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本から知る認知症

\新連載/ ピンピンコロリは幻? 医師が読み解く超高齢社会の現実

本から知る認知症
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認知症について知っておきたい基礎知識について、榊原白鳳病院(三重県)で診療情報部長を務める笠間睦医師が、お薦めの本を紹介しながら解説する新連載のスタートです。

皆さん、こんにちは。

これから、認知症関連の著書についてその内容をご紹介しつつ、みなさんに知っておいてもらいたい基礎知識をお伝えしていきたいと思います。
是非、覚えておいて頂きたいことは、クイズ形式でご紹介する予定です。

まず、社会学者の上野千鶴子さんが、超高齢社会を生きていくにあたって心に留めておきたい大切なことを、共著の中で、次のように語っています。

「健康な人間は障がい者になる可能性が滅多にないと思っているから、障がい者差別をする。でも高齢化すれば誰もがかならず中途障がい者になります。だから、逃げられません、という時代が来た。…(中略)…なのに、逃避というか、見たくない現実から逃げ隠れするんですよ。そうなる前にポックリ死にたいなんてね。認知症になってまで生きていたくない、死ぬ権利をくれと言うんです。この人たちは。」【上野千鶴子、小島美里『おひとりさまの逆襲 「物わかりのよい老人」になんかならない』、ビジネス社, 2023, p79】
おひとりさまの逆襲

“ポックリ死”の話が出てきました。世間では「“ピンピンコロリ”で逝きたい」という声もよく聞かれます。誰しも、最期まで元気に過ごしたいものですよね。

厚生労働省の審議会・中央社会保険医療協議会の2011年2月3日の総会でも、“ピンピンコロリ”について議論されたことがありました。
議事録では、「障害期間・要介護が増加して、そして緩やかに最期を迎える。これが日本人の9割以上に達します。急死率はわずか5%くらいでございますので、ピンピンコロリと亡くなるのではない」との有識者による発言が記録されています。
ピンピンコロリと急死率が近いとするならば、その率はごくわずかで、幻想であると言わざるを得ません。実際には、何らかの障害期間、要介護の期間を経験するのが現実です。

では、最初のクイズです。日常生活に制限が出てくる「不健康な期間」はどれくらいあるのでしょうか?

さくっとお答えします。
「不健康な期間」は、平均寿命と健康寿命の差で示すことができます。この期間は、2019年で、男性8.73年、女性12.06年です。
そう、10年前後の間を「不健康」な状態で過ごす覚悟をしておく必要があるのです。

さらに、上野さんは「認知症になってまで生きていたくない」というしばしば聞かれる声も紹介していましたね。
次に、2問目のクイズです。
95歳以上の認知症有病率は何%でしょうか?

認知症有病率については、2013年に発表された厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業報告書(研究代表者・朝田 隆.)で研究されています。
それによりますと、実は、95歳を過ぎますと、女性の84%、男性の51%が認知症になるとされているのです。認知症は、誰もがなりうるものとして備えることが大切なのですね。
(女性の認知症有病率が高いのは、平均寿命が長いことなどが一因とみられていますが、詳しい要因については判明しておらず、さらなる研究が待たれているところです。)
※認知症有病率については、東京都健康長寿医療センター研究所のこちらをご参照ください。

『認知症そのままでいい(ちくま新書)』の著者である上田 諭医師は、認知症について、以下のように述べています。

「『病気』と呼ぶのが適当なのか、そんな疑問すら湧いてくる。むしろ老化現象の一つあるいは性別や性格などその人の個性、属性とみるほうが正しいのではないかとさえ思える。…(中略)…世界一のこの超高齢社会で、今後認知症の人がますます増え続けることは確実である。」【上田 諭『認知症そのままでいい』 ちくま新書,2021, p28】

超高齢社会を迎え、「共生」社会の実現に向けた認知症にやさしいまちづくりに地域で取り組んでいくことが喫緊の課題であることをご理解いただけたのではないかと思います。もっと知りたいと思われた方は、お薦めの本も手にとっていただければと思います。

認知症そのままでいい

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