認知症とともにあるウェブメディア

幸せケアプラン

お風呂なら好みの温度や時間まで ケアマネに伝わる好み・苦手の伝え方

ADL(日常生活における基本的動作)食事、着替え、身だしなみ、排泄(トイレ)、入浴、移動(歩く)

公的な介護サービスを利用する際に欠かせない「ケアプラン」。けれど、どのようなことが記されているのか、どんな目的があるのか、案外、知られていないのではないでしょうか。ケアタウン総合研究所代表で、ケアプラン評論家の高室成幸(しげゆき)さんが、「幸せケアプラン」づくりを指南します。

今回からはケアプランを「自分でデザイン」するための必殺の勘所をお伝えしようと思います。ただ単に一方的に困ったことや同情してほしいことをケアマネジャー(ケアマネ)の前で並べ立ててもなかなかあなたの「~をしたい」という意向は伝わらないからです。

まずはケアマネのみなさんの基本用語を知ることから始めます。プランニングをする際の専門用語にはいろいろとあるからこそ、知っておくと便利ですし、それを少しでも使うだけで「オッ? この利用者さん、家族さんはデキルぞ」とケアマネに思わせることができるかもしれません。

その一つ目が「ADL」です。

なんじゃ、そりゃ?と目を見はりたくなる方もいるかもしれない英語の3文字。これは次の言葉の頭文字からできています。
「Activities of Daily Living」

日本語では「日常生活における基本的動作(行動)」の意味です。みなさんが日常的にされている動作です。具体的には「食事・更衣・移動・排泄(はいせつ)・整容・入浴など」のことです。要介護認定の調査もこれらの動作の聴き取りが基本となります。
ここでもう頭がパニックっていませんか?

私はケアマネ研修ではできるだけ「漢字言葉」を使わないように、と伝えます。漢字言葉には同音異義語が多く、聴き間違いが起きやすいから。それに固い雰囲気がしますしね。さらに漢字が浮かばないと「よくわっかんねェ」となりやすいからです。

ケアマネが漢字言葉を「ひらがな言葉」に変換して話すだけで利用者と家族の耳にはちゃんと意味が届いてくれます。次が例です。
食事=食べる、更衣=着替える、移動=移る(多くは歩くという意味)、排泄=お通じ・排便・排尿・用を足す・もよおす、整容=身だしなみ・身支度、入浴=お風呂に入る
どうでしょう?
地方なら方言を使った「食べる=食う(くう)」といったように、よりぴったりくる表現もあるとお話しします。


実は、ケアマネさんたちは利用者のADLをつねに評価しています。アセスメントともいいます。ただ、それがちょっとザックリしているんですね。

次の3つが評価軸になります。
「自立、一部介助、全介助」
どうですか、この3段階自体、なんのこっちゃ?ですよね。これをひらがな言葉に変換するとこうなります。
「できる、一部介助がいる、できない」
ニュアンスがつかめてきましたか?

しかし問題はここからなんです。
仮に「食事ができる」と評価されても食事の種類にはいろいろありますよね。ご飯もの、汁物、煮物、麺類、肉類などです。これに好みのメニューもあれば味もある。使う食器だってさまざまです。
仮に「一部介助がいる」とされても、口元への箸を使った介助もあれば、食べる順番の声がけだけで良い場合まで幅広くあります。「できない」といっても、嚙めない・のみ込めないのか、そもそも心理的な原因などで拒食症のような摂食障害のために食事を受けつけないのかよくわかりません。

それを単純に「3段階」分類しているだけのことが多いのです。アセスメントシートには備考欄もありますが、私がこれまで見てきた中では、あまり表記されていません。もちろん訪問介護や通所介護、施設介護の各事業所で用意している介護手順シートに詳細が記載されていることもあります。あくまで身体機能中心で「本人のこだわり・好み」をていねいに表記している例は少ないです。

