認知症とともにあるウェブメディア

認知症4大タイプの症状と特徴 薬物療法を徹底解説 気になる新薬も

認知症に関する情報が増えているとはいえ、「もの忘れがひどくなる」というイメージばかりが先行している人も多いのではないでしょうか。認知症の代表的な4タイプの特徴と、間違われやすい病気、薬による治療法のほか気になる新薬について、認知症の最新の研究に取り組んでいる東京大学医学部附属病院早期・探索開発推進室の新美芳樹先生に解説していただきました。

※下線部をクリックすると、各項目の先頭へ移動します

4大認知症の特徴と薬による治療について解説してくれるのは……

新美芳樹先生
新美芳樹 (にいみ・よしき)
東京大学医学部附属病院 早期・探索開発推進室 特任講師
2011年名古屋大学大学院医学系研究科神経内科修了。春日井市民病院、岐阜社会保険病院、愛知医科大学脳卒中センター、名古屋大学医学部、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)脳神経内科学助教を経て、13年から厚生労働省老健局高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室 認知症対策専門官。15年から厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室 認知症対策専門官、藤田保健衛生大学脳神経内科学講師を経て現職。日本認知症学会監事。

【認知症とはどのような病気なのか】

「認知症」とは病名ではありません。認知症の原因となる病気によって「日常生活に支障が出る程度にまで認知機能が低下した状態」のことを指します。

認知症には、4大認知症と呼ばれる「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」「血管性認知症」や、“治る認知症”と呼ばれる病気など、さまざまなタイプがあります。
そのうちアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症は、「脳の変性疾患」といって、何らかの原因で脳の神経細胞が壊れていき、発症すれば基本的に進行していくという特徴があります。

認知症の症状は、原因となる病気が脳のどの部分で起こるかによって変わります。特徴をまとめました。

認知症に影響する脳の場所とタイプ別の関係。前頭葉・側頭葉 前頭側頭型認知症、海馬 レビー小体型認知症、頭頂葉・後頭葉 アルツハイマー認知症
認知症に影響する脳の場所とタイプ別の関係

【アルツハイマー型認知症の特徴】

アルツハイマー型認知症は、アルツハイマー病によって起こる認知症のことです。認知症の過半数を占める病気で、例外はあるものの、基本的には激しいもの忘れなどの記憶障害を中心とした症状が特徴です。

脳の頭頂葉と、側頭部の奥にある海馬(かいば)という部分を中心にダメージがあり、それが徐々に広がって萎縮していきます。頭頂葉が委縮すると、自分がどこにいるのかわからなくなる、家に帰ろうとして道がわからなくなる、などの症状が出やすくなります。海馬が萎縮すると最近起こったことを覚えられなくなり、聞いたことの内容や物を置いた場所が思い出せなくなるなどの症状が出やすくなります。

アルツハイマー病には脳に現れるいくつかの特徴があり、代表的なものに「アミロイドの病理」と呼ばれるものがあります。これは前頭葉や側頭葉の辺りに「アミロイドβ(ベータ)」というたんぱく質が溜まり、脳内にシミのようなもの(老人斑)ができていたらアルツハイマー病と診断される、というものです。
※ 詳しい解説はこちらにも

認知症を疑うたびに開頭手術をして脳の状態を確認するわけにいきませんから、「老人斑があるので、あなたはアルツハイマー病です」と診断することはできません。つまり、アルツハイマー病は、正確に診断するのが難しい病気ともいえます。そこで、場所や時間がわからなくなり迷子になるといった見当識障害や記憶障害など、アルツハイマー病の症状に当てはまっていてほかの病気はないことがわかってから診断を出しているケースが多いのではないかと思います。

【レビー小体型認知症の特徴】

レビー小体型認知症は、レビー小体というたんぱく質が脳内にたまる現象がみられるので、この名前がつきました。

脳にレビー小体がみられるほかの病気には、パーキンソン病があります。つまり、レビー小体型認知症は、パーキンソン病のきょうだいのような病気です。先にパーキンソン病の症状が出てから認知症の症状が出れば「認知症を伴うパーキンソン病」と呼ばれますし、先に認知症の症状が出てからパーキンソン病の症状が出れば「レビー小体型認知症」と診断されます。

レビー小体型認知症は、後頭葉にダメージが見られることが多くあります。後頭葉には、視覚野といって目で見た情報を処理する働きがあるので、ここの機能が低下すると幻視を見るなどの症状が出やすくなります。

そのほかにも、手足が震えるなどのパーキンソン病の症状、認知機能が良くなったり悪くなったりするなどの変動がある、抗うつ薬や抗不安薬などの向精神薬を使うと効きすぎて副反応が強く出る、などの様子がみられればレビー小体型認知症と診断されます。記憶力があまり悪くならないのも特徴の一つです。
※ 詳しい解説はこちらにも

