鬼嫁にいじめられている!? ご近所さんは噂するけれど…真の嫁の姿とは
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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うちの嫁は、鬼嫁らしい。
ご近所さんが、
「あのお嫁さんは年老いたお義母さんに、家事をやらせている」
とうわさしていた。
つまり私は、
『鬼嫁にいじめられる、かわいそうなお義母さん』
というとこかしら?
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「ピーマン買ってきて」
「花に水やって」
「机、拭いといて」
今日もあなたは、自分だったら、
ささっとできるようなことを、わざわざ私に頼む。
老いるほどにぼんやりする、私の日常が、
あなたに揺り起こされるみたい。
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「お義母さん、お願いします」
そうしていつも私の背を押して、
見守ってくれている。
『いつまでも元気でいてね』
そんなあなたの心を、背中に感じながら。
以前、待ち合わせで、高齢のお父様と一緒に
1時間近くかけて歩いてきた娘さんから、
お話を伺ったことがあります。
「車椅子を使えば、すぐに着く。
でもそれでは、父の足が弱ってしまう」
日々の歩行の積み重ねもあり、お父様は健脚とは言えずとも、
まだ外出を続けることができていて、にこやかにされていました。
続けて娘さんは、年老いて細くなったお父様の足をどこか申し訳なさそうに見ながら、
こんなふうに話されていました。
「車椅子なら、父も楽でしょうに。
鬼なんです、私」
——こんなにやさしい鬼が、いるでしょうか。
高齢の方といると、自分が気をまわして手を出してしまったほうが、
ご本人も自分も楽にすむだろう場面がよくあります。
けれど、結果としてそれが、
ご本人の健康寿命を奪ってしまうこともあるわけです。
車椅子に乗ってもらえれば、ものの10分で行けるところを、
お父様のペースに合わせて休み休み、時間をかけてくる。
高齢の家族に頼むより、自分でやったほうが気楽で正確な家事も、あえてお願いする。
そんな日常生活の中にある分かれ道で、
ご本人がその人らしくいられる明日のために、
心を鬼にして、立ちどまれるか。
私の心の鬼はどこにいるのか、と
胸に手をあてた出来事でした。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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