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幸せケアプラン

ケアプランの「主訴」「意向」とは? 伝わりやすい言葉に言い換えよう

「生活の意向は?」「(意向って大げさねぇ・・・正直わかんないわよ)毎日ちょー暇でつまんない。誰かと食事とかおしゃべりとかもしたいけど・・・だるくて仕方ない」

公的な介護サービスを利用する際に欠かせない「ケアプラン」。けれど、どのようなことが記されているのか、どんな目的があるのか、案外、知られていないのではないでしょうか。ケアタウン総合研究所代表で、ケアプラン評論家の高室成幸(しげゆき)さんが、「幸せケアプラン」づくりを指南します。前回に続き、ケアプランの第1表にある「生活への意向」欄について考えていくために「意向」について深掘りします。

ようやくケアマネジメントの業界でも、アドボカシー(代弁機能)が重視されるようになっています。ここ数年は「意思決定支援」という用語がよく使われるようになりました。
認知症ケアでは「本人支援」「パーソンセンタードケア」という用語が浸透し、本人の声・気持ちに寄り添うことが一貫して重視されるようになってきています。

意思決定支援と言われても正直言って「?」という人も多いのではないでしょうか。実は意思決定支援には「意思形成・意思表明・意思実現」の3つのステップがあることをまず頭に入れてください。

まず、「意思」という言葉についてです。 
わかりにくいですよね。「いし」をパソコン変換すると「意志、意思、遺志」の文字があらわれます。意志は「志(こころざし)」が入っているように「志を遂げたい心のはたらき」。意思は「頭やこころで思う考えや気持ち」です。そして遺志は「故人が生前に果たせなかった志」のことです。
私は「思う」というところにこだわりたい。思いっていろいろで。かなり深い人もいれば浅い人・軽い人(失礼!)もいたりして。

では、どの人もすべてのことに明確な意思を持っているかというと…どうでしょうか?
それに、発するにも言葉が思いつかない・発語がうまくいかない人もいます。意思をなんとか表明できても、周囲が実現しようと思わなければ、「言い放し」で終わってしまいます。
だから意思決定支援では、実現まで支援するべきだとされています。

次に、ケアプランを作成する際に、しばしば登場する「主訴」と「意向」という2つの専門用語をご紹介したいと思います。どちらも「本人の気持ち」とカンタンにまとめちゃえばまとめられるのでよく勘違いされがちです。

まずは「主訴」について考えましょう。聞き慣れない言葉かもしれません。
「主訴」というのは専門用語です。読んで字のごとし、「主な訴え」です。
医療の現場では「患者が医者に申し立てる症状のうちの、主要なもの」といわれます。

が、介護の場合、訴えの主要なものといっても困りますよね。知覚的な症状——たとえば、しびれや痛み、だるさ、脱力のこと、なのか。それとも、それによって困っている食事や排泄(はい・せつ)、入浴のことなのか。そんな日常生活の困りごとだけでなく、友達に会えなくてさみしいなどの人間関係の悩みやペットを連れての散歩ができなくなってつらいといった訴えもあるでしょう。ちょっとニュアンスは違えど、本人の心にとってはとても主要な要素です。
人によって「主要なもの」とは実にさまざま。
なにはともあれ「主要な訴え」すべてが主訴といえます。

ならば、「意向」とは?
意思の方向性のこと。つまり「自分としてどうしたいのか」ということです。
日常会話で「意向」というのはあまり使わないので、ピンとこない人がいてもおかしくはありません。
では、本音や本心、本当の気持ちのような「生ナマしい心情」が方向性となるかというと、そうとは限りません。それぞれに抱える事情や家族関係、人間関係、地域の実情などがからんでくると、余計に話せなかったりするもの。現実にはそれらを踏まえた上で「自分としては~~をしたい」と語ることが多いのではないでしょうか。

意向には「どこか建前的なニュアンス」(そうなればいいな、しなければいけないな)が含まれていると私は考えます。
要介護となったご本人はさまざまな葛藤を抱えています。「やりたいけど途中で倒れたらどうしよう…」という不安が意向をためらわせてしまうことはあるでしょう。

「これからの生活の願いやご希望は?」「月1回は仲間たちとお食事会して、いっぱーいしゃべりたい」見て見て、写真と作品。手芸サークルだったのよ

では、「意向」の代わりに「願い」ならどうでしょう? 「望み」でもいいと思います。
みなさんはいかがですか? 「これからの意向を聞かせてください」と尋ねられるのと、「これからの願いやご希望を聞かせてください」と尋ねられるでは、どちらが話しやすいでしょうか?
おそらく「願いや望み(ご希望)」ではないでしょうか?
「生活への意向」を頭の中で「生活の願い・希望」と置き換えてみましょう。

実は、多くのケアマネジャーの悩みが、「認知症の利用者の方の意向をどう引き出すか」ということ。なにしろ、認知症の方に質問してもなかなか回答してもらえないことが多いから。結局、ご本人でなく、家族から聴き取った内容をそのまま記載するケアマネもいます。
もちろんそのような手段がまったく間違いとはいえません。ご本人の第一の理解者が家族であることも多いからです。しかし、「家族の意向中心」であることが往々にあります。

だからこそ、ご家族の皆さんには、じっくり時間をかけて、ていねいに、ご本人から、事前に「生活への意向」を聴き取っておくことをおススメします。発語がむずかしい方なら、家族アルバムやビデオ動画、写真などを材料にご本人とコミュニケーションをとってみてください。
そのやり取りをスマホの動画で収録しておいて、ケアマネジャーに見てもらうという方法もあります。ニュアンスも伝わりやすいですしね。もちろんエピソードも含めるとより伝わりやすいでしょう。
認知症のご本人の意向をどのようにケアマネに伝えれば良いかと悩んでおられるご家族は、ぜひ、試してみてください。

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