【前頭側頭型認知症の特徴】

前頭側頭型認知症はその名のとおり、前頭葉や側頭葉を中心に異常なたんぱく質がたまって認知機能が低下する病気です。

アルツハイマー病が高齢の人に多いのに比べ、前頭側頭型認知症は比較的若い世代から発症しやすい病気です。海外では遺伝の要素があるといわれていますが、日本では遺伝の要素はほとんど認められません。
前頭葉は理性や人格と関係するので、前頭葉がダメージを受けると、活動的だった人が突然何もやる気が起こらなくなるなど、周囲の人に「突然、性格が変わった」などと感じさせるような変化(症状)が出ます。また、万引きをしてしまった原因が、このタイプの認知症だったという例もあります。

側頭葉がダメージを受けた場合には、言葉がうまくしゃべれない、相手の言っていることが理解できないといった言語に関係する症状が出やすくなります。

※ 詳しい解説はこちらにも

【血管性認知症の特徴】

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの「脳血管障害」に伴って認知機能が下がった状態のことをいいます。

血管性認知症は、かつてアルツハイマー病より多いと考えられていた時期がありました。これは、ひとつには、CTなどの画像で脳内を検査して脳内に梗塞や出血の痕があったり、これまでに脳梗塞や脳出血になった経験があれば血管性認知症と診断されることがあったことも影響していると思われます。つまり、高齢になると小さな脳梗塞の痕などは珍しいことではないので、それらがすべて血管性認知症にカウントされていたのかもしれません。

そうではなく、本来は「脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が起こったことによって、認知機能が低下した」という関連が認められて初めて、血管性認知症と診断されなければなりません。ただし、血管性認知症のなかには、はっきりとわかる脳梗塞や脳出血などがきっかけとなるのではなく、細部の血管の循環障害でいつの間にか起こるタイプもあります。

今のところ日本では、アルツハイマー型認知症に次いで多いタイプです。

※ 詳しい解説はこちらにも

【4大認知症以外で認知症の原因となる病気】

2013年に厚生労働科学研究「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」研究班が発表した「認知症の基礎疾患の内訳(面接調査で診断が確定した者978人)」のグラフを見ると、認知症と診断された人の中で4大認知症が原因だった人が約90%以上いたことがわかります。

一方で、4大認知症以外で認知機能を低下させ、認知症になる病気は70あるとも、100あるとも言われています。それらの病気が「その他」の約7.6%にぎっしり詰まっていると考えると、認知症の鑑別診断は難しいことがわかります。結局、長い間、本当の病名がわからずにいて、だんだんと病状が進み、いろいろな症状が出現してきてようやく「あなたはこの病気でしたね」と判明するケースもあります。

認知症のほとんどが4大認知症によるものですが、それ以外の珍しい病気が原因だった場合も含め、正確な病名が突き止められないこともあります。認知症の原因となる病気の比率。アルツハイマー型認知症67.6%、脳血管性認知症19.5%、レビー小体型認知症4.3%、前頭側頭型認知症1.0%、その他7.6% 厚生労働省研究班(2013年)
認知症のほとんどが4大認知症によるものですが、それ以外の珍しい病気が原因だった場合も含め、正確な病名が突き止められないこともあります

【認知症の特徴と薬物療法】

軽度認知障害(MCI)とは?

軽度認知障害とは、まだ本格的な認知症にはなっていないものの、ご自身や周囲から見て「何かおかしい」といった状態があてはまります。日常生活はできているけれど、認知機能検査を行ってみると一般的な点数よりも下回っていて、認知機能が低下していることがわかった、というような時期のことです。この段階ではほとんどの場合で原因となる病気はわかりませんし、治療薬も使われないと考えられます。

「軽度認知障害の診断にCTなどの画像診断を行えば、正確にわかるのではないか」と考える人もいるかもしれません。しかし、軽度認知障害は画像だけでは診断できません。

CTなどの画像検査は、認知症では2パターンの使用方法があります。1つは鑑別診断といって、認知症が進んだ際、どの認知症なのかを絞り込むときに使用するものです。
もう1つは、頭をぶつけたために脳内に血腫ができることで起こる認知症などの、いわゆる「治る認知症」ではないかを確認するときに使われています。これはおもに診断の初期に行わなければならないので、軽度認知症の段階でも使う医師は多くいます。しかし、あくまでほかの病気の可能性を探るために画像診断が使われるのであって、それだけで軽度認知障害と断定するのは難しいのです。

認知症の薬物療法

では、認知症だと診断された場合の治療薬について解説します。
アルツハイマー病、もしくはレビー小体型認知症と診断された場合には、「抗認知症薬」と呼ばれる治療薬があります。これは認知症の中核症状をいくぶん改善する効果はあるものの、認知症を完治させられる薬ではありません。
現在日本で処方されている抗認知症薬は、次の4種類です。

