクは下がる

認知症になるリスクを下げるには、糖尿病にならないようにすればいいわけですが、すでに糖尿病になっている人がすべて認知症になりやすい状態というわけではありません。最も大事なことは、糖尿病であるにも関わらず、未治療の人が認知症になりやすいということです。糖尿病治療の目的は、血糖値を適正な値に保つことです。糖尿病でも治療によって血糖値をコントロールできていれば、認知症になるリスクを下げることができるのです。

血糖値が正常よりも高いけれど、糖尿病と診断されるほど高くはない場合、「糖尿病予備軍」と呼ばれますが、この段階でも認知症の発症リスクになるという報告もあります。このため、糖尿病予備軍の人も血糖値を正常に戻す生活習慣を意識することが大事です。

平成28年「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病患者の4人に1人は治療を受けていないことがわかっています。この中には、糖尿病の状態にあるにも関わらず、診断を受けていない人、診断を受けたにもかかわらず治療を受けていない人が含まれます。糖尿病は中年期から増えていきますが、年代別にみると、特に40代は治療を受けていない割合が高くなっています。

「糖尿病が強く疑われる者」の治療状況の年次推移(20歳以上、総数・男女別)/厚生労働省「平成二十八年国民健康・栄養調査報告」、「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成。【総数/平成9年】あり55.0%、なし45.0%【平成14年】あり48.1%、なし51.9%【平成19年】あり44.2%、なし55.7%【平成24年】あり34.8%、なし65.2%【平成28年】あり23.4%、なし76.6%【令和元年】あり23.1%、なし76.9%【男性/平成9年】あり51.0%、なし48.9%【平成14年】あり46.3%、なし53.7%【平成19年】あり43.1%、なし56.9%【平成24年】あり34.0%、なし65.9%【平成28年】あり21.3%、なし78.7%【令和元年】あり21.5%、なし78.5%【女性/平成9年】あり58.4%、なし41.5%【平成14年】あり50.5%、なし49.5%【平成19年】あり46.0%、なし54.1%【平成24年】あり35.7%、なし64.3%【平成28年】あり25.9%、なし74.1%【令和元年】あり25.2%、なし74.8%
厚生労働省「平成二十八年国民健康・栄養調査報告」、「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成
「糖尿病が強く疑われる者」における治療の有無(20歳以上、年齢階級別、総数・男女別)/厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成。【総数】あり76.9%、なし23.1%【20〜29歳】あり0.0%、なし0.0%【30〜39歳】あり75.0%、なし25.0%【40〜49歳】あり46.2%、なし53.8%【50〜59歳】あり77.8%、なし22.2%【60〜69歳】あり86.7%、なし13.3%【70歳以上】あり74.0%、なし26.0%【男性/総数】あり78.5%、なし21.5%【20〜29歳】あり0.0%、なし0.0%【30〜39歳】あり0.0%、なし100.0%【40〜49歳】あり57.1%、なし42.9%【50〜59歳】あり73.9%、なし26.1%【60〜69歳】あり88.9%、なし11.1%【70歳以上】あり75.5%、なし24.5%【女性/総数】あり74.8%、なし25.2%【20〜29歳】あり100.0%、なし0.0%【30〜39歳】あり33.3%、なし66.7%【40〜49歳】あり84.6%、なし15.4%【50〜59歳】あり82.9%、なし17.1%【60〜69歳】あり72.3%、なし27.7%
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成

糖尿病になると「のどが渇く・水をよく飲む」「尿の回数が増える」「体重が減る」「疲れやすくなる」などの症状がありますが、初期にはほとんど症状が出ません。また、高齢者は自覚症状が出にくい傾向があります。このため、健康診断で血糖値を確認すること、血糖値の異常を指摘されて糖尿病と診断されたら、薬物治療や生活習慣の改善によって、血糖値をコントロールすることが大事なのです。