「さっぱりした髪型でお願いします」どんな? ケアプランづくりでも同じ〜自分の好みは具体的に伝えよう

だったらADLの項目で「自分らしさ」をデザインするためにどうすればよいでしょう? 必殺の裏ワザは「こだわりの好み」を正確に伝えること。けっして「ぜいたく・わがまま」だと気後れしなくていいのです。現場のケアスタッフにとって、このような「こだわり」を利用者が伝えてくれることは大歓迎なのです。
具体的に、例を挙げながらご紹介しましょう。

■食べる
・好きな食べ物
×中華料理➡中華料理の天津飯、×お寿司➡〇中トロ・ホタテ・イカ・ウニ、×洋食➡〇スパゲティ・ラザニア・ピザ
・好きな味つけ
×みそ煮込み➡〇八丁みそ煮込み、×みそ汁➡〇白みそのみそ汁、×お雑煮➡〇すまし汁のお雑煮、×うどん➡〇カレーうどん

■着替える
・好きな部屋着
×パジャマ➡〇イチゴ柄のパジャマ、×スウェット➡〇ピンクのスウェット
・好きな外出着
×オシャレなワンピース➡大きな花柄ワンピース、×和服➡大島紬(つむぎ)の着物

■身だしなみ・身支度
・好きな化粧品
×化粧品➡〇美白系化粧品、無添加化粧品、保湿成分入り化粧品
・好きな髪型
×さっぱりした髪型➡〇ベリーショートの髪型、ふんわりショートの髪型

■排便・排尿・お通じ、便意・尿意・もよおす
・排便・排尿する、もよおす
×排泄は問題なし➡〇自分でトイレに行き、排尿・排便ができている、×排便はある➡〇お通じはあるが、頻度が少ない、×トイレの訴え➡便意(うんち)、尿意(おしっこ)をもよおしたときに、介護者に話をすることができる

■風呂に入る
・好きなつかり方
良い例:40℃程度のお湯に肩までつかって5分間、つかるのが苦手でシャワー好き、入浴剤は泡系・薬用植物系・温泉系
・好きな洗う順番と洗身道具
良い例:洗う順番(顔→髪→左腕→左脚→右脚→右腕→おなか→背中→陰部→臀部)、洗身道具(例:布タオル、ナイロンタオル、スポンジ、へちま、タワシ、素手)

■歩く・異動する
・好きな場所
×外出が好き➡〇 △△公園の散歩が好き、×スーパーに行く➡〇スーパーに週3回は行く、×なんとか歩きたい➡〇杖をついて△△まで休みながらでも歩いて行きたい
・好きな店
×好きな店まで安全に移動する➡〇300m先のなじみの喫茶店バロンに転ばないようにシルバーカーで移動する

いかがですか?
イメージが少し湧いてきたのではないでしょうか?
「自分らしさ」を伝えるには「具体的」であること。これが一番です。

好きな中国料理もメニューだけでなく「四川風中国料理の・・・」と地名を入れる、「銀座の○○飯店の・・・」のように店名を入れる、「ピリッとした辛みが好き」と味覚を伝えるのもグッドです。
散歩ならば「チェック柄のジャンパーを着て小金井公園を杖をついて散歩したい」と服装や地名、建物名を入れるだけで歩いている景色までイメージできます。
ADLの自分デザインは文字だけでなく、写真(画像)や動画で伝えるのもよりリアリティーがあってグッド。裏ワザとして試してみましょう。

自分デザインとは「自分の好み」を具体的に入れ込むこと。
でもここで忘れてはいけないのは「自分の苦手・嫌い」も備考欄にしっかりと書き込んで伝えることです。
実は、もっと重要なのが、見た目でわからない「苦手な色、苦手な味、嫌いな場所」です。なぜ大切か。ただでさえ心身の機能が低下し体調が悪いうえに「苦手・嫌いなこと」を強いられると、誰だって、気分はさらに落ち込むもの。現場で「避けなければならない」ことはご本人にとって「苦手・嫌い」なことなのです。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア