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幸せケアプラン

介護サービスの利用希望の羅列でいいの? ケアプランの「生活への意向」欄

「訪問介護に来てほしい」「車椅子を使いたい」「トイレに手すりをつけてほしい」「デイサービスは週4回利用したい」『それは、介護への意向・・・生活への意向をお伺いしたいのに・・・』

公的な介護サービスを利用する際に欠かせない「ケアプラン」。けれど、どのようなことが記されているのか、どんな目的があるのか、案外、知らないのではないでしょうか。ケアタウン総合研究所代表で、ケアプラン評論家の高室成幸(しげゆき)さんが、「幸せケアプラン」づくりを指南します。今回は、ケアプランの第1表にある「生活への意向」欄についてです。

今のケアプランの第1表には「本人および家族の生活への意向」と書かれている欄があります。だから、「ここには、ケアマネジャーさんに私の生活への意向を書いてもらえる欄なんだ」とすっかり思われるかもしれません。しかし、現実はなかなかキビシイです。
キビシイといっては元も子もありませんが、とにかく、意外と「生活への意向」は書いてもらえません。
まあよくあるのは
「デイサービスを使いたい」
「ヘルパーさんに来てほしい」
とか…。
これって生活の意向と思われます?

実は、この欄に記されていることの多くは「介護サービスの利用希望」なんです。
せめて介護サービス(例:通所介護、訪問介護、福祉用具)を使って「どのような生活を実現したいのか」が書かれていれば、まだマシ。現実は利用したい介護サービスのみ、だったりするのです。

かつては「介護の意向」 歴史的な経緯

どうしてこんなことが起こるの?と思われませんか。
なんか、モヤモヤしませんか?

これには歴史的背景が…!!!(ちょっとオオゲサですが)

実は、2000年に介護保険がはじまってから5年間は、なんと!!! この欄は「介護への意向」と記されていたのです。
本人の「生活への意向」でなくて「介護への意向」。
つまり「○○の介護を受けたい」を書く欄だったんです。

だから、書かれているのは
「○○デイサービスを使いたい」
「車いすを使いたい」
「オムツは嫌だ」
とかが中心だったんです。
当時はそれでよかった。まちがいではなかった。

ところが、その後、2001年にWHO(世界保健機関)で「国際生活機能分類(ICF)」が採択されました。その考え方が、日本でも導入されました。私の記憶では、介護保険が始まって6年目ぐらいのときでした。

それまで一般的だったのはICIDH(国際障害分類)の考え方でした。これは、障害のマイナス面に着目し、社会的制約=ハンディキャップとして捉える分類でした。
それと比べて、ICFは障害を社会的制約でなく「生活機能」として着目しました。生活スタイルは個人で異なり、それは生活環境などに影響するとし、それには「背景因子」と「個人因子」があると位置づけたのです。
とくに「個人因子」には「年齢、性別、性格、人種・民族、価値観、体力、能力、教育水準、職業」だけでなく「困難を克服した経験」なども入っているんです。「個性=本人らしさ、自分らしさ」に着目することを強調したことはとても評価できることでした。
さらにマイナス面(できないこと着目)でなく「プラス面」(できること着目、強み着目)を重視する点でも斬新でした。

国際生活機能分類・International Classification of Functioning ,Disability and Health(ICFモデル)/健康状態【生活機能階層】心身機能・身体構造(機能・構造障害)、活動(活動制限)、参加(参加制約)【背景因子】環境因子、個人因子 出典:世界保健機関(WHO)

このICFが広がり、制度改正の流れの中で、ケアプランの第1表も「介護の意向」→「生活への意向」へと変わりました。これはとってもよいことでした。自立支援をめざし「介護も望む生活を可能にするひとつの手段」へと認識が変わったからです。
手段(介護)が目的化すると「望む生活」がないがしろになってしまいがちです。「なぜ、これ(介護)を行うのか」があいまいになってしまうからです。
ケアマネジャーが学ぶ「介護支援専門員基本テキスト」で示されるケアプランも「生活への意向」に変更になりました。これはとても画期的なことでした。

ケアマネさんには「生活への意向」を伝えよう

「車椅子でも孫と旅行へ行けるようにしたいです」「いいですね。旅行できるように体力をつけましょう」

けれど…。あれからほぼ15年。今でも「介護への意向」ばかりが書かれている現実があります。
はじめに身についたスタイルからなかなか変われない、と苦労しているベテランのケアマネさんたちもいます。「生活の意向」を聴き取っているつもりが「介護の苦労と介護(サービス)への希望」ばかりを聴き取って書いている人がいます。
記入すべきことが「生活への意向」であることを研修でみっちりと学んだ新人さんでも先輩がそう書いているために「なぞって書いていたら、介護の意向に染まってしまった」という笑えないエピソードもあります。

それは「なぜか?」
利用者や家族が、まだまだ「介護保険は介護サービスを利用するための制度」だと思い込んでしまっていることが大きく影響していると思います。

しかし、使いたい介護サービスの羅列だけでは「これからどのような暮らしをしたいのか」は、伝わりません。みなさんから直接に「生活への意向(望む生活)」をケアマネジャーに具体的にエピソードを盛り込んで伝えていくことが重要です。
そうしないと、みなさんの「生活への意向」は、ただ「元気におだやかに暮らし続けたい」という、ありきたりの文例でまとめられてしまいかねません。前回の記事でお伝えした通り、ケアマネジャーが作成するケアプランはあくまで「原案」で、書き直してもらうことができます。納得できるまで、「生活への意向」を伝えていくようにしましょう。

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