実は最近の研究では、「GLP-1受容体作動薬」「SGLT2阻害薬」といった糖尿病の治療薬そのものが認知症の発症を減らすという報告が相次いでいます。まだ研究段階ではありますが、明らかになれば、糖尿病治療の意義がより高まるといえます。

糖尿病と認知症 対策には共通点が多い

血糖値をコントロールするには、薬物治療だけではなく生活習慣の改善も大事です。特に重視されるのが、肥満の解消です。肥満になるとたとえインスリンが多く分泌されても、うまく働かなくなることがわかっています。肥満を解消するためにも、血糖値をコントロールするためにも重要なのが運動や食事です。運動は有酸素運動だけでなく、筋力トレーニングを行うこと、食事は摂取カロリーを適正に保ち、野菜や大豆製品、海藻、きのこなどを多く摂ること、砂糖が入ったドリンクを控えることなどが大切です。ただし、高齢者の低栄養は認知症のリスクを高めるので、過度な食事制限には注意が必要です。

運動する夫婦、Getty Images
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糖尿病と認知症のリスク対策には、共通する点が多くあります。前述した『Lancet』では、認知症のリスク因子として12の項目を挙げていますが、「高血圧」「過剰飲酒」「肥満」「喫煙」「抑うつ」「社会的孤立」「運動不足」も糖尿病の発症に関わります。認知症はいくつもの要因が重なり合って発症すると考えられるので、当てはまる項目が多いほど、認知症の発症につながりやすいといえるのです。

受診しやすいが未治療も多い日本

肥満が糖尿病のリスクになることはよく知られていますが、糖尿病の人の中には、やせ型の人も多くいます。糖尿病にはインスリンが多く分泌されているのに効きが悪くなるケースとインスリンの分泌が低下するケースがあります。前者の場合は肥満が原因になりやすいのですが、後者の場合、遺伝的体質が関わります。日本人は欧米人よりもインスリンの分泌が低下しやすく、糖尿病になりやすい体質なのです。

糖尿病治療について日本は世界をリードしていて、健康保険によって治療を受けたり使える薬が幅広かったりと、きめ細かい管理がしやすい国です。それにもかかわらず、未治療の人が多いという現状があります。一度は治療を受けても、職場や社会でのスティグマ(偏見)などによって治療を継続できないという人もいます。現在、日本糖尿病学会をはじめ、国をあげて糖尿病に関する正しい知識を広め、治療を促す活動に取り組んでいます。

公園のベンチに腰を掛ける老夫婦、Getty Images
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糖尿病の治療をしっかりすれば、認知症のリスクはある程度減らせます。糖尿病と認知症のリスクを減らす対策としては上に述べたように中年期からの適切な血糖、血圧、体重の管理、運動、過不足ない食事のほか、社会参加など共通する点が多くあります。また、どの年代であっても糖尿病と診断されたら治療をしっかり受けること、そして治療を継続することが重要です。認知症の治療と同様に、医療者がより患者さんの生活の中の問題を知り、できることを考えられるようになると良いのではないかと思います。

認知症と糖尿病の関連について解説してくれたのは……

荒木厚・東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科 フレイル予防センター長
荒木厚(あらき・あつし)
東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科 フレイル予防センター長
1983年京都大学医学部卒業。89年同大にて医学博士取得。同年から東京都老人医療センター(現東京都健康長寿医療センター)内分泌科医員に。英国ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学の留学を経て、97年に同センターに復職。2019年より2023年9月まで副院長。現在はフレイル予防センター長、健康長寿医療研修センター長。
現在は糖尿病・代謝・内分泌内科、フレイル外来を担当。日本老年医学会専門医・指導医・名誉会員、日本老年学会理事、日本糖尿病学会専門医・指導医・功労評議員、日本病態栄養学会専門医・指導医・評議員、日本糖尿病合併症学会評議員、日本内科学会認定総合内科専門医・指導医。

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