認知症の治療薬は2021年8月の時点で4種類。どれも認知症を完全に治す薬ではなく、記憶障害などの症状を和らげるための薬です。認知症の治療薬 アリセプト(ドネペジル塩酸塩)アルツハイマー病の軽度~中等度~高度に使える薬です。レビー小体型認知症にも使えます。レミニール(ガランタミン)アルツハイマー病の軽度~中等度に使えます。イクセロン、リバスタッチ(リバスチグミン)アルツハイマー病の軽度~中等度に使えます。主な作用:コリンエステラーゼ阻害剤とよばれ、脳を活性化させることで認知機能を改善させる作用があります。この3薬は同じ作用をもつ薬なので、併用はできません。興奮を促す作用があり、活動量が落ちたり、うつ症状が出ている認知症の人に有効です。メマリー(メマンチン)アルツハイマー病の中等度~高度に使えます。主な作用:「NMDA受容体拮抗剤」という作用をもつ薬で、上記3薬と併用できます。興奮を抑える作用もあるので、怒りやすい、興奮しやすい症状が出ている認知症の人に有効です。
認知症の治療薬は2021年8月の時点で4種類。どれも認知症を完全に治す薬ではなく、記憶障害などの症状を和らげるための薬です

アリセプト、レミニール、イクセロンは「コリンエステラーゼ阻害剤」とよばれ、脳内にある「アセチルコリン」という記憶に関与する伝達物質を増やし、脳を活性化させる作用がある薬です。興奮や怒りやすいなどの症状が出ている人は、より興奮しやすくなってしまうことがあるので、減量を考慮することがあります。

軽度から中等度の間は、3つのどの薬を服用しても構いません。薬剤には人によって合う・合わないということがあり得ますから、どれかを服用してみてあまり効果が感じられないようなら、担当の医師にほかの薬に変えてもらうことを相談してみるといいでしょう。

4つの薬の中で、メマリーだけが薬の作用が違います。脳内にある「NMDA受容体」という物質は、過剰に活性化してしまうと脳神経がダメージを受けます。アルツハイマー病の人は、この受容体が非常に活性化してしまっているといわれているので、ダメージを受けないようブロックすることで脳神経を保護する作用がある薬です。興奮やソワソワして落ち着きがなくなる「焦燥感」などの症状を抑える働きにも期待できます。
なお、血管性認知症では、血液をサラサラにする薬を服用するなど、脳血管障害の予防を行うことがあります。

【認知症の新薬「アデュカヌマブ」とは?】

2021年にアメリカで、「アデュカヌマブ」という認知症の新薬が承認されました。これは認知症の中でもアルツハイマー病の人であって、かつ非常に軽度な人やMCI(軽度認知障害)の段階の人にのみ認められた薬です。

アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβというたんぱく質がたまることは説明しました。このアデュカヌマブという薬は、そのアミロイドβを取り除く働きがある薬です。今まであったような、脳を活性化して(あるいは保護して)症状を改善する薬よりも、アルツハイマー病の原因を取り除くことで病気の進行を止めることができる可能性があるのではないかと期待されている治療薬でもあります。

ただし、日本ではまだ承認されていませんし、アメリカでもまだ本当にアルツハイマー病に効くのかどうか、市販後の治験を行わなければなりません。
加えて、日本でアデュカヌマブが承認されるかどうかは、まだわかりません。アルツハイマー病にしか効かない薬なので、そのほかのレビー小体型認知症や血管性認知症ではなく、確実にアルツハイマー病だと診断できる体制が整ったうえで使用しないと、混乱を招く恐れがあります。

アデュカヌマブ以外にも、脳の神経細胞が壊れていくのを防ぐ研究や、神経細胞に栄養を与えるような研究など、認知症を治療するためにさまざまな研究が進められています。将来的にはこうした研究が実り、さまざまな治療法を組み合わせて認知症を治せるように期待されているところです。

認知症の薬はいつまで飲めばいい?

抗認知症薬をいつまで飲み続けなければならないのか、飲むのをやめたら途端に認知症が進んでしまうのではないか、などと心配する人もいると思います。

これは専門の先生でも意見が分かれるところです。しかし私は、抗認知症薬は認知機能の改善を目指す薬ですから、改善の見込みがないくらい症状が進んだら、飲むのをやめるという選択肢があっていいのではないかと思います。

高齢になるとほかの病気も複数抱える人が増えます。同時に服用する薬の種類が増えすぎると、飲み合わせの問題や副作用なども心配です。
もし、医師から「薬が多いので、どれかをやめよう」という話が出たら、認知症の薬をやめるという判断は妥当だと思います。ほかの病気の治療薬を優先させ、その分、認知症は運動や食事に力を入れるなどの非薬物療法に切り替えると、かえっていい効果を生んでくれるかもしれません。

現在、認知症の人は非常に増えているので、おそらく誰もが一度は関わることがある病気といえると思います。両親が認知症になるかもしれませんし、自身や配偶者、友人がなることもあるでしょう。もはやひとごとではありませんから、認知症の人の困り事を周りの人が自分のこととして捉えて考えていただけたらと思います。

「認知症で困っていることがあったら、どうしたらそれを改善できるか」を周りの人が考え、協力してくだされば、認知症であっても自立した生活ができることもあります。認知症は完全に治す薬がないからこそ、薬に頼り過ぎることなく、家族のフォローや介護保険サービスを上手に活用し、生活を整えながらじっくりと付き合っていくのがよいでしょう。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

認知症とともにあるウェブメディア