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いまの自分を知る旅

首を預けられる椅子が楽なので、フロントの椅子に腰掛けて、「なかまぁる」の原稿を書くなどしていました
首を預けられる椅子が楽なので、フロントの椅子に腰掛けて、「なかまぁる」の原稿を書くなどしていました

こんにちは、若年性認知症当事者のさとうみきです。
今回はひとり旅についての想いをつづらせていただきます。

4月に入ってから、わたしの心身の回復を待ってくださっていたかのように
講演会などの活動のご依頼も少しずつ全国から届いていて、とてもうれしく思っております。

そんな中で、やはり1番の心配事が、出かけた先で、体調を悪くしてご迷惑をおかけすることです。
“体調”と“体力”、そして苦手になってきた時間の把握と、どううまく付き合っていくか……。
そこでわたしは、自分に対して、チャレンジすることにいたしました。

その日は、午前中は朝からのオンラインの打ち合わせを終わらせたタイミングで、旅のサイトとにらめっこ。
さまざまなことを想定し、想像を膨らませながら、ひとり旅をイメージし“頭の中のキャンパス”に、描いていきます。

わくわく感と不安……。
万が一、途中で具合が悪くなったらどうしよう……。
そんな背中を押してくれたのが子どもたちでした。

そして、自分自身に問いかけるかのように……。
「大丈夫?」
「きっと、大丈夫だから!」
「きつそうだったら、早めに引き返そう…」

閉じこもり生活をする中で失った機能や時間把握の感覚を奮い立たせるように、
「わたしならできる、きっと大丈夫」と、自分への応援の気持ちを込めて、出発しました

休憩を入れながら
少しずつ 少しずつ自分の体力と体調を気にしつつ

お天気は、少し涼しいくらいで、温泉でゆっくりするには最適な気温でした。
到着したのは、箱根の中強羅駅近くにある、ホテル「箱根本箱」
ホテルのロビーの大きな一枚扉の玄関が開くと
目の前に広がるのは、天井の高さまでのステキな本棚。
そこには、たくさんの書籍が、一冊、一冊が芸術作品のようにそろえられています。

すっぽりと大きな“本箱”の中に入り込んでしまったかのような感覚にとらわれました
すっぽりと大きな“本箱”の中に入り込んでしまったかのような感覚にとらわれました

ここはホテル名に付いているように、まさに“本箱“です。
一歩足を踏み入れると、大きな“本箱”の中に迷い込んでしまったかのような、
非日常的な、なんとも言えない素敵な空間です。

この日のFacebookの投稿に、わたしはこんなことを記しました。

いつもはこの時間
自宅の寝室で見上げると
天井のクロス
そして窓のブラインド…

こんな景色も
もう12月から見慣れたもんです

安静にしていないと痛さはある

でも、それ以上に
大切なものを
失っていくことに
少しずつ気づく……

飛び出して行こう

まずはひとりで旅をして
どれだけの体力があり
どんなことが難しいかを知ること

夫も知らぬ間に
妻は、ことりっぷ

到着して
エントランスの扉が開くと
そこはクロスではなく

たくさんの本が
疲れた、ひとびとを迎え入れてくれた。
(一部中略。以上、Facebookの投稿)―

わたしは認知症との診断を受けてから、
活字が頭の中に入りにくくなり、記憶、記録することが難しくなりました。
特に最近は、しばらく、「なかまぁる」の連載も原稿や記録がとてもまとまりなく、
編集部に提出することも出来ず、“未完成の原稿”が、たまる一方でした。

しかし、まさにいま、
滞在中のホテルで、久しぶりの“原稿の神が降臨中”です。
“本箱”の雰囲気に身を任せていると、
不思議と“わたしなりの言葉”が、あふれてきました。

そして、「いまの自分を知る旅」は、カラダを休めてメンテナンスし、明日に向けて充電する時間を迎えます。

今日一日を振り返ります。
「あー、わたし、今日はしっかり生きていた!」
自分の足で、自分の体力の中でがんばってくれて、ありがとう。
これからもよろしくお願いします。

こうやって自分のことを知る旅
大切なわたしのこころとカラダにたっぷりの温泉の栄養をこれでもかと浴びよう。
自分へのご褒美と癒やしとリラックスのために、たまには贅沢(ぜいたく)を。
いまの自分を知ること、それは誰にとってもとても大切なことですね。

今回、宿泊した「箱根本箱」さんは、
おひとりでの旅の方も多くいらっしゃったので、ふらりひとり旅にも良さそうです。

メインダイニングのカウンターキッチンでいただく朝食は、地元のジャージー牛乳からスタート
メインダイニングのカウンターキッチンでいただく朝食は、地元のジャージー牛乳からスタート

キッチンカウンター越しに、おいしいお食事をいただきながら、ちょっとした会話も楽しむことができました。
スタッフの皆さまがとても親切で、心地良いひとり旅と思い出ができました。
会話を交わしたスタッフの方に、なんとなくわたし自身が認知症であることなどを話させていただいた時、「ご予約をいただいたときから存じ上げていました」との返答でした。
そんな言葉にうれしくも、ちょっと照れくさく感じました。
(実は、わたしは忘れてしまっていましたが、以前に夫と来たことがあったのです。)
でも、何も変わることなく、
ひとりの客として迎えてくださったホスピタリティー。

目の前に居るのは“認知症のあるひと”ではなく、
“ひとりの客”としての普通の会話は、
とてもあたたかくて居心地がよいもので、そんな時間は本当にありがたいことです。

わたしのことを知ってくださる方が増えたことで、
万が一、ホテルの中で迷子になってしまったり、何かわからないことがあったりしたときも、尋ねやすくなり、スタッフのみなさんに気にかけてもらえることでひとり旅でもホッとすることができます。

また旅をしよう!
これならきっとまた、ひとりで全国をまわれる。
迷子になったり、わからなくなったりしても、
たくさんの支えてくださる方たちにサポートしていただけるから。
そんな自分自身への自信を取り戻すこともできた、ひとり旅でした